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ツボの中から異世界 ~A step towards a new world~  作者: みたよーき


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50.脅威との対峙

 予定通りに調査を継続した一行は、“異変”が、降りてきたセクタから聖流と逆へ向かった方向にだけ見られることを確認した。

 やはり、そちらの方角に異変をもたらす原因――おそらくは脅威――が存在するのだろう、そう判断した一行は、その後は予定を変更し、まずはその“原因”の特定を優先することに決めた。

「ついに完全に魔物がいなくなったな。魔物を遠ざける何かは近いぞ」

 マップで把握している万友莉が注意を促すまでもなく、アレクスが全員に声を掛ける。

 彼の言うとおり、魔物の声も姿もこのセクタには無い。ただ、植物等は存在することから、セーフ・セクタでもないことが判る。

「アレクス、このまま外側へ進むか?」

「それが一番可能性が高いだろう」

「よし、ではそうしよう。皆、他に意見はあるか? …………無いな? 覚悟は良いか? ……では行こう」

 マークの号令で、一行はその、見た目にはこれまでと特段変わりのない通路へ踏み出した。


 そのセクタに踏み入るまでもなく、“脅威”の正体は明らかとなった。

 ほぼ直角の角を曲がったその先に、次のセクタの様子が見えた。中央部に視界を遮る植物などは無く、平均より広いだろうそのセクタの、向こう側までが通路からでも見通せた。その向正面に、奥へ続く通路をまるで守護するかのように、魔物が伏している。まだ小さくしか見えないが、その背後の通路入り口の大きさから推測するに、その魔物の高さは三メートルほどはありそうだ。にもかかわらず、ずんぐりして見える体格から、胴体長は四、五メートルほどと見える。ただ、おそらくは丸めた尻尾だろうものが前足の横で揺れているのが、万友莉の視力で見えた。それを考えると、全長としては十メートル前後だろうか。それだけなら、六十階層以降に散見されたソルティ・クロコダイルのサイズとそう変わるものでもないが、体高がその三倍ほどもあると考えると、間近で受ける威圧感はかなりなものだと想像された。

「……リアル・ドラゴン?」

 万友莉の後ろで、サラが思わずといった様子で呟いた。

「ハッハ! 名前だけのトカゲじゃない、“真の”ドラゴン。なるほど、“その通り”かも知れないな」

 アレクスが冗談めかしてそう口にする。その声音や彼の表情からは、やや昂揚した様子が窺えた。そこにあるのは純粋な楽しみや好奇心、そういった感情のように万友莉には感じられた。

「アレクスも知らない生き物? 恐くはないの?」

「恐いさ。とても恐いよ、無知は。だからこそ、未知を知ることは喜びだ。ゆえに私はエクスプローラなんだ」

 万友莉の問いに、アレクスが答える。だがその目は未知の魔物を凝視したままで、少年の瞳のように輝いている。

「同じ羽の鳥ね」

 サラがそう口にすると、他のメンバから忍び笑いが漏れた。スルー・ザ・ダークネスのそれは苦笑、ネヴァ・ウィザのそれはサラへの同意だろうか。

「『類は友を呼ぶ』?」

 万友莉がアレクスに対して思った言葉を、そのままサラの耳元に小声で尋ねると、サラは小さく頷いて見せた。やはりサラが口にしたのは同じような意味の慣用句で、ステファンと比較してのものらしい。

「だがどうするんだい? あれとやり合うのか?」

「戦ってみなければ正確な脅威度は測れないだろう。アレクス、どんな危険が予想できる?」

「そうだな……、あの体格だ、相応の筋力は警戒すべきだ。鈍重そうだが、トカゲのように素早いかもしれん。作り話のように炎を吐く? だとしたらどんな仕組みだろう? 口元で油やガスを分泌するのか? しかしそれでは自分も危険か……ああ、想像できないな!」

 自分で言いながら徐々にヒートアップするアレクスに肩をすくめつつ、ジェシカとマークは相談を再開した。結果、後衛は入り口付近で待機、前衛は一人一人が十分に間隔を取って布陣し、撤退はマークの判断で行う、そういった決め事の上で、一度当たってみることに決まった。


