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ツボの中から異世界 ~A step towards a new world~  作者: みたよーき


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51.決着

 咄嗟のことに、万友莉に思考の余裕は無かった。しかし、体が反射的に動いた。

 迫る舌先に対し、上体を反らし、胸の前で構えていた盾を、持ち上げるというよりは引き上げるようにして、それを防いだ。

 だが、舌の勢いは強く、万友莉は空中で腕ごと上体を強く押され、体勢を崩した。

 そのまま吹き飛ばされるかと思われた万友莉の体は、しかし、その勢いのままバク宙のように回転、着地し、次の瞬間、万友莉は反力を利用した力強い踏み込みと共に、右手の剣を振り抜いていた。

 魔物は素早く首を引いて躱した、かに見えた。だが、そのまま首をのけぞらせ、数歩後ずさる。

 びた、と地に落ちた舌先に先ほどまでの鋭さは無く、ただ力なく横たわっていた。

 万友莉の身体は、何かを斬った手応えに、反射的に追撃に移ろうとしていた。しかし頭は、追うか? と思考した。その一瞬の迷いは身体にたたらを踏ませたが、それが結果的に正解を引いた。

 次の瞬間、魔物は喉の奥から、ゴロロッ! と、ひどく濁った鈴の音のような音をたてながら、半身になりつつ尻尾で前方を勢いよくなぎ払った。尻尾は一瞬で、ビリィ、サラ、万友莉の眼前を横切る。その大木でなぎ払うような一撃は、直撃こそしなかったが、三人には砂つぶてが風圧と共に届き、ビリィとサラは反射的に眼を守る。

 二人の怯んだような様子を視界の端に捉え、万友莉は咄嗟に、戻る尻尾を追うように前に出る。その万友莉の視線は魔物の動きを注視しつつも、サラが当たり前のように追従してきてくれるのを背中に感じていた。

 魔物は、その万友莉の動きを警戒したか、後ずさりながら万友莉と正対するように構える。

「私が囮になる!」

 魔物が万友莉を特に警戒するような様子を見て、万友莉は咄嗟にそう叫んだ。深い考えがあったわけではない。だが、それが一番良いはずだ、という直感的なものに従った。

「ビリィ、イザベラと合流して魔法でそいつを怯ませろ! ジェシカはその二人を掩護! 攻撃を届かせるな!」

 万友莉の声を受けて、マークが素早く指示を出す。万友莉は補助に回った三人が魔物の死角になるよう、魔物が万友莉から目を離さないことを確認しながら、ゆっくり位置取りを変えていく。

 そして万友莉が動きを止めると、魔物が、グッ、と身を屈めた。飛びかかってくるか? 万友莉がそう身構えた瞬間、魔物の眼前で炎が爆ぜる。だが、魔物は首を僅かに引いたのみで、万友莉を見据えたまま、嫌がるような素振りも見せない。

「なら次は、水や氷で眼を狙ってみろ!」

 そのアレクスからの指示どおり、ビリィとイザベラが眼を狙って異なる魔法を使う。だが、魔物の目は、頭部の大きさに対してかなり小さいため、ピンポイントで狙うには難しく、僅かな動きで的を外されてしまう。そして、目の近くに魔法攻撃を受けても、魔物は一瞬まぶたらしきものを目の下部から持ち上げるのみで、やはり怯む様子は無い。

 そんな折、不意に魔物が首を持ち上げ、喉元を膨らませた。

 まさか、本当に炎を吐くの!? ――そんな思いと同時、万友莉は無意識にマップを確認して、サラを真後ろに庇う位置へ動いていた。

 動いてから、完全に射線を外す位置に動くべきだった、と思いついたが、今動いたら余計にサラを危険にさらすかも知れない、という考えが浮かび、身動きが取れなくなる。

 万友莉からサラの様子は窺えない。ただ、サラは万友莉の後ろでじっと身構えている気配だけが感じられる。それが万友莉にはサラからの信頼だと思われて、万友莉の中で、何が飛んできたって防ぎきってやる、そんな覚悟が自然と決まった。

 魔物が何をするのか、全員がそんな意識に集中して、そのまま、ほんの数瞬、場が凍り付いたように硬直した。

 ――それを打ち破ったのは、アレクスの声だった。

「ノー! あれはペレンティーの威嚇行動だ!」

 万友莉はその言葉の意味を直感的に理解してから、一瞬、自分の勘違いかと思う。そして、インティミデイトという単語が“脅す”といった意味だと思い出して、間違いでないと確認した。

