第2話 覗かなければ中の様子は分からない
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「メイさん元気かなあ」わたしは夫に聞いた。「さあな」夫はいつも冷たい。クールな性格なのか、自分のこと以外無関心なのか。でも、わたしはそういう彼に惹かれた。
わたしたちは昔住んでいた町に引っ越している途中だった。
メイさんは近所に住むおばあさんで、いつもよくしてくれた。そんな思い出話をしながら、夫の運転する車で町に向かった。
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「まさ、あれ見て」
桃の指さす方向を追い、真和は空を見上げた。
公園の林の真上にUFOらしき物体が浮遊していた。
「UFOだよね」興奮する桃に真和は「違うよ。あれはおもちゃだよ。今流行りのラジコンだよ」と適当に言った。
「嘘だ。絶対本物だよ」
「桃は本物を見たことがあるのか?」
「この前テレビで見たもん。生では今が初めて」あのテレビを信じるのかと思った真和は聞かなかったふりをした。「あのラジコンの操縦者は上手だな」
二人の足は自然と公園の方へと向かっていた。
「あれが本物だったら私の勝ちね」と言い、桃は真和の腕を引っ張った。それにつられた真和は早足になる。
気が付いたらUFOの姿はなくなっていた、真和はビデオでも撮っておけばと後悔した。
公園にはピクニックにきている親子、ベンチで本を読んでいる女性、スケボーを楽しむ青年さまざまな年代の人がいた。
この人たちはUFOに気が付いたのかと真和は思った。もしかして、この人たちが宇宙人ではないかとも。
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「この書類どうしますか?」書類の束をかかえた部下が美奈に訪ねてきた。
「適当にやっといて」
パソコンに向かったまま答えると、部下はムスッとした顔で賢太郎みたいだと言った。
「分かった、分かった」美奈は書類を棚にしまうように指示をした。
「美奈さんは賢太郎のことどう思っているんですか?」
賢太郎は自分のことを嫌う部下が嫌いだった。元課長もその一人だった。
賢太郎曰く、つい飛ばしてしまったらしい。
「今ごろ、元課長はどうしてるんですかね」
「さぁね。とにかく賢太郎は嫌いだよ」
「ですよね、ですよね」部下は同志を見つけたかのようにはしゃいだ。
そんなにはしゃがなくても、ほとんどの人は同志だよと思った。
お昼休みも終わるころ、美奈の携帯にメールが届いた。
『今度会いましょう』
大学時代からの友人からだった。
画面を覗いた部下が「もしかして彼氏ですか」と、はしゃいだ。
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「いつ来ても、この町は変わらないね」
という言葉をわたしは言いたかった。
近年、町の都市化は進んでいた。町には高層ビルがいくつも立ち並び、結構高いタワーも建設中だった。幸い、昔住んでいた地域は変わっていなかった。時代の流れに乗れなかったようにも見えた。
「いつ来ても、ここは変わらないね」
さっきの代わりに言ってやった。夫はこの言葉に対してまったく反応しなかった。そのまま無言で指を指した。
わたしは夫の指した方向を見た。
『都市計画予定地』
というポスターが貼ってあった。詳細は見なかった。
「いつか、ここも変わるそうだ」夫はわたしにそう言ってきた。少し笑いながら。
夫と引っ越す家に着いた。いわゆる
『引越計画予定地』
だ。わたしは思いついたが、口には出さなかった。きっと、また夫が馬鹿にする。
引っ越す家は昔住んでいた家とそんなに離れていなかった。だから、すぐに周りの雰囲気には慣れた。今日の夕飯はそばにした。
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あれは本当に本物のUFOだったのだろうか。真和は悩んでいた。
「何悩んでいるの。もしかして、夕飯のこと?」
「違う。さっきのUFOのこと」
「あぁ、もうそれはいいじゃん。きっと本物だったんだよ。じゃあ、今日の夕飯はハンバーグね」
「もうUFOはどうでもいいのか」
「うん。今は早くハンバーグが食べたいのです。まさの手作りで」
UFO型のハンバーグにでもしてやろうかと真和は思った。
「かっこいい」桃は真和に向かって言ったわけではなかった。
桃の目線の先には、老若男女誰が見てもかっこよく見えるような男性がいた。
「クールな男だ」今度は真和が言った。
二人してクールな男に見とれていた。
これ以上見ていると、桃が惚れてしまう。そう思った真和は桃の腕を引っ張りスーパーに向かった。
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隣にクールな男がいる。「電車内で化粧する人嫌い」目の前の席を見て彼がそう言ってきた。
「へー」美奈は興味なさそうに答える。
「美奈さんはクールですね」
「そんなことないです」
「そうですか」
彼の言った言葉で会話が終わった。
レストランに入ると会話が始まった。
「美奈さん何食べますか」
「パスタでいいよ」
レストラン店員や店内にいる女性はみんな彼のことを見る。
それだけ魅力ある人だが本人は気づいてないらしい。
美奈がパスタを食べているときに彼は聞いてきた。
「最近、何か変わったことありますか」
「最近?」美奈は少し間を空けて「あんたが連絡してきたことかな」と、とぼける。
「それもそうですけど、それよりも前のです」
「そうねー。上司が変わったことぐらいかな」
「そうですか」
「何で笑ってるのよ」
「いや、別に何も無いです」
彼がニヤニヤしながら答えたのを疑問に感じたが、すぐに忘れた。
ここは僕が払いますと彼が会計を済ませ、外に出た。
「今日はありがとうございます」
「何もしてないけど」
「まあ、気にしないでください」
と言い、彼は帰っていった。
結局なんだったんだろうと美奈は思ったが、すぐに忘れた。