 万友莉がアレクスと並んでセクタに踏み入ると、まだ距離があるにもかかわらず、魔物がこちらへ注意を向けたのが分かった。だが、首だけをこちらに向け、伏したままじっと動かない。

 魔物が向かってくる様子がないことを確認して、万友莉とアレクスは手はず通り左右に分かれ、見える範囲に別の魔物がいないことを確かめる。万友莉はマップも見てレーダに反応が無いことも確かめた。目の前に明確な脅威がある中、変に出し惜しみして後悔したくはなかった。

 確認を終え、ハンドサインで後続に異状なしを伝える。全員がセクタに侵入しても、魔物に動きは無い。

 後衛を残し、魔物へ近づいていく。魔物の正面から万友莉、距離を置いて両隣にはサラとジェシカ、更に外側にビリィとイザベラが緩い弧を描いて並ぶ。魔物を要に置いた扇状の布陣だ。司令塔となるマークはアレクスと共に万友莉の後方に離れて追従している。

 残り五十メートルほどを切ると、魔物が動きを見せた。

 尻尾を後ろに回すと、ゆっくりと首を起こす。まるで首がにゅうっ、と伸びたように見えた。背中に翼のようなものは無く、濃淡の砂色が水玉のような紋様を描いている。その胴体の低い位置から生えた首は、長く、その先にヘビのように頭部が付いている。首と頭部の境界あたりが少し盛り上がって見える。頭部に角が生えていたりはしないが、うっすら開いた口元から小さく鋭い歯が見えた。口先からは、ちろ、と槍のような舌も飛び出す。

 それはドラゴンというよりはやはりトカゲの変異したものとも見える。ただ、トカゲと比較して、比率としては、胴体は短く、高さ、あるいは厚みが大きい。足も太く短く、特に後ろ足が大きくがっしりしている。指先から伸びる爪は見るからに鋭利だ。

「ペレンティーに似ている。噛まれると毒の危険もあるぞ。当然、爪や尻尾にも気をつけろ」

 後ろから聞こえるアレクスの声に、なおさら自分が魔物を引きつけなければ、と万友莉は思う。

 万友莉は足を止めず、ゆっくりとしたペースを維持して近づいていく。他のメンバが万友莉に合わせて動く、それは経験の浅い万友莉に余計な思量を与えないようにという気遣いだったが、今の万友莉にはそれがとてもありがたく感じる。他の皆は更に弧の曲率を小さくしながら付いてきているはずだが、それを確認する余裕は無い。万友莉の方をじっ、と見つめ動かない魔物は、まだ少し離れているのに、想像していた以上に大きく感じられ、その威圧感に、万友莉は目を離すことができない。

 近づくほどに一歩一歩が重く感じられるが、それでも万友莉は、盾を構えた左腕を前にした姿勢で、確実に地面を踏みしめて、足を止めることなく進む。

 いよいよ万友莉と魔物の距離は十メートルを切る。魔物の頭部は持ち上げられた状態で、ごく微妙に前後に揺れているように見える。万友莉は自分の背丈より若干上にあるそれを見ながら、足を動かす速度はそのままに、一歩をより小幅に変えて進む。

 少しずつ、少しずつ距離が詰まり、それが五メートルを切るかどうかといったところで、魔物の首がピタリと動きを止めた。止まったことで、先ほどまでの小さな動きが目の錯覚でなかったことが理解されたが、万友莉にそれを意識する余裕は無い。その変化は何らかの行動の前触れと思われ、万友莉は自然と足を止め、その見極めだけに集中していた。

 ――――動かない。

 そのままでは状況は変わらないと見た万友莉は、じり、と摺り足で距離を詰める。魔法で牽制することも万友莉の脳裡に過ぎったが、流石にこんな状況で付け焼き刃の魔法を試してみる気にはなれなかった。

 暫し見合い、万友莉はまた、じり、と踏み出す。

 その次の瞬間、魔物はその頭部を万友莉へ向けて、速く鋭く、突き出した。

 反射的に、万友莉は地面を蹴って後ろへ飛ぶ。

 届かない。そう万友莉が判断した瞬間、万友莉の目は、先ほど“槍のよう”と見えた魔物の舌が飛び出してきて、眼前に迫るのを捉えた。


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