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子連れ竜生録  作者: こるり
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プロローグ  ~散歩とともに~

 

 「はぁ・・あ・・」

 長めのため息。ほんとに辛い。

 「はぁ・・あ・・」

 何度目かのため息のあと、ふと目線を下に向ける。

 もぞもぞと目をこすりつつ、自分に抱っこされた赤ちゃんの姿。

 目はこすっていても眠るような様子はない。

 今の時刻は朝の五時半。

 普通なら眠っているような時間だけども赤ん坊には関係ない話。

 それこそ、この三時間前にも大泣きしてミルクを飲ませてどうにか寝かせたわけだけども、また30分前に泣いて、起こされていろいろ試した寝かしつけようにも全然寝てくれない。

 寝かしつけるまでの過程を思い起こして、頭が痛くなる。ちなみに別に起こしてしまったわけではない。

 そもそも赤ちゃんの夜泣きの原因なんてわからないし、わかるわけがない。

 体内時計もまだ不完全なわけだし、お腹すいた。おしっこが出た。暑い。寒い。なんとなくetc・・・

 いろいろな理由からなるわけである。

 そのときそのときで違うものなのだ。

 三時間前はミルクだったが、さっきのは違うよう。ミルクも受け付けないし、おむつも確認したけども濡れてなかった。温度設定湿度設定確認しても適温適正、というか、よく寝ていた時の状態であったし、自分も静かにしていたはず。いびきをしていたか否かは不明だけども、一応、一人でこの子を見るようになって不安に駆られて録音してみていびきをかいていないという確証めいたものは得られた。

 そんなわけで今回はなんとなくなのかもしれないし、朝が近いからそれで覚醒したのかもしれない。

 覚醒、というところまで頭がいき、寝かしつけに関して諦めの文字がよぎったころ、泣きもひどくなっていたのでささっと、自分の着替えをして、この子には着替えて冷やしてしまうかもしれないと思い、寝巻きの上に赤ちゃん用パーカーと靴下履かせて外の空気を吸わせてみることにしたわけだ。

 以前に母からは 『夜中に起こされて何時間も外であやしていて苦労した』云々言われていたことでまぁ、大丈夫かなと思い、抱っこひもをつけて外に出た。

 抱っこ紐はちょっと高めのものだけども保温性もばっちりだし、何よりも以前安めのものでやって泣かれて苦労したので試しに評判のいいものを使用してみたら泣きもせずにこにこしていたことで非常に重宝しているものである。

 ○ルゴベビーさん、ほんとにありがとう。

 ってなわけで抱っこして今現在に至るというわけで外に出ているのだが。功を奏して泣き止んだ。

 心なしかたまに「うふうふ」と両腕をばたつかせていることもあったが割とおとなしくしている。

 本当にこの瞬間はほっとする。でも油断はできないし、それに今後のことを考えると違う意味でためいきが出てしまう。



 妻に任せられたらどんなにいいか・・・・・



 今は、どうしてかいない。遡ること四日前に、ふらっとどこかにいって行方知れずになってしまっていた。

 一日目は仕事から帰ってきて赤ちゃんはいても妻がいない。あまりにも奇妙な不安と動悸、そして恐怖にかられて近辺を探し回ったけども足跡も探せず焦りながら一日が暮れる。

 二日目は仕事が休日であったので多少冷静になって、手当たり次第に妻の友人たちに電話して消息を探るも反応なし。妻の親にも電話をしてもそっちにはおらず。というか、妻の親は父親はもう高齢でなくなっており、母親も福祉施設にいるのみ。

 私自身には弟がいるが両親も他界してしまっているので電話するのは福祉施設なのだがいっている気配は無し。

 三日目は仕事だったが有休を無理やり取り警察に消息届けを出しに行く。はかばかしい返事は来ない。

 そして今日で四日目。

 不安は消えない。

 最悪の事態まで考えてしまう。

 事件に巻き込まれたのかもしれない。

 それとも育児疲れからの気疲れでふらっといなくなってしまったのか。

 いなくなる前日から「疲れた」「もういや」など泣いて泣いて手こずっていたものである。

 私自身にも仕事はあるが、子供が産まれるということで家から近い仕事へ転職して、時間もなるべく残業の無いようにし、自分の友人との遊びも控えて、家事に育児にと少しでも負担の無いよう家族にと向きあえるよう

接してきたつもりであるが、今の仕事は夜勤もあれば、どうしても不規則な就業時間でのものであったので、一定した生活とは言い難かったかもしれない。

 常に一緒にいる生活というのは妻の様子をみると想像以上に辛いものなのかもしれない。

 良い面と悪い面ではどうしても悪い面が印象に残りやすい。

 そのため蓄積していくにつれ、どんどん悪化していったのかもしれない。

 もともと責任感の強い嫁だったし、全力でことに当たる性格だったから。

 今となってはもう遅いこと。

 それよりも早く何かの情報がきてくることを願って、それまでこの子を守っていかないといけない。

 

