部分記憶消去人
《登場人物》
ナオキ・ステッド 記憶消去人
ジョディ・マリッサ 依頼人
カイル・K・エルドー 記憶消去対象者
2034年……高度発展した都市では、人間の記憶や映像などを自分の脳内に記憶AIチップを埋めて記憶し、人々は安全な生活をしていた。だが、最近では、《部分的記憶消去》という違法犯罪が多発していた。その犯罪は、特殊な銃で人々の対象の部分的記憶だけを消去するものだった。
しかし、唯一、連邦政府に認可された記憶消去人がいた。それがナオキである。
ナオキは、政府の重鎮や首脳の依頼を受けて記憶消去を行っていた。仕事をこなし、記録を連邦政府に送る。実際、ほとんどの仕事は裏情報のオンパレードで、大物議員の不倫スキャンダルや汚職、軍の最新兵器情報の洗浄ばかりで流出すれば、大問題間違いなしだが、彼は気にせず仕事をしている。
「今回の依頼はやけに特殊だったのを覚えている……」
深夜
いつも通りに仕事を遂行し記録を政府に送り終え、休もうとした矢先に、ナオキの自宅の前で、一台の黒い高級車が停まり、運転席から一人のレディーススーツを着た女性が降りた。
ナオキは、それを外に備えた隠しカメラで凝視していたが、女性が玄関に近づいていく直前に、カメラが妨害される。
「ちっ、こんな時に、妨害電波かよ! ついてねぇ!」
机の引出しから、小型EMピストルを取出し、全ての部屋の電気を消して身を暗闇に隠す。
女性は玄関をノックした後、誰かいないか確認してドアを開き、ゆっくりと暗闇の部屋に入り、ドアを閉めた。
部屋の電気を付けようとしてスイッチに近づき、壁の電気点灯スイッチのボタンを押す。電気はついたが、何かがおかしく感じる。
後ろに人の気配がする。女性は、後ろを振り向こうとしたが、男の声で警告が走る……
「動くな! 誰だお前は!? 何者だ?」
一瞬、後ろに立つ男の顔が見えた。男はナオキだった。銃を構えている。
女性は、左手のカバンを落とし、両手を挙げた。
「撃たないで! 私は、ジョディ・マリッサ。あなたに用があってきただけなの!」
ナオキは、彼女に疑念しか感じなかった。
「ふざけるな! じゃあ、なんでカメラに妨害が起きたんだ? 政府からの連絡は一切来ていないぞ! 誰だ? あんたは?」
彼女は右手で、首に身に着けていた身分を示す役割のあるカードをナオキに見せる。
彼はカードを見てから、彼女に向けていた拳銃を下す。
ジョディは、ナオキに向かって改めての自己紹介を始めた。
「連邦政府抹消記憶情報管理局事務官のジョディ・マリッサです。これでいいかしら?」
「なんで、会うことのない役人さんがここにいらっしゃっているのか聞きたいもんだね。侵入者まがいの行動までして……」
「ごめんなさい。侵入者みたいな入り方して驚かしてしまって。緊急の用事なの……」
「緊急な用事ね。何の御用だ?」
ジョディは、一息、深呼吸してナオキに伝える。
「依頼よ……記憶を消してほしいの……」
「誰の?」
「私の記憶よ! 私の記憶から、ある男の記憶を消してほしいの」
「おいおい、冗談だろ? いくらなんでも自分の私情を持ってくるのかよ! お役所は素晴らしいところだな」
ナオキの呆れは軽くスルーされ、彼女は話を続けた。
「話はそれだけじゃないの。男の記憶から、私の記憶を消去してほしいの! あなたしかできない仕事よ!」
ナオキは、腕組みしながら考え、溜め息をつき、決心する。
「こちらからも条件がある。それをしてくれるならその仕事を受けてもいい」
「ええ、分かってるわ。依頼料だって払うわ」
彼は首を横に振り、自分が望む条件を伝えた。
「依頼料は当たり前だ。それに他にもある。最新の武器を一式揃えてほしい。そのリストに書いてあるものを全てもらう」
ジョディはナオキに手渡されたリストを読んだ。リストには自分の階級ではほぼ入手は不可能な武器ばかりだったが、依頼のためなら……と考えると、たやすいものだった。
「いいわ。おやすい御用だわ」
ナオキは、ジョディが条件をのんだと判断し、仕事に乗り出す。
「よし、そうとなれば仕事に取り掛かる。あんたの記憶を消したい男の情報をくれ!」
ジョディは、ナオキのリストをバッグに入れて、バッグから男の情報が載っっている写真つき書類をナオキに手渡した。
ナオキは、その書類を読み始め、ジョディは男の説明をする。
「その男は、カイル・K・エルドー。職業はプログラマーで私の婚約者だった人よ。前までね……」
「前まで?」
「ええ、ちょっと前まで、でも経歴を知ってからその人は婚約者ではなくなったわ」
「どういう事だ?」
「彼が他国のスパイだと分かったの」
ナオキは、読むのを止め、資料を彼女に返した。
「それで、彼の記憶からあんた自身を消せばいいってことか?」
