第12話 冷めたら味が落ちるので
(だ、誰!? この人!)
目の前に現れたのは、モーニング姿に口ひげを生やした巨漢の男性。
まるで山のように私の前に立ちはだかっていた。
「あ、あ、あの……?」
カタカタ震えながら見上げると、男性が会釈する。
「おいでになられましたか、奥様。旦那様は既にお待ちになっております」
「へ?」
首を傾げると巨漢男性がスッと左に避け、部屋の中間――
テーブルの前に座る夫の姿が現れた。
「あ、は、はい」
サササッと素早い動きでテーブルに向かうと、既に銀色のドームカバーがいくつも乗っている。
フフフ……きっと、あの蓋を開ければ湯気立つ美味しい料理が現れるのね?
あ、あの丸いパンもおいしそうじゃない。
じーっと食事を見つめていると、「おい」と向かい側から声をかけられた。
「へ?」
顔を上げると、夫が心底軽蔑したような眼差しで私を見つめている。
そうだ、お礼を言わなくちゃ。
「この度は食事を用意していただき、ありがとうございます」
軽く会釈すると、再び料理を見つめた。
ゴクリ
思わず喉が鳴った。
(これ、全部私が食べていいんだよね?)
巨漢男に声をかけた。
「あの、すみません。早速私の部屋に料理を運ぶのを手伝っていただけますか? 冷めたら味が落ちるので」
「「は??」」
巨漢男と、夫が同時に首を傾げる。
「おい、運ぶとは……一体どういうつもりだ?」
夫が声を震わせて私を指さす。
「え? だから、自室に持って帰って食べようかと……」
「おまえ! 何を言ってる! 一緒に食べるから招いたんだろう!」
「え……でも私の顔、見るのも嫌ですよね? だって『もう、うんざりだ』って言ったじゃないですか?」
変なことを言う人だ。
「う……そ、それとこれとは別だ! 大事な話があるから……と、とにかく座れ! お前がいつまでも立っていると給仕だってできないだろう?」
大事な話……きっとアレのことだ!
「あ、そうですね。なら座ります」
いつまでもお預けされるのも限界だし。
自分でガタンと椅子を引くと、ストンと座る。
(う~ん、位置が悪いな)
腰を浮かせて立ち上がり、座面を両手で抱えて移動すると座り直した。
そんな私を、ポカンと口を開けて見つめる夫。
「あの~何か?」
早く食事したいのですけど。
「……何でもない、用意してくれ」
憮然とした表情で、夫は巨漢に声をかけた。
「かしこまりました」
巨漢男は頷くと、 次々とドームカバーを外していく。
スパイシーな香りを放つ肉料理。
香ばしい匂いが漂う魚料理。
湯気の立つクリーミーなスープ。
等々、合わせて八皿の料理が目の前に現れた。
「わぁ~すごい! 美味しそう!」
向かい側からは突き刺さるような視線を感じるけど、今の私は少しも気にならない。
大事なのは栄養、目の前の食事なのだ。
名前すら知らない夫など、どうだってかまうことはない。
全てのカバーが外されると、私はバッと顔を上げた。
「あの、食べていいですか!?」
「あ? あ、あぁ。まあ、いい……」
「いただきます!」
フォークとナイフを素早く手に取ると、私は早速肉料理から食べることにした。
切り分けると、ソースがたっぷりかかった肉料理を口に運ぶ。
(う~ん、美味しい! ジューシー! 最高!)
もう一口!
夢中で食べ続けていると、夫が話しかけてきた。
「おい、お前……今朝、執務室で言っていた話だが……本気でここを出ていくつもりなのか?」
「え?」
顔を上げると、夫の顔には勝ち誇ったような冷たい笑みが浮かんでいた――
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