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ツボの中から異世界 ~A step towards a new world~  作者: みたよーき


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47.一蓮托生

 次のセクタで同じくワニの魔物二匹を相手取ったネヴァ・ウィザの戦い方は、スルー・ザ・ダークネスのそれと比べ、かなり豪快だと万友莉の目には映った。

 ガードを務めるエミリィは、ジェイソンと比べ小柄だが、大きな魔物の攻撃も上手くいなすことで対応していた。体勢を崩した魔物に鋭く襲いかかるのは、斧、というよりはハルバードと呼ぶものだろうか、身長よりも長い斧槍を振り回すシャーロットだ。そのシャーロットを補助するように、シャーロットの武器よりは小ぶりな槍を持ったイザベラが連携して攻撃を仕掛ける。非戦闘員だと思われていたステファニとオリヴィアも、時折後方から魔法を使って魔物を牽制していた。武器が長柄ということもあって、マークたちと比べて動きがよりダイナミックに見えたのだろう。

 だが何より豪快と思われたのは、ジェシカの立ち回りだ。彼女の得物は、戦槌、いわゆるウォーハンマと呼ばれる武器だった。それが、飛びかかろうとする魔物の脳天に叩きつけられれば、魔物は脳震盪を起こしたらしくふらつきを見せたし、更にそこに、プロ野球選手もかくやあらん、と思われる鋭いスイングで横から叩きつけられれば、相当な重量があるだろう魔物が、きりもみしながら宙を飛び、地を跳ねて遠くまで転がっていく。これには万友莉も、感心するよりも呆気にとられた。

 後にジェシカは自らの仕事を、邪魔な魔物を遠くへ飛ばすことで別の個体を仕留めるアシストをするのだ、と言い、マークとビリィがやっていたのと同じ仕事をしただけさ、と笑った。そう聞かされた万友莉としては、ジェシカだけで十分仕留められたのではないか、などとも思ったが、並の魔物なら叩き潰されそうな痛撃を脳天に受けてなお動いていた魔物の姿を思い出し、その油断しない姿勢は見習うべきなのだろう、と納得することにした。

 なんにせよ、マークたちもジェシカたちも、確かな力量を示した。次は万友莉たちの番だった。


 万友莉とサラは事前に打ち合わせ、神器の力を変に隠そうとしないことを決めていた。だがそれは、十全にひけらかそうというわけではなく、単に“今まで通り”を貫こう、という再確認だ。そしてそれは、二人がクェズラント・ダンジョンで培ったコンビネーションが、より深層の魔物相手にも通じるかの試金石ともいえた。

 その上でもう一つ、二人で“絶対”と決めたことがある。

 それは、全員の命を何より優先する、ということ。何より、とはすなわち、“二人がマスタであることを隠すこと”より、ということだ。

 最初、それは万友莉一人の決意だった。

 万友莉はクェズラントで六十階層以下を経験してはいるが、ほとんどを鉄壁の守りを頼りに駆け抜けたために、その危険性を正確に把握できているとは思っていない。サラも、シゲハルと共に活動していた頃に六十階層手前まで潜ったのが最深だというから、六十階層以降は二人にとっても未知の領域といえた。

 万友莉は、自分一人ならどうにでもなる自信はあった。事実、もっとずっと深い階層で生き抜いたのだから。

「私は絶対に安全だから、もし危険な状況になったときは、サラはみんなと一緒に逃げて」

 だからその言葉は、万友莉が単純にそれが最善と考えて口にした言葉だった。

「……でも万友莉、そんな状況でも、きっと彼らはあなたを置いて逃げてはくれないよ? その鎧が、神器だから安全だ、って、説明でもしない限りは」

 そのサラの指摘は、万友莉が考慮していなかった可能性だったが、確かにあの人たちならばそうするだろう、とすぐに納得できた。短い付き合いでも、彼らのふるまいは、万友莉にそう思わせるのに十分だった。