「そう……」
「仕事は、仕事だ。あんたの依頼を受ける。今、奴は何処にいる?」
ジョディは、カイルの行動予定を細かくナオキに伝える。
「カイルは、今夜2時ぐらいから仕事って言っていたわ。場所は確か、クライスホテルとか言っていたわ。」
「なるほど、おそらく《記憶情報取引》(とりひき)だろう。時間がない。急がなければ……」
ナオキは、自分の部屋に向かい、部屋の五段の本棚から大きな辞書を一つ引っ張った。
すると、部屋の本棚が横に開き、奥には大量の装備や銃器が陳列されてあり、ナオキは武器庫に入り、仕事に使う銃器と奥の棚にあるショックガン(=部分記憶の消去専用の銃)を取出して自分の机の上に並べた。
彼女は次々と運ばれる銃を凝視している。
特にショックガンは従来の形の拳銃の銃口とは違っており、ジョディは、ショックガンを手に取り銃口を自分の顔に向けたりしていた。
ナオキは、それを見て、急いでジョディに忠告する。
「おい! あんた! 自分の頭を吹っ飛ばしたいのか? 吹っ飛ばしたくなかったら、今持っているその銃を机に置け!」
「ああ、ごめんなさい。この銃はなんなの?」
「俺が、仕事で一番必要になるものだよ! 相手の記憶AIチップから一部分の記憶を消す時に使うものだ」
ナオキは、ジョディから銃を取り、ショックガンの説明をする。
「この銃の弾は、これだ」
そう言い、ナオキはズボンの右ポケットから1つのSDカードみたいなチップをジョディに差し出した。
「ただのチップ?」
「あんたはチップの見えるだろうと思うが、俺みたいな業界の人間には知らない人はいないと言われるくらいの強力なウィルスでな。通称MEB(Memory Erasure Bullet)と呼ばれている。効き目は、強力で素晴らしいものさ。おっと、人体影響には関係ないから安心しろ……」
ナオキは、チップをショックガンのマガジンに挿入し、装填する。そしてナオキは、ショックガンをカバンにしまい、ジョディにポケットの中から、錠剤ビンを差し出した。
「さて、あんたには、この錠剤を2粒、飲んでもらう、水はいらないから」
ジョディは、渡されたものが怪しいがそんな事で不安がっている状況ではないことであると理解できていた。ジョディは瓶の蓋を開けて、錠剤を2粒、取出しぐっと飲み込んだ。
飲み込んだ瞬間は、普通の錠剤みたいに喉の通りが悪い感じがしている。しかしだんだんと立つのが辛く感じ、力が出ない。
何だろう……ここは?
ナオキの顔がどんどんぼやけていく……とうとう立つ事もできず、その場に倒れかけてしまうところをナオキに肩を借りられた。
「やれやれ。やっと、仕事ができる……報酬は高いぞ」
ナオキは、すっかり体勢を崩れてしまったジョディを抱え、ベッドに運んだ……
-深夜2時- クライスホテル最上階VIPルーム
カイルは、VIPルームの応接間で、ソファーに座り腕時計で時間を確認しながら他国の重鎮との情報交換取引を行う場所として、最上階で取引を行おうとしていた。
その頃、ナオキはカイルのいるホテルの地下駐車場に着き、車のトランクから黒い大きめのバックを取出し方に抱えて、エレベーターに向かう。
ナオキは、エレベーターに乗って29階に向かい、25階に差し掛かったところで止めて降り、屋上に向けて非常階段を上る。
他国の重鎮とカイルは取引を始めていた。
「やっと来ましたな。情報はこちらにあります」
自分の頭を左手人差し指で、軽くつついた後で椅子に座り、スーツを脱ぎ、カッターシャツの右袖をまくり、腕についてあるプラグをデータPCと接続する。
彼の記憶データがPCに転送し始めた。PC画面は一%ずつ上昇し始めようとしていた。
ナオキは屋上にたどり着き、突入の準備をするワイヤーロープを腹のフックに取り付け、ワイヤーを屋上の柱に巻きつける。
ガスマスクを着けて、ビルの端に立ち、ゆっくりと後ろに体重をかけながら飛び、ゆっくりとホテルの窓ガラスに足を付ける。これを繰り返し、最上階と同時に超音波ショック弾を窓ガラスに打ち込み、窓ガラスを割って侵入する。
重鎮のボディーガードは、ナオキの侵入に対して、ホルスターからピストル型EM銃を取出し、ナオキに向けて発砲しようとするが、ナオキのほうが早くEM銃を取出して、ボディーガードに向けてEM銃の弾丸を放ち、ボディーガードに命中する。
次々と倒れていく味方の姿に、守られる側の重鎮は為す術がなかった。
カイルは、PCに接続しているために身動きできなかった。重鎮は逃げようとしてVIPルームからエレベーターに向かって逃げていく。
ナオキは、ガスマスクを外し、カイルにEM銃を向けた。
「おっと。動くな! 死にたくなければな……」
