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我輩のドワーフは可愛い!!


 我輩は”ロリコン”である。


 それに矜持もあれば、誇りだって持っている。


 自分の美的感覚を信じるのに何を恥じるものがあろうか……。



 ――断じて否である!!



 ロリコンといえど、ただの変態と我輩を一緒にしないでほしい。


 我輩は”変態紳士”であり、『YES ロリータ!! NO タッチ!!』をわきまえている。



 決して届かず――近よれば……手折たおれてしまう花だからこそ美しい。



 ――だから今、我輩がしていることは眼の保養をさせてもらった返礼であり、その礼をする相手に決してばれるわけにはいかない。

 ……まあ、面識もないしな。



「ふぅ、こんなものであるか――」と”命綱”に繋がった状態で、ペンキを用いて壁に描いた絵を下からざっと見る。



 直下ちょっかであるからして、詳細は見えないが――この12階建ての高層マンションの窓を上手く……立ち上るであろう煙として表現し、



 朝日の照らされ”一輪の大きな花が咲き”――夏の夜の風物詩である《花火》が表現されている。



「命名は……”朝日に咲く幻の花火”――っと言ったところか」



 出来栄えに満足した我輩は対面の建物――天王寺病院の小児病棟の方に顔を向ける。


 今日は”北寺美好きたでら みよし”嬢の心臓の大手術の日だ。


 たまたま風邪で病院に行った際に――『花火大会行きたかったなぁ』という小学校低学年の幼女の嘆きを――聞いた我輩の行動は速かった。




 雑貨屋に命綱となるロープを買い――店員に長さからいっていろいろ突っ込まれたが……。


 さらにペンキを大量に買い――警察に非行へ走らないかと小1時間ほど問い詰められたが……。



 我輩はファッションでしているギザギザ眼鏡を指先で”くぃっ”と持ち上げ、紺色の学生服の上にまとった薄い茶色――いわゆる飴色あめいろのコートをたなびかせる。

 ちなみにオールバックにした我輩の髪は強い風で乱れている。



「美好嬢のご母堂に手紙は送ったし、恐らくは見られているだろう――っ!」



 遠目ではっきりとはしないが――いや、眼の保養にしてもらった猫のプリントをした寝巻きを着た美好嬢の姿が……涙を流し喜んでいる姿が!!


 我輩には見える!!


 見えなければ心眼で見ればいい!!





 ひとしきり興奮した後、



「さて、退散するとするか……これから警察に出頭しなければな――」と一晩お世話になった命綱を使い脚力を持って上へあがろうとしたのだが……。



――”ミチミチッ!”とロープから嫌な音が……



「ふむ、見たところ切れそうであるな」と我輩は冷静に現在の状況を把握はあくする。


 現在は十階付近におり、切れそうになっているのは十一階付近のロープで――あっ今切れた。



 ――一瞬の浮遊感の後、我輩の体は落下をはじめる!!



 落下速度は上がっていき、地面までの激突は一瞬のように思える。



 もし――もし自分が死ぬときに……言いたかった言葉がある!!



「――っ!


 我が人生一変の悔いなし!!


 だが、生まれ変わっても――幼げな花をでたいものだ!!!」


 人間は泣きながら生まれてくる――だからこそ死ぬ時は不遜ふそんな笑顔で死ぬと決めていた。

 だから空気抵抗ひどい中――笑顔でえた。




 ――幼女万歳っ!!!!




