新飲料! グリエリアス!
新飲料発売、の見出しが一年以上前からある。そこは食堂端の飲料の自動販売機前。
隣にはカップ麺や菓子パンなどの自販機もある。だがどうしてもメインは飲料水。
俺が目を奪われるのは、やはり新飲料、とポップの貼られた奇妙なドリンク。
その名も『グリエリアス』。エナジードリンクなんか目じゃない値段と、缶に記されているキャッチコピーに興味が絶えない。
今日はやけに疲れた――五月なのに気温が三八度という夏日ということもあったし、ヤマザキが一〇〇体ものグールでドミノ倒しをしてしまったこともある。とにかく、今日は疲れていた――。
グリエリアス。
それは研究部の主任発案で生み出された奇妙なドリンク。スポーツ飲料とも、清涼飲料とも判別がつかない。
彼女はそれを、隣接する食品工場本社に持っていったらしい。これを発売してくれ。多少の改良は許す。そんな傲慢な態度が故か、そもそものドリンクとしての面に不良がありすぎたのかわからないが、ともかく断固として断られたらしい。
その後こっそりとカンパーニ嬢が食品工場に持っていかされていたが、何をしでかしたのか泣きながら帰ってきたという。
その末、研究部主体で開発されたこの『グリエリアス』はアクエリアスを彷彿とさせるネーミングと共に、工場内限定の商品として、食堂と玄関前の自販機に、おこがましくとも正規のドリンクと肩を並べた訳である。
買ってみた先輩に、あるいは買わされた同僚に、なぜか持っていたヤマザキに味を聞いてみても「飲めばわかるさ、迷わず飲めよ」と詳しいことは聞けなかった。
そんなドリンクを、買おうと俺は決意した。疲れていたのだ。真新しい商品に目がないミーハーだし、ドクターペッパーだって、ルートビアだって美味しく飲めた。まずくても、健康に影響を及ぼすようなものがあるはずがない。
俺は自販機にコインを落とす。チャリン、チャリン、と計三二○円が吸い込まれた。
ボタンを押す。ガタン、と缶が落ちた。一六○ミリリットル程度の細い缶。ビールでもぼったくりレベルの値段だ、と思う。
パッケージには、タイムカードと同じようなグールのマスコットキャラクターが、上を向いて缶から射出という勢いで発射している液体を飲んでいる絵が描かれている。どこかアメコミチック。
裏のキャッチコピーは、『これが真飲料! 圧縮還元スーパードリンク』と書いてある。何を圧縮し何を還元しどうスーパーなのかはわからないが、ニュアンスだけは理解した。
プルタブを開ける。プシュ、と小気味よく空気が抜ける音とともに、香ばしい香りがした。おじさんの足の匂いのような香ばしさだった。
おかしいな、ドリンクなのに。
「……行くぞ!」
俺は勢いをつけて、缶に口をつけてグールよろしく天井を仰いだ。重力の要らぬ気遣いで液体は口腔に流れ込み、喉元までを一気に満たす。
瞬間、己が吐血したのか、そもそも液体が赤いのかはわからないが――ともかく俺は、口から大量の赤い何かを吐き出して、卒倒した。
後頭部を打つ硬い床の感触が、最後の記憶だった。
意識が蘇ったのは午後三時三○分。
俺は早退した。