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ツボの中から異世界 ~A step towards a new world~  作者: みたよーき


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27.蒸気機関車に揺られ

 ――カァン! カァン! カァン!

 全ての扉が閉じていることが確認されると、プラットフォームに鐘の音が響き渡り、間もなく列車はゆっくりと走り出した。

 汽車が牽引する車両の内、客車は二両のみだが、万友莉たちの乗り込んだ車両の、対面で固定されたクロスシートに、乗客の姿は疎らだった。

 席に余裕のあるおかげで、万友莉とサラは向かい合って座席に着いたのだが、今、二人の視線は宙をさまよい交わらず、どこか不自然な沈黙があるばかりだった。二人の間に漂うぎこちなさの正体は、気まずさ、というよりは、気恥ずかしさ、であり、そうなった原因はつい先ほどのちょっとしたやりとりにあった――。


「ごめんね、エクスプローラとして最初の仕事が、いきなり特別な依頼になっちゃって」

 客車入り口をくぐり、間近の席に腰を落ち着けて少しして、サラがそう切り出した。

「気にしないで、私も興味はあるから」

 その依頼を受けたのは前日。ダンジョンから帰還した万友莉とサラは、休養や基本的な装備の購入、クェズラント首都ベインジンのダンジョン区画周辺の散策などで過ごしていたが、三日目の夕方に二人は揃ってユニオンにマチルダを訪ねた。それはサラが、とある情報を知ったためだった。

 その情報とは、約一月前、サラがクェズラント・ダンジョンに突入してから十日ほどが経った頃、南の国『アウツウェルス』に新たな召喚者が現れた、という事実だった。

 ユニオンに伝えられた情報によれば、新たな召喚者は、神器『剣』を携えた『マスタ・オブ・スウォード』、ユーマという名の十代半ばの少年だという。

 サラは、神器を持たず召喚されたために冷遇されつつあった自分がシゲハルに助けられたことから、自分も他のマスタの力になりたい、という気持ちを持っている。マチルダもそれは理解しているが、ダンジョンから戻ったばかりのサラに休息を与えたくて黙っていたものが、結局他からサラの耳に入ってしまったわけだ。

 当然、それを知ったサラは「会いに行く」と既に決めていた。万友莉としても、サラのその想いに自分も救われた、という気持ちがあるから、否やはない。そんなふたりの気持ちを酌んで、マチルダは『指名依頼』としてサラたちに、新たなマスタの情報収集を命じた。

 ――そんな顛末があっての、旅立ちだった。

「それで、どう? このSL、驚いた?」

「驚いた、というよりも、不思議。でも、スチームだとあまり未来って感じはしないね」

「電車も知識としてはあるみたいだけど……。生活にも電気は使われているけど、発電方法はクリーンな、それもダムや波力を利用した水力と、あとは風力くらいだからね。さすがにこの広い大陸で電車を走らせるほどの発電量は無いんだろうね」

「ダム? 水をためる、あの?」

「そう、日本で言うダムと同じ。ちょっとした生活用水くらいなら地上の魔素量でも魔法で用意できるけど、この大陸はダンジョンのある都市圏に人口が集中してるから。いくら日本の都市圏と比べるとずっと少ない人口とはいえ、みんなが一斉に魔法で水を求めたら魔素は足りないだろうし、足りなくなったらどうなるかは判らないから、備えは必要なんだ」

「なんでも魔法で便利に生活できるってわけではないんだ……」

「昔、魔物が地上にもいたころは地上の魔素も濃くて、生活は今とだいぶ違かったらしいけど。でも、今は魔物がダンジョンにしかいないおかげで、この鉄道も作れたんだから。それは本当にラッキィだと思うよ。だって、これがなかったら大変だったよ? ここからアウツウェルスは、オーストラリアで言えばブリスベンからシドニーくらいの距離のはずだから」

「……それって、どのくらい?」

「ああ……日本で言えば、うーん、東京からだと……広島くらい?」

「もしかして……この大陸って、すごく広い?」

「大陸っていうくらいだもの」

 その端的な答えに万友莉は、そりゃそうだ、と納得する。

「とりあえず、この世界のことは少しずつ分かっていけば良いよ。私もそんなに詳しいわけじゃないけど、できる限りは教えるから」

「うん、ありがとう」

 そんな、なんてことないやりとりの流れが変わったのは、サラが何気なく口にした言葉だった。

「あ、それとも、マイがいるなら、私は要らないかな?」

「そんなことない!!」

 そのサラの言葉に、間髪入れず万友莉の口から大きな声が出た。それは万友莉の意思と関係なく飛び出したもので、発した万友莉自身が一番驚いた。それが日本語であったことにも気付いていない。