〜・〜・〜・〜・〜・〜・


「元気でね……美好ちゃん」


「あ、あの……おせわになりました!!」とフード部分が猫を模したパーカーを羽織はおった幼女が緊張しながらも看護士の女性に元気よく頭を下げる。

 その際に猫フード部分がずれてしまい、「仕方ないわね」と看護士の女性が直し、「……ぅん」と幼女――美好は恥ずかしそうにはにかむ。


 北寺美好の大手術は無事成功に終わり、それから二ヶ月経った残暑が残る早朝――数名の看護士と医師に見送られる形で、病院玄関付近で美好は両親と共にその場にいた。


 美好の両親は医師と話しており、両親に言われた通りに予約したタクシーに乗ろうとした美好だったが――


「……あのはなびはいったい――なんだったんだろう?」と首を傾げながら、その場からでも見える壁に花火が描かれた高層ビルを見る。

 手術が終わった時には消えていた花火の壁画――あれは幻ではなく、同じ小児病棟の友達や両親にも確認している。

 美好が疑問に思いつつも――あの朝日に照らされたいまだ脳裏(のうり)を離れない鮮やかな花火を目を閉じて思い浮かべ、


「……ありがとう」


 自分でも誰に送ったかわからない言葉をつぶやく。


「おーい、美好!! もう行くぞ!」と父親が大声でタクシー乗り場で手招きしている。


「わかった!!」


と元気よく右手をあげて、両親の元に向かう。




 美好は両親の元に向かいつつ――クラスメイト達との再会に心躍こころおどらすのだった。


 


〜・〜・〜・〜・〜・〜・

 

 いろいろあって、異世界転移した我輩がいる……。


 細かい諸々は正直どうでもいいし、事実として我輩はもう元の世界には戻れず――ここで残りの人生を過ごさなければならない。

 まあ、そんなことより最重要事項がある。

 ここはよくあるファンタジー世界だ。

 魔法と剣が活躍し、モンスターが跋扈ばっこし、冒険者ギルドがあり、種族間対立もあるラノベでよくある至って”普通の異世界”だ。

 よって、今いるこの国には奴隷制度があり、我輩はいわゆるチート能力を得て、各国の貴族やら王族やら出資して開いている闘技大会の予選を突破したお陰で賞金として多額の金銭を得ることが出来たので、奴隷を買い付けに来たのだ


 新しい装備の更新をしなくていいのか?


 ふん、そんなことよりもまだ見ぬ幼女の方が大切だ!!


 ここの奴隷は生殺与奪権せいさつよだつけんを主人に、完全に握られており、何が言いたいかというと――幼女が大変な憂き目にあっているというあってはならない状況なのだが、いかんせん奴隷は高い。

 正直、一人を買うだけで精一杯である。


「……」


 我輩の前に――口を真一文字にし、無表情かつ無言で我輩を見上げるドワーフの幼女がいた。


 すぐ近くに小太りの奴隷商人がおり、なにやらセールストークをしているが全く頭に入って来ず、耳を素通りする。

 応接間であるこの部屋は入った当初は趣味のいわゆる成金趣味で――別の意味で興味を引いたが……もはやそんなものは我が視界に映らない。


 むしろ――



 音も、



  背景も、



    自分自身すらも、



 ――意味のないものに感じられた。



 天井の照明は、


 彼女のところどころ跳ねた耳までかかったあざやかな黄緑の髪は――早春に芽吹く若草を想起させ、風が吹く草原で……日の光の中こそ映える髪のように思える。


 顔の造形はどちらかといえば凛々しく、ドワーフらしく鍛冶でもやっていたのか――細かな切り傷が顔、腕やその小さな手にところどころあるが……それは決して彼女の愛らしさを損なうもの等ではなく、

 ある種の――ええい、言葉で表現出来ん!!


 瞳は翡翠色ひすいいろであり、”とろん”としたどこか眠たげ印象を受ける。


 貫頭衣かんとういからわかるように――体形は全く起伏がない。

 むしろそれがいい!!






 我輩は困っていた。


 ドワーフの幼女――トルタ(奴隷商人に聞いた名前)――が質素なあんな格好ではいかん!! と思い、服(何故かツナギの作業服)を買ったのだが……。


 服を買った後――おもむろにトルタは我輩の右手を取り、歩き出したのだ。

 


 意図せずに『YES ロリータ!! NO タッチ!!』の誓いを破ったわけだが……、振りほどくわけにもいかずにそのままなすがままになっている。



 トルタの手は小さくて柔らかく――まるで突き立てのもちのようである。


 いかん、トルタのぬくい体温が手から伝わってきて――我輩の動悸どうきが激しくてやばい!!