 確認すると、万友莉の心中に、羞恥心が湧き上がった。先ほどの自分の一連の行動が、なんとも滑稽なものに思われてしまったからだ。

 未知の魔物相手に、警戒して悪いことなどない、頭ではそう思う。だが、心にはどうしても、そうは割り切れない部分がある。

「……アレクス! 気温を魔法で下げてみるのはどう?! あれはただ大きいだけのトカゲなんでしょ!」

 だから、万友莉の口から出たその言葉は、半ば八つ当たりのようなものだった。

「良い発想だ! 私とマークでやってみる。ビリィとイザベラは引き続き魔物の牽制を試みてくれ!」

 だが、万友莉の提案は思いの外、的を射ていたようで、アレクスからはそんな返事があった。

「このセクタは広いから時間が掛かる! マユリ、そいつを引きつけておいてくれ、無理はせずに!」

 次いでマークからもそんな声を掛けられて、八つ当たりついでに攻めに転じてやりたいような気持ちがあった万友莉は、まず冷やすべきは私の頭だ、そう自分に言い聞かせて、魔物の動きを注視することに努めた。


 ――果たして。

 魔物は最初に舌先を斬られたことが相当堪えたのか、近づこうとする素振りを見せた万友莉に対して前足を振って牽制するような動きをする程度で、自ら攻めかかってくるようなことは無かった。

 そして部屋が冷えてくるにつれ、そういった動きも目に見えて緩慢なものとなっていき、やがて、魔物は身体を縮こまらせ、動きを全く見せなくなった。それが魔法によるものであっても、間接的に引き起こされた気温の低下という物理的な現象には、魔物の魔法に対する抵抗力も無力だったようだ。

 身動きできない大きいだけのトカゲは、もはや脅威にはなり得なかった。ただ、裏を返せば、動き出せばその大きさだけで脅威たり得る。後衛も呼び寄せて全員で話し合った結果、その魔物は動けないうちに駆除することになった(アレクスだけは惜しむような素振りを見せたが)。

 だが、いざその首を切り落とそうという段になって、魔物の表面を覆う鱗とその下の筋肉が、かなりの強度を持つことが分かった。万友莉とサラの武器を除けば最も切れ味の鋭いシャイのサーベルでも、一撃では浅い切創をつけることしかできなかった。

 動けないとはいえまだ息のある魔物は、幾度かの斬撃を首筋に受けて、喉の奥で鈍い振動音を鳴らし、呻いた。いくら巨大な魔物とはいえ、その様子は痛ましく、万友莉は堪らず自ら介錯を申し出た。もちろん英語なので、『介錯』はただ『終わらせる』という表現になったが。

「……信じがたい切れ味だ。それが神器だと言われたら信じてしまいそうだ。だが、同じ武器を扱うマスタが同時代に現れたことは未だ無い。そして剣のマスタはこの前現れたばかり。ならば、やはりそれは神器ではないのだろう。……マユリ、君はその剣がどんな材質で作られているのか知っているか?」

 万友莉がちょっとした丸太ほどもある魔物の首を一太刀で切断したのを見て、ステファンが興味を抑えきれない様子で尋ねた。

「……私がこれを与えられたとき、私が教えられたのは『これはドラゴンの骨でできている』ということでした」

 万友莉は一瞬、どう答えるべきか迷ったが、論点である“材質”に関しては嘘をつく必要も無いように思って、そう答えた。

「……骨? ……ドラゴンの?」

 ステファンはドラゴン、と言いつつ、傍らの魔物に目を向ける。

「判りません。私はそれを直に見たことはないので。でも……」

「でも?」

「死んで魔素を失った骨を剣に加工した後、強くなるように願った魔素を骨の中に入れたのだと聞きました」

 この程度の情報なら特に問題無いだろうか、万友莉は答えてから、そんなことを思う。

「入れる? 魔素を……武器に? 願いで? ……いや、精神的だからこそ、それは可能なのか……? ファニ、知っている?」

「知らないわよ。私の金属の知識は主に地学的なもので、工学的なものではないもの。それに、金属じゃなくてドラゴンの骨だというなら、むしろアレクスの分野じゃない?」

「私だって知らない。だが、それが本当なら、魔物素材の価値は劇的に変化するぞ……! 武器だけじゃない。防具の信頼性が高まれば生存率も上がる」

「……安全性が高まればダンジョン内での行動全般の効率が上がる! 全てのエクスプローラのだ! ヘイ! それはこの調査よりもずっと優先して研究すべきテーマだぞ!」

 だが、万友莉の思いも空しく、研究者たちの言葉には次第に熱が籠もり、話が大きくなっていく。

(これは……、やらかした……?)

 そんな思いと共に遠い目になった万友莉の肩に、そっと、サラの手が置かれた。

 万友莉がぼんやり振り返ると、サラは、口の動きだけで「がんばって」と万友莉に伝える。

 何をがんばれば良いのやら……、そんなことを思いながら、万友莉はどう説明すべきか、頭を必死に働かせ始めた。


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