「そ、そう……?」

「……あ、……うん……」

 サラはさっきの言葉を冗談めかして口にした。まるきり嘘ではないかも知れないけど、本気というわけでもないだろう。それは分かるはずなのに、どうしてあんなに過剰に反応してしまったのだろう。こんなのまるで子供みたいだ――そんな考えが頭の中を過ぎって、万友莉は、強い羞恥に襲われた。

 身悶えしたいような、奇声を上げたいような、込み上げてくる訳の分からない衝動を何とか押し殺しながら、万友莉はどうして自分がそんな行動を取ったのかを考えた。いや、考えようとした。しかし、頭の中はただ恥ずかしさばかりに占められて思考が働ける余地はなく、ただ「なんで?」が浮かんでは消えるばかりだった。

「で、でも私も……、ほら……、もう万友莉の料理がないと困るし。あ、もちろん、料理だけが目的じゃなくて、万友莉と一緒のダンジョンはいつもより悪くなかったし、ダンジョンじゃなくたって一緒に街を回るのだって楽しかったし……って、いや、私、何言ってるんだろうね……」

 サラも、表情が見えないはずの万友莉の、しかしその恥ずかしさが伝播したのか、どこか照れくさそうに、そんな言い訳じみた言葉を口にする。

 それが万友莉にはますます恥ずかしく思えて、穴があったらなどとは言わず、今すぐ穴を掘って入りたい、そんな気持ちに苛まれるのだった――。


 ――とはいえ、そんな気恥ずかしさも、永遠に持続するものでもない。

 少しはものを考える余裕が戻った万友莉は、その少しなりに頭をフル回転させる。

 今の空気は険悪というわけじゃないだけマシだけど、なんとなく居たたまれない。何であんなことを言ってしまったのだろうか。自分は知らないうちにサラに依存しているのだろうか。だとしたら、この空気を変えるのも、サラに期待するばかりではいけない。そもそも原因が自分にあるのだし、何とかしなければ。せめて何か、私がきっかけを生まなければ。でもどうしたら? 何を言えば良い? ああ、どうして私はこうなのか。私がもっと……じゃない、今そうやって自己嫌悪したって意味ないし、何も好転しない。……だけど、本当に、こういう時、何をどう言ったら良いっていうの……? ああもう、こんなの、コミュ障には荷が重すぎる――。

 そんなことを考えながら、万友莉自身、なんだか空回りしている、という自覚はある。焦りも募る中で、結局、万友莉を救ったのは、直接現状を打破するわけでもないと思われる、ふとした思いつきだった。

「あ……、さっき、日本語で喋ってた」

 しかもそれは、万友莉が思いついたまま口から漏らした、独り言とも言える呟きに過ぎなかった。

「え……、ああ、私もだ」

 だが、サラも何かしらのきっかけを探していたのだろう、万友莉の呟きを耳聡く拾い、そう答えた。

 二人は思わず顔を見合わせる。

「ははっ……」

「へへっ……」

 お互いに、思わずそんな苦笑するような声を上げる。万友莉は、そう時間が経ったわけでもないはずなのに、なんだか久しぶりにサラの顔をちゃんと見た気がして、何となく嬉しくて、そしてじわじわと楽しいような可笑しいような気持ちが頭をもたげてきた。

 そして、それはサラも似たような心境だったのだろうか。

「ふふふっ……」

「あははっ……」

 お互いに自然と笑いが込み上げてきて、何が可笑しいのか解らないままに二人でひとしきり笑い合った。そして、それが収まる頃には、先ほどまでの空気はほとんど霧散していた。

「私……無自覚に、“ホリック”とまでは言わないけど、サラに頼りすぎてたのかも」

「そんなことはないと思うけど……。でも、“ディペンド・オン”より“リライ・オン”の関係でいたいね、お互いに」

「えっと……、依存じゃなくて信頼、って感じかな? うん、そうだね」

 下手の考え休むに似たり。そんな言葉が万友莉の脳裡に浮かんだ。結局、万友莉があれこれ考えたこととは無関係に“いつも通り”に戻ることができた。その大部分はやはりサラのおかげ、という気持ちも万友莉の心中には大きい。しかし、考え無しとはいえ一応は自分の発言がきっかけにはなった、その事実は、万友莉の心の内に、小さいながらも充足感を生んでもいた。


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