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ツボの中から異世界 ~A step towards a new world~  作者: みたよーき


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49.脅威の予兆

 未踏の階層だからといって、そこに必ずしも劇的な何かがあるわけではない。

 セクタ毎の違いはあれど、それも含めてすっかり見慣れたダンジョンの光景に、万友莉はつい、そんな思いを抱いてしまう。もちろん、油断するな、気を抜くな、と自らを戒めることも忘れなかったが。

 六十階層で新たなフォーメーションを決めてから、一行は馴致のためにその陣形で進んできた。その間、スカウトのアレクスを間近に見ることになった万友莉は、彼が常に広範囲に気を配っていることに気付かされた。

 これまで大陸のどのダンジョンに於いても、フィクションに見られるようなダンジョン・トラップというものは確認されていない。だが、チーム全員の命を預かるスカウトは、そういう先入観を持ってはいけない、アレクスはそんな心構えや、できるだけ広範囲を間接視野に収めてその中の小さな動きや違和感を認識する、という彼の方法論など、スカウトとしてのノウハウを万友莉に教えてくれた。

 それを受けて万友莉は、マップに頼るのを自重し、この二日間、自分の目で見る、ということに意識的に取り組んだ。おかげで、万友莉は自分がいかに漫然とダンジョン内の光景を見ていたかを自覚できたが、同時に、いかにダンジョン内の構成が画一的かを確認することにもなった。万友莉がダンジョン内の光景を以前にも増して“見慣れた”と感じるのは、そのせいでもある。

 ともあれ、“劇的な何か”など、無い方が良いに決まっていると万友莉も理解している。少なくとも、このダンジョン特有の、そしてこのダンジョンに潜るエクスプローラたちにとって命綱とも言える『聖流』のあるセクタに於いて特別な危険が発見されなかったことは、朗報だ。


 朝一番で六十六階層に降りてから、聖流沿いに歩いて次の階層への道まで辿り着いたのは夕方頃。道のりとしては二十キロメートルには到底届かないだろう距離だったが、魔物との戦闘機会はさほど多くなくとも、調査を行いながらの進行のため、これだけの時間が掛かった。最短ルートの距離としては平均よりは長めだが、途中セーフ・セクタを三つ経由しており、次の階層へ向かうだけなら環境としては恵まれている方だといえる。もちろん、階層相当の魔物の脅威があるため、容易な道のりとはいえないが。

 ただ、その魔物も、上層でも見られたソルティ・クロコダイル(アレクスによる呼称。以下同様)や、万友莉とサラが戦ったワイツ・フロッグ、それとは別のケイン・トードというカエルや、ウォータ・ドラゴンと呼ばれるトカゲ、やや毛色の違うところではプラティパスと呼ばれるカモノハシなど、(アレクスたちにとっては)既知の魔物ばかりだった。この内、ケイン・トードやプラティパスには毒を持つ固体もいるが、その性質も既知ゆえに警戒できる分、全く未知の魔物と比べれば対処もしやすい。

 ただし、目的の調査はこれからが本番といえる。なにせ、これ以降は聖流から逸れた道を進まねばならないのだから。

 聖流沿いでパスしたセーフ・セクタは三つ、そこから考えればフロア全体では大雑把にその二十倍以上の広さが見込まれる。セーフ・セクタの数とフロア面積は単純に比例するものでもないので実際はそこまでではないかも知れないが、可能性だけでいえばもっと広いことだってあり得る。初期調査のため、その全てを詳らかにするわけではないが、それでも、その調査が簡単なものではないことは万友莉にも想像できる。調査初日が無事に終わったことには安堵感もあった万友莉だが、決して気を抜くこともなかった。


 それまでと明確な違いが見られたのは、調査六日目のことだった。

 聖流を擁するセクタと隣接するセクタから順に、周囲を丁寧に埋めていくように調査を進めた一行だが、質はともかく、種類としては特段目新しい資源も見つからず、魔物はやや増加を見せていたが、ひたすら慎重に進んだ初日と比べると進行速度はかなり向上していた。そのため既に聖流から四セクタ離れた範囲を調査し始めていたが、この階層に侵入したセクタから聖流の向かう先とは逆の方向に向かうと、セクタ内を占める植物の割合が増加を見せていったのだ。また、それに比例するように魔物の数が減少していることも判った。