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2012年人類滅亡から何年も経っていた。要するに、人類は滅亡していない。
『…文明から伝わる…』
夫と一緒に超常現象を扱うテレビ番組を見ている。
さっきまで未確認何とか映像のコーナーだったが、気がついたら学者同士の討論合戦になっている。
「結局人類は滅亡していないじゃない」
『そんなことないだろ』
わたしの発言に合わせてテレビが言ってきたのかと思った。
ちょうど討論している批判側の学者の発言だった。
「そんなことないと思う」
今度は夫の発言だった。
「実際に私たちの知らない名も無い文明が滅亡した可能性もある。彼らにとっては滅亡と感じたはずだ」
珍しく真面目だ。いつも真面目だが、そのいつもとは雰囲気が違った。
「だから、今ここで私が十年後に人類が滅亡しますと言っても、的中する可能性が高いんだ」
本当にわたしの夫かと、問いかけたくなった。
連絡が来ていた。少し前に知り合った人からだった。
『話があります。公園に来てください』
本文に書いてある日時を確認してメールを返した。
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「で、その後どうなったんですか」
桃は春雨スープを飲んでる上司に聞いた。
「そんなにはしゃいでないで、さっさと食べなよ」
桃はカルボナーラを口にする。
「話そらさないで下さいよ」
「何でよ」
「特に理由はないですけど」
「ならいいじゃない」
「そんなぁ」
桃に向かって上司は笑っていた。
「でも、世の中って狭いですね」
「どうして?」
「だって、あの日あの時同じ場所にいたんですよ」
「私は気づかなかったけど」
「私もです」
二人は可笑しくなって笑った。
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再び彼から連絡がきた。
『また会いましょう!今度は友達も一緒です』
美奈は周りに部下がいないことを確かめて、返信をした。
約束の場所は家から少し離れた公園だった。
美奈は空いてるベンチを見つけ、座って待つことにした。
公園にはピクニックに来ている親子、スケボーを楽しむ青年、UFOが飛んでいた。
美奈は本を読み始めた。
『私は蚊帳の外』
一人の主人公の周辺で事は起こるが、主人公自体の生活にはほとんど影響はない。そんな物語。
「美奈さん」
声が聞こえた方を見ると彼がいた。
「もう少ししたら友達来ますから」
「友達って誰よ。あんたの彼女?」
「ま、そんなとこです」
美奈はさっき見たことのないようなものを見たということを話してみようと思ったが、話に確信が持てなかった。
「あ、こっちです」
いきなりのことで、美奈は驚いた。ついに彼女が来たのかと。
「こっちです」
彼は大きく手を振っていた。
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約束の日時に公園に行くと、ベンチにはカップルにしては会話の少ない二人組がいた。男の方は知った顔だった。
わたしがベンチの方に近づくと、その男がわたしに気がつき、手を振った。
「あ、こっちです。こっちです」
クールな男はお互いの女性を紹介し始めた。
「この方は京子さんって言います。僕の仕事の関係で知り合いました」
紹介されたわたしは目の前にいる女性に会釈をした。今度はわたしに向かって言ってきた。
「で、この方は美奈さんです。僕の友達です」
美奈はわたしに向かって会釈を返した。
「仕事って、何をしてるの?」美奈が男に問いかけたが、返してくれなかった。
男は時計を見てから、わたしたちに言った。
「もう少ししたら、もう一人来ますから」
「「彼女さん?」」わたしと美奈は同時に反応した。
「何ですぐそうなるんですか」
「「だって」」この後に続く言葉は二人とも分かっていた。
「今日はハーレムですね」
男は本気か冗談か分からないぐらいの雰囲気で発言した。
少しすると、このベンチの方に来る人影が見えた。
深く帽子をかぶっているので誰かは分からなかった。しかし、女性ではあることが分かった。
わたしは彼女が香織だということに気が付くのには少し時間がかかった。
「みなさん聞いてください」三人の女性を前にしてクールな男が話してきた。
わたしは一人の男を奪い合う女の一人として見られるのではないかと心配した。
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「元課長は今も元気よ。ものすごくね」意味深に笑って話していた上司の顔を桃は忘れられなかった。
「何やってるの」
桃は公園で真和を見つけた。UFOが飛んでいた公園だ。
「いや、ココにいればまた見れるんじゃないかと」
「で、結果は」
「まだ見れていない」
少しだけ桃は真和に付き合うことにした。
桃はふと、上司との会話を思い出した。
「私たちがUFO追っかけた日にね、この公園に香織アナウンサーが来たんだって」
「それは本当なのか」真和はUFOを発見した時よりも驚いた。
「うん。私の上司が言ってた」
「え、桃の上司もここにいたのか」
「そうみたい」
「世の中狭いな」そう言った真和が笑うと、桃もそれ私も言ったと笑った。
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「メイさん元気だった?」昔よくしてくれたメイさんに会いに行った私に妻が聞いてきた。
「メイさんはもう…」私の言葉に妻は察した。
「でも、小さかった奴が大きくなっていた」
妻はなんのことか分からなかったらしい。
「光太だよ。光太に会ったんだ」と、私が言うと妻が驚いていた。
「えっ、光太に会ったんだ」
「ああ、メイさんがいなくなって、挨拶する相手が減ったって悲しんでたよ」
「奇遇ね。わたしはこの間、香織に会ったけど」この発言にはかなり驚いた。
少し前まで、小さなコーナーを担当していた彼女が今ではメインで働いている。その彼女が自分の妻と会っていたのだ。
最近知ったが、妻と香織アナウンサーは昔からの知り合いだった。このときは今の何十倍驚いただろうか。
今聞いている妻の話が重要に感じた私は気が付いたら身を乗り出していた。