 あー・・・・・にしても、仕事はどうしよう、保育園とかそういうのを考えないといけないし、手続きとか・・・・あ、ご飯もこの子用のも考えないと・・・・・それ以上に、妻はいったい・・・・


 どうにもこの先今目の前の霧のように五里霧中である。

 ふと思う。

 朝ということと季節柄ということもあるけど、ほんとうにこの寒い時期、異常なほどの霧が発生している。

 ちなみに今自分が住まっているところは京都の亀岡というところ。

 別名を『霧の街』とでもいうのか、冬が近づいてくる時期から春先あたりまで、非常に深い霧が発生する。



 言ってしまえば『リアル<マ○ナカテレビ>』である。



 ちなみにこれはいなくなった妻が言っていた言葉である。

 妊娠前までややオタよりな感じだったし、自分も、まぁ、自慢でもなんでもないけどもいろいろと雑多に本読んだり、アニメやドラマみたりな人間だったので理解はしている。

  

 それはさておき、そんなわけでほんとうに深い霧に閉ざされるものでそれこそ何メートルも先が見えなくなるくらいに霧がこくなる。とはいえ、こっちも妻に引っ張られて越してきたとはいえ一年近くもいるのだから、地理も把握しているし、少なくとも道に迷うということはない。

 これは断言できる。特技と言ってしまってもいい。

 不思議と一度行った道は忘れないというか感覚で覚えていられるようである。

 これに関しては自慢できるものだけどね。

 ともあれ、今は漫然と歩くのもあれなので、近くのコンビニへ行って飲み物買って家に帰るというコースでいこうかなってちびのほっぺたつつきながら考える。


 赤ちゃんのほっぺたほんとにぷにぷに。


 「どうしたらいいんだろう」

 というか、どこか醒めた気持ちが幾分かあるのはそれはこの子がいるからなのかもしれない。

 もしもいなかったら自分自身がどういう行動をとっていたかは想像できない。それこそ、首でもくくっていたかもしれない。言い知れぬ恐怖から目をそらすために。

 でもこの子は今は自分しか頼れる存在がいない。

 だから、がんばるしかない。

 気をしっかり持たなくてはいけない。

 ただただこの子の存在だけを糧に、この子に精一杯笑いかけてあげる。

  

 それでも気が重いのは致し方ないが・・・・・



 つと、泣きも収まったことでちょっと帰ろっかなぁ・・・・


 と思った時だった。


 コン・・・・


 空き缶の甲高い派手な音がやけに耳についた。

 つと、その音の方へと振り向く。

 霧でどうにもぼんやりしているが、人影があった。

 セミロングのような髪の長さ。小柄な背丈。

 女性?

 小さな丸いカバンをもってどうにもこっちを見ているような気がする。

 なにせ、道路を挟んだ向こう側で立ち止まっているのだから。

 

 足が止まる。

 どうして?

 シルエットに見覚えがあるから。

 丸いカバン。

 そういえば、妻がいなくなってなくなった物に丸いかばんがあった。

 財布やはんこ、手帳といった貴重品をいれておけるだけの小さなカバン。

 どうしても足が止まってしまう。

 それになぜこっちを見ている?

 少なくとも立ち止まってむいている?


 「あのぅ」


 ふいに声をかける。霧がでているというのに声は乾ききったかすれ声になって響く。

 人影はその声に反応する。

 返事をするでもなくこちらに来るでもなく、踵を返して遠ざかろうとしている。

 


 追わなくちゃ。



 なぜ、自分でもこう思ったのか不思議に思う。

 だけど、見過ごせない。

 足が道路を渡ろうと、横断し始めた。

 その瞬間だった。




 キィオオオォォォ・・・・・



 けたたましい車のブレーキ音が近づいてくる。

 「え?」

 と、声を上げた瞬間。

 

 ドンっ!

 

 鈍い痛み。

 飛ぶ体。

 抱く息子の歪んだ顔。

 ひどく、ゆっくりと感じた。

 (あれ?)

 痛みよりも疑問が前進を突き抜ける。

 なぜ痛みが?

 どうして?

 浮いて?

 大きなトラックが傍に。

 赤ちゃん。

 (あ・・・!)

 霧で薄い視界の中、刹那の思考、わずかな時間であれ、息子を抱く力を強くした。

 地面に転がる瞬間まで、必死に、懸命に、無我夢中に・・・・


 (せめて、この子h・・・・・)



 霧が目の前を横切り、次いで、落下感とともに地面が眼前に迫った瞬間、視界も、心も、何もかもフェードアウトして・・・・・・



 なぜか、何かの咆哮が聞こえたような気がした・・・・

 






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


初投稿です。よろしくお願いしますです。

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