「――結果が出たわ。少なくとも、手持ちの試薬に反応する毒素は検出されない。見た目に大きな違いも無いし、魔物が餌にする植物が変異して毒を持ったわけではないと思うわ。単純に魔物が減った分、植物が繁茂したのでしょう」

 化学的な検査らしきものを終えたオリヴィアがそう報告した。万友莉にはその検査が万友莉の生きた世界(あるいは時代)と比べてどれほど精度や確度の違いがあるかは判らないが、原始的な判別方法でもなし、それなりの信頼度はあるのだろうと思われた。

 では、何が魔物を遠ざけている原因なのか。万友莉はそれに心当たりがあった。

 万友莉はマップ、レーダの使用を自重していたためにこれまでは気付かなかったが、今の会話を受けて、マイの判断だろう、マップが表示された。それには、現在地より更に四つほど外周のセクタに、クェズラント・ダンジョンの深層を除けば、これまで見たことの無いほど大きな魔物らしき反応が一つ、存在していたのだ。そして、そこに隣接するセクタには揃って他の魔物の反応が無い。セーフ・セクタがその近距離に集まっているとはまず考えられず、それは万友莉に、アビスの落着点の周囲に魔物の存在が無かったことを思い起こさせた。

「……近くに強大な魔物がいて、他の魔物が近づくのを恐れているのでは?」

 万友莉としては杞憂であってほしいが、だからといって黙ってもいられず、婉曲ではあるが危険を伝えようとする。

「なるほど……。アレクス、君の意見は?」

「彼女の意見は可能性の高い推察だと思う。ただ、セクタを跨いでテリトリィを構築するような魔物が現実にいるなら、それは非常に危険な存在のはずだ。もし、この先更に魔物の数が減るようなら、次のセクタへ進むときにより強く警戒すべきだろう」

「退路を確保するために、魔物を排除してから進むべきだと思うか?」

「念を入れるなら。だが、もし強大な魔物が通路を越えてくるようなら、それを脅威とする魔物は我々よりも素早く逃げ出すだろう。だから、しなければならないとまでは思わない」

「そうか……。ジェシカ、後衛の編成を変更すべきだろうか」

「いや、今のままで良いだろう。後ろのエスコートは元来前衛なんだ。後退する際の動きを改めて確認しておけばいいさ」

「そうだな、それでいこう」

 万友莉の意見を十分有り得る可能性と認識した上で、マークは調査の継続を決定した。

「……撤退する、という選択肢は?」

 万友莉はそれが検討すらされなかったことが気になって、つい尋ねてしまう。

「もしその判断をするとしても、それは脅威の大きさをきちんと理解してからのことだ。それが今回の我々の仕事だからね」

「……その通りですね。解りました」

 万友莉としては、安全を優先するべき、という思いがつい先行していたが、調査の目的が今後の本格的な攻略の下準備であることを思えば、事前に危険をしっかり認識することが重要というのは、確かに腑に落ちるものだった。

「マユリ、もしあなたが危険を恐れるなら、フォーメーションの再編も再考するが?」

 万友莉の疑問を弱気や不安と受け取ったのか、マークは万友莉にそんな提案をする。

「私はそんなつもりじゃありません。私が恐れるのは、私が傷つくことじゃなく、私の能力不足が誰かを犠牲者にしてしまうことです」

「! ……すまない、今のは私の不注意な発言だった。あなたを侮辱するつもりはなかった。申し訳ない」

「……いいえ、謝らないでください。私は侮辱されたとは思っていませんから」

「ありがとう。……ただ、一つだけ言わせてほしい。たとえ誰かに不幸があっても、最前列で戦うあなたに決して責任は無い。私たちも覚悟と共にここにいるのです」

 マユリはそのマークの言葉に、少なからぬ衝撃を受けた。彼らを侮辱しているつもりは微塵もない。だが、どこか驕りが有ったのではないか、そう思わされたのだ。

「ああ、もちろん、マユリが我々の心を軽く見ているとは私も思っていません」

 反射的に謝ろうとした万友莉だったが、機先を制したマークに釘を刺されるような格好になる。

「あなたのその優しさは誇るべき美徳だ。私は、そのせいであなたに心を痛めてほしくはない」

 そのマークの言葉は心からのものだと感じられるからこそ、余計に万友莉は自責の念に囚われそうになる。

「……ありがとう、マーク」

 だけど、そんな人たちだからこそ、やはり誰も犠牲になどしたくない――万友莉は、強く、そうも思うのだった。


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