修理屋ムショ
パーツの欠損が激しかったり、グール自体に不良があったりする場合は基本的に廃棄するのだが、なんでもかんでも廃棄するわけにもいかない。再利用することが殆どなのだが、完成体のチェック時点で破損が発覚した場合は、修繕する。
その修理担当は、工場ラインから離れた、端の個室にあるモルグのような場所に居る。
十一時三○分。午前の一段落ついたところで、俺は破損グールを台車に乗せて運ぶ。
修理室、とプレートの掲げられた両開きの部屋。手術室を彷彿とさせるドアをくぐると、その先には一つの大きな台と、そこに乗る解体中のグール。飛び散った血液が床にこびりついて黒く染まっている。
ラインなんかメじゃないくらいの腐臭が漂っていた。こんな所で作業なんてよくやっていられる。
床には無数のグールが床そこらじゅうに転がっていて、それにならって俺も壁際に十三体のグールを並べる。
「チス、ムショさん。よろしく」
なんの作業をしているかわからない。溶接しているのか、激しく火花を散らし、溶接用手持ち面で顔を隠している作業員は、その手を止めてゆっくりと顔を露わにした。
紫がかった艶やかな黒髪。無理やり切ったかのように、襟足がハリネズミのように跳ねている。
黒く落ち窪んだ目。通った鼻筋。白よりも白すぎるくらい白い肌。淡いピンクの唇。
暗そうな女の子は、少し戸惑った様子で俺を見ている。
「十三体不良出たんでお願いします。不良部位の説明、置いとくんで」
ポケットに折りたたんでいた紙をグールの上に乗せておく。
「ち、……チス」
小さな声で彼女はそう言った。
ムショ。ムショが通称なのはさすがに当然だが、その由来もなかなか酷い。
コミュニケーション障害のコミュ障と、ムショ帰りとをかけているらしい。酷い。さすがに同情する。
俺が思うくらいなんだから、普通に考えて相当ひどい。
言いながら、彼女は床に置きっぱなしになっている簡易ドリルを手にとった。腕に装着して稼動できるタイプだ。
「相変わらず無愛想っつーか……って、おい! ドリルじゃ穴開くぞ!」
そこで初めて気がついたかのように、己の腕を見てあわあわ言ってゆっくり地面に置く。あわてんぼうなのか、冷静なのかよくわからない。
なんにしろ人見知りで、一瞬でも人が通ればすぐにテンパるし、こうして慣れた仲でもカチコチに緊張してしまう。小動物のような姿に愛らしさを見た俺でも、作業中の凄惨さに心に傷を負わずにはいられなかった。
「あ、ああ……あ、あり、あり、が、と」
「じゃあな。怪我しないように気をつけろよ」
「わ、わ、わわ、わか……ってる。から」
「ったく」
俺は大きく息を吐いて、改めて作業場を眺める。本当に死体安置所のような場所で、凄惨極まりない。というかグロい。
壁にかけられている肉断ち包丁から、刀から、のこぎり、チェーン、杭にハンマーにつるはし、鎌。
彼女のエプロンにはトンカチからペンチ、他種類の釘やネジ、ドライバー各種。よくあんなので肩がこらないものだと思う。
というかそれらをどうやって何に使うのか。
まったく、想像だにつかない。
ラインに戻ると、時刻は既に十二時を回っていた。やっべ、さっさと休憩にいかねえと。
「親友らしく、みんなの為に握手しようじゃねえか」
そんな声が、ラインの奥から聞こえてきた。
「元気かよ、相棒! 俺たちはすっかり仲直りしたんだ」
恐る恐る俺は歩み寄る。この声は、間違いない。
ちら、と声のするほうを覗いてみる。すると、影のシルエットになったヤツが何かをしていた。
「はっは! あんたは俺の相棒だぜぇ」
腕らしき何かを持って、背中を叩いたり顔を撫でさせたりしている。腕はもしかしなくても、グールの腕だ。
「てっ」
てめえ、と怒鳴ろうとした瞬間、俺の背中を叩いて制する影があった。
そしてその人物は、大きく息を吸い込み――。
「ヤマザキィィィィッ!!」
リーダーは過労で死にゃしないか、という心配が脳裏によぎった。