カイルは自分の身に何が起きているのか、状況を把握することができない状態でいた。その上、肩のプラグとパソコンが接続状態だったためソファーに座ったまま身動きできない状態にいる。
彼は、武装した特殊警察みたいな姿のナオキに恐怖に陥りながらも威嚇する。
「だ、誰だよ! 俺に近寄るな! 近寄ったらぶっ殺してやる!」
ナオキは、笑いながらカイルを黙らせる。
「安心しろ! 殺しはしない。ただ眠ってもらうだけだ!」
ナオキは、右腰のホルスターにしまってあったショックガンを取出し、カイルに向けて催眠弾を放つ。
カイルの胸にあたり、そのまま目を瞑った。ナオキは彼が眠ったかどうかを確認し、仕事に取り掛かった。
「まずは、記憶情報転送を中止しないと」
ナオキは、カイルの肩のプラグを外し、パソコンを緊急停止させる。
「で、次は……おお、そうだった。依頼の仕事だな。今、楽にしてやるからな」
ナオキは、ショックガンのマガジンから催眠弾の弾を外し、新たなマガジンにMEBを込め、リロードして、カイルの頭に向けてMEBが込められたショックガンの引き金を引く。
ショックガンの銃口から青いフラッシュの様な閃光がカイルを包む。一瞬にして部屋一面にまぶしい光が広がり、2、3秒で元に戻る。
ナオキは、ショックガンをホルスターにしまい、カイルが寝ているのを確認し、仕事が完了しこの部屋から脱出する準備をする。
「思ったより簡単で良かったよ。じゃあ、また会おうぜ、カイルさんよぉ……」
ナオキは、脱出する準備が完了し侵入した窓から飛び降りようとした時、丁度、VIPルーム前のエレベーターから重鎮のボディーガードがEM銃を構えながら、部屋に侵入してくる。
エレベーターが階に着いたと同時に窓に向かって、走り始める。そして、ナオキは最上階の部屋から飛び降りる。スカイダイビングのような感覚で、丁度ホテルの半分ぐらいの高さになったあたりで左胸のレバーを引いた。
ナオキの背中から、パラシュートが出てきて、一瞬後ろに引き込まれそうな感じになったがうまく体勢が整い、風に影響されないようにパラシュートと方向を整える。
その頃、ボディーガード達は、部屋に侵入し、異様な光景を目にする。そこには、眠った状態のカイルとナオキのEM銃によって、胸から流血して倒れているボディーガード数名がいるものだった。
1人のボディーガードが、窓に近づき、ホテルの外の周りを確認するが、外は暗くよく見えない。
「駄目だ。逃げられたか……」
ナオキはパラシュートを外し近くの駐車場に着地した。ホテルの様子が遠いがうかがえる。ナオキは急いで、その場から退却した。
-同日-、午前7時
ジョディは、部屋一面にノイズが鳴り響く目覚まし時計を止め、ベッドから起きた。
「あれ? ここは、自分の部屋? 痛たた」
ジョディは、二日酔いのような頭痛が激しく襲われ頭を抱えながらも寝るまでに何が起きたのかを考える。
「昨日は? 確か、どこに行ったけ? 確か、彼のところに行ったんだわ。でも何の用だっけ?」
ジョディは、自分が昨日の行動を思い出そうとしたがナオキのところに行ったところまでしか覚えていなかった。そうこうしているうちに出勤の時間帯に着々と近づいていることに気づき、ベッドから飛び降りる。
「早くしないと、遅刻だわ……」
いつも通りに、出勤の準備をする。そしていつも通りに自宅を出て、車に乗りルームミラーを確認する。ルームミラーで後部座席に紙切れが挟まっているのが見える。
ジョディは、その紙切れを取って文字を読んでみた。
《仕事は終わった。報酬をよろしく……警告! 深追いはするな。死にたくなければな……》
その手紙は、読んでみて、ナオキが書いたものであるとジョディは理解し、車の中から外を見渡した。ナオキの姿はなかった。
「報酬ね……分ってるわよ」
ジョディは、そうつぶやきながら車のエンジンにキーを刺し車を起動させ、バックし、出勤する。
車は、自分の仕事場である連邦政府の中心に向けて走らせた。
ジョディの家からどんどん遠くなっていく。
ナオキは、ジョディの車を遠くで見送った。
「俺の仕事は、終わった。後は、報酬を待つだけ」
ジョディの車が見えなくなったのを確認し、ナオキも自分の車に乗り、ジョディとは正反対の方向に向けて車を走らせる。
ナオキは、力強くアクセルを踏み、車はエンジンとタイヤの轟音を鳴り響かせ、自宅へと向かう。
日が昇る。日の光が、ただ目的地へとひたすら走らせるナオキの車を照らしていた。
~END~
超展開である事は間違いないのでご了承ください。
下手くそが書いているので、誤字脱字などありましたらご指摘宜しくお願いします。
一応、話の内容としては、人の記憶を消す仕事をする人の話という事で宜しくお願いします。