「構わない。必要ならそうして。私は、あの人たちにも、無事でいてほしいから」

 だから、万友莉がそう決断するのに迷いはなかった。

 サラは、そんな万友莉の意思の固さを確認するかのように、万友莉のことをじっと見て、そして僅かの沈黙の後に、覚悟を決めたような表情で口を開いた。

「…………わかった。もし、そんな事態になったら、私も“全力で”自分と彼らを、護る」

 サラが力強く口にした「全力」、その意味は、万友莉にも正しく解る。

「……サラはそれで本当にいいの?」

 万友莉の問いに、サラは少しだけ考える様子を見せてから、口を開く。

「……万友莉はさ、誰かを犠牲にして自分が生き残ったら、絶対に自分を責めるでしょう?」

「う、それは……まぁ、否定はできないけど……」

 万友莉が絶対にしたくない後悔は、正にそれだった。そうなれば絶対に自分を赦せない。それが解るから、マスタであることがバレる程度のことは全然許容できる。ただ、サラに自分の全てを見透かされているようで、万友莉は素直に認める返事ができなかっただけのことだ。

 そんな万友莉の反応すらも解っていたかのように、サラは小さく微笑んで、続ける。

「……私がマスタだって知られることで、逆に彼らが私のために命を懸けることになるかも知れない。それは、やっぱり恐いよ。だけど、万友莉にそんな思いをさせるのも、絶対に嫌。だから、私も躊躇わない。……私たちは一蓮托生だよ、万友莉」

 万友莉は、その言葉が、悔しくもあり、情けなくもあり、そして、嬉しくもあった。

 サラに、そう言わせてしまったこと。

 サラに、そう言ってもらえたこと。

「それにさ、私がシゲさんから受け継いだのは、“神器(これ)”だけじゃない。エクスプローラとしての誇りだって、受け継いでるんだから」

 そう言って笑うサラの強さに、近づきたい、と万友莉は思う。

「うん、わかった。どんな手段を使っても、みんなで生きて帰る。絶対に」

「……うん、絶対に」

 そして、二人、握った拳をぶつけ合ったのだった。


 続くセクタに、万友莉とサラが二人で先行して踏み入る。他のメンバには、ギリギリまで信じて見守ってほしいと伝えてある。

 万友莉は周囲を見回す。マップと実際の視界を擦り合わせる作業だ。

 植生にここまでと大きく変わったところはないように見える。マップを見るに、水場も同じように存在するようだ。目に見える場所に魔物の姿はない。マップ上の魔物と思しき反応は先ほどまでよりも多いが、かわりに一体一体のサイズはずいぶん小さい。

 グェー、グルルル……、草むらの向こうからはそんな音が聞こえてくる。万友莉はそれを魔物の鳴き声だろうと判断するが、具体的な姿までは思い描けない。ワニの魔物が発していた低く響く唸り声とくらべれば幾分高く、なんとなく耳障りと感じる音だ。

 ワニの幼体と考えるよりは、他の魔物だと考えるべきだろう、万友莉はそう結論して、壁を左手につかず離れずで歩き出した。マップを信用していないわけではないが、実際の視界で見るべき方向が限定される方が精神的に楽なように万友莉には感じられる。マップの見られないサラにとってはなおさらだろうと思い、急がないときは自然と壁の近くを歩くようになっていた。

 万友莉たちが草むらまでもう少しまで近づくと、俄に聞こえてくる鳴き声のピッチが上がった。グエグエ、グェッグェッ、草むらの中から重なり合って耳に届くその音は、万友莉の脳裡に、ある生物の姿を浮かび上がらせる。

 その変化に、万友莉とサラは自然と足を止めて臨戦態勢に入っていた。そのままで僅かに様子を見るが、事態の変化はない。

 万友莉はハンドサインでサラに一人先行することを示し、じり、じり、と草むらへ距離を詰める。マップでは、草むらの中、手前側に十体強の反応がにじり寄り、他の反応は離れたところでじっとしている。

 やがて、万友莉の一歩に反応して、一番前の魔物が飛び出してきた。

 草むらの中から一足で万友莉の眼前まで跳び上がってきたそれは、万友莉が想像したとおり、しかしそれよりもずっと大きな、カエルだった。


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