 ――もうこの世に未練はないかもしれない。



 と、この世から解脱げだつしそうだった我輩はトルタが歩みを止めてことにつんのめりになりながら、なんとか立ち止まる。


「どうした? トルタよ――」


 無口なトルタは何も言わず、微細な仕草のみで目の前の古びた工房らしきものを指し示す。



「ここは……」



 我輩はほぼ素通りしていたが、トルタ関連の話は《瞬間記憶力》というチート能力で記憶していたので――勝手に検索されて内容を把握した。


「お主の工房は借金返済のカタに取られたのだったな。

 そういえば――奴隷になった原因は『貴族依頼の特殊な短剣』の材料費がかさんだことだったか」


「……」


 トルタの眠そうで無表情の顔に若干……影を落ちる。


 ――ある程度眺めた後、”くいくいっ”とトルタは我輩の手を引き、先を促す。


 何も言われてないが、どこか申し訳なそうな顔をしているような気がする。

 どうやら、”今までの生き方”との決別の意味も兼ねてここを訪れたようだ、

 『幼女検定一級』(勝手に試験を自分で作った)の我輩には無口な幼女の気持ちはわかる。


 よって――


「トルタよ。依頼を完遂してみぬか?」


「……?」




 我輩とトルタの間に――一陣の風が吹いた。





〜・〜・〜・〜・〜・〜・

 


 まあ、結果からいって、チート能力のある我輩には自前で材料などを用意するのなんて容易ようい――ではなく、岩石竜と戦ったときはさすがに肝が冷えた。

 ぼろぼろで――借金のカタとなっていたトルタの工房を買い戻した――我が家に戻ったときは涙目で”ぽかぽか”といや……”ぼかぼか”とトルタに殴られて死にそうになった……。


 ドワーフは腕力が強い――こんな細腕と関心してしまう……いろんな意味で。


「……」


 今トルタは熱心な表情で、短剣の仕上げに取り掛かっていた。


 仕上げた短剣をいろいろな動作で振ったり、さまざまな角度から表面をつぶさにみたり……などなど――もうかれこれ三時間はそうしている。


 そして――


 満足できたのか……上質な皮で出来た物入れに短剣をしまい――まっすぐ我輩を見たと思うと、




 ――腰を曲げて頭を下げたのだ――




「……」


 我輩は止めなくては……と思うと同時に、”いつまでも見ていたい”――とも思ってしまった。


 何故なら――それは職人としての魂がこもったものだったからだ。


 汚れた作業服の彼女は――ふつくしかった。








 我輩はトルタが短剣の依頼主に短剣を届けに行くのを貴族の屋敷が見える大木に背を預け――待っていた。



「ふっ。これから生まれる赤子の健康祈願か――めかけでは依頼料などたかが知れているだろうに……」


 昔かたぎで、もうけなど――いや、赤字覚悟でも自分の納得するもの作り上げる気概きがい

 世間では彼女を悪く言うかもしれないが……我輩は――



 ”ぽてぽて”とトルタが貴族の屋敷の門をくぐり、こちらを目指してやってくる。



 その眠たそうな無表情の顔は――そこはかとなく”やりとげたオーラ”をまとっていた。



「ご苦労様。どうやら喜んでもらえたようだな」とトルタに声をかけると、すぐそばまで近づいたトルタに右腕を思いっきりひっぱられる!!



「おわっと――」


 我輩の顔がトルタの顔に近づき――


 ”ちゅっ”という軽い音と共に我輩の左頬にいままで感じたことのない――柔らかな感触がする。


「ト、トルタ」



 我輩が見たトルタの表情はあまり変わらないが――頬がかすかに赤く染まっていた。



 我輩は気恥ずかしくなり、空を見上げる。


 雲がまばらで絶好のピクニック日和といった天気だ。


 ふと我輩の《瞬間記憶力》が仕事をしてある事を把握する――トルタは二十八歳で合法ロリなのだ。


 我輩――理性を保てる自信ないかもしれん。



 そんな我輩の心を知ってか知らずか――トルタの鼻歌が耳を過ぎった。


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