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ツボの中から異世界 ~A step towards a new world~  作者: みたよーき


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19/60

19.小さな許容

 目が覚めたら、窮屈な何かに閉じ込められていたこと。外から聞こえた声がこちらを“Crock”だと言っていたこと。自分の置かれた状況が分からず、恐怖や不安で身動きがとれず、声も上げられなかったこと。神器が魔物を倒せそうな形でない、マスタが見当たらない、反抗者たちから遠ざけるため、大まかにはそんな理由で捨てられることになったこと。死ぬかも知れない恐怖の中で、不思議な声が聞こえたこと。その声は神器を名乗り助けてくれたこと。落下の衝撃でドラゴンらしき巨大な魔物を倒したらしいこと。神器がその素材から剣や盾などを用意してくれたこと。食料なども用意してくれたこと。武器の使い方、戦い方も教えてくれたこと。神器が鎧に形を変えて護ってくれていること。おかげでここまで上ってこられたこと――万友莉はこの世界で目覚めてからのことをゆっくり回顧しながら、ひとまずはそれだけの事実をサラに語った。

「なるほど、神器をツボに隠していたんじゃなくて、ツボが神器そのものだったんだね。……で、ツボって、なんだろうね?」

「あはは……、まあ、そこ、ツッコミどころですよね……。でもまあ、神器なんて言うくらいですから……」

 サラが漏らした疑問には、万友莉も苦笑しつつ同意する。

「形が変わるのはまあ、この槍も先代が使っていた形からずいぶん変わってるわけだから、わからんでもない。ツボが鎧はさすがに変わりすぎだと思うけども。……ただ、装備を作ってくれたり、食料を用意してくれたり? それ、神器だから、で済ませて良いの?」

「ええっと……、ツボの、内側のものを『保護する』っていう役割を、最大限に拡大解釈すれば……」

「えぇ……、そんなのありなの? ……でも、この槍も私が望めば階段とかの方向を指し示してくれるし……、いや槍の『刺す』とは『さす』違いか……」

「あ、いえ、それで良いんだと思います、そのくらいアバウトでも。その、神器なんて言うくらいですから……」

「……便利な言葉だなぁ、『神器』って」

 万友莉が繰り返したフレーズに、サラがツッコミを入れる。ただ、万友莉の目には、そんな理不尽に対してもサラはどこか楽しそうに見えた。

「ちょっと私も、もっと考えを柔軟にしてみようかな……。でも、食料を勝手に集めてくれるのは便利そうだけど、『槍』の仕事ではないよなぁ……」

「えっと……、エクスプローラの人は、食事とかどうしてるんですか?」

 サラが呟くように漏らした言葉に、万友莉はつい頭に浮かんだ疑問をそのまま口にした。口にしてから、万友莉は、自分からそんな話題を出したことに小さく驚く。

 サラの為人がそうさせた面は大きいのだろうけれど、ただ、自己肯定感が低いからといって、食に関する勉強をしてきたことには自負もあるし、興味を失ったわけでもない。そういった面が少し自分を積極的にさせたのだろう、そう万友莉は自己分析した。

「基本、現地調達だよね。ユニオンに登録すると配布される冊子に、食べられる食材とか簡単なレシピとか載ってて、浅い階層のセーフ・セクタではそれ見ながら調理してる駆け出しのチームを見かけたりするよ」

 言いながら、サラは背負っていた背嚢をおろし、中から小さめの金属鍋を取りだした。

「私は基本ソロだし、これにあれこれぶち込んだ鍋で済ませちゃうことが多いけど――」

 サラによれば――そういう探索者は少なくない。ダンジョンの資源や素材を持ち帰ることを目的とした『キャリア』や『トランスポータ』と呼ばれる役割の人たちはもちろん、新たな資源などを探す目的を主とする『シーカ』、『サーチャ』や、魔物駆除に特化した『エクスターミネータ』などの人たちも、優秀なチーム(あるいはパーティ)ほど無駄な荷物は極力持ち込まない――とのことだ。

 そんな話を聞いて、万友莉は、エクスプローラとして生きていくと決めたくせに、何も知らないことに、今更不安を覚えた。

「……エクスプローラって、細かい分業があるんですね……」

「さっきの目的別の分類の他に、ゲーム的に言えば『タンク』とか『アタッカ』とか『スカウト』とか、そんな役割別の分類もあるよ。そういう得意分野が違う人たちでチームを組んで、その時々でユニオンからの、あるいはユニオンに持ち込まれた依頼を受ける。だから、一つの目的だけに特化したチームは少ないよ。まあ、この国は少し事情が違うけど……」

「事情、ですか?」

「うん、この国だけは、エクスプローラに限らないんだけど、義務教育の中で『アプティテュード(適性)ダイアグノシス(診断)』っていうのがあって、向いてる仕事に就くことを国から推奨されてるの。まあ、推奨っていっても、強制じゃないっていうだけで、色々問題もあるみたいだけど。でも、国としてはそれで上手く回ってるみたいだし、回るから国民も受け容れてる面もあるんだろうね。まあ、そんなお国柄だから、比較的保守的というか、安定志向というか。エクスプローラやってる人たちも、自分の仕事だけにフォーカスしがちなんだよね。だからあまり冒険しないっていうか……まあ、元々、アドヴェンチャラじゃなくてエクスプローラって呼ぶくらいだから、どこもダンジョンに潜る人たちは慎重な人が多いんだけど、この国は怪我率や死亡率がよそより低いの。それは良いことなんだけど、その分よそと比べるとダンジョン踏破階層もだいぶ低くて。この世界はダンジョン資源が重要視されるから……、さっき万友莉が言ってたレベルス(反抗者)……日本のマンガとかだと、レジスタンス、って呼ばれるようなやつかな、そんなのも出てくるんだろうね」

「そうなんですね……」

 この世界で生きる人たちには個性があって、国があれば政治があるしお国柄というものもある。そんな当然のことを突きつけられて、万友莉は、この世界がどれだけ不思議で理不尽でも確かな“現実”なのだ、ということを改めて突きつけられたような気がした。万友莉はそこに漠然とした“こわさ”を感じたが、それが己の怯懦ゆえか、それとも別の理由なのか、判断することはできなかった。

「っていうか、鍋を取り出して意識したせいか、お腹すいちゃった」

 そう言って、少し照れたように笑うサラに、万友莉が口を開いたのは反射的なことだった。

「あっ、それなら、えっと、良かったら、ドラゴンの肉、食べてみませんか?」

 万友莉は思わず言ってから、自分にしてはずいぶん積極的だ、と思って、そんな自らの行動にまた小さく驚く。そして、この提案をさせたのは、あれは絶対に食べてみて欲しい、という気持ちが強いせいだろう、とりあえずはそう思うことにした。


 ジュウゥッ……、といい音を立てて肉が色づく。

 万友莉は、アヴァタ越しで匂いが感じられないことを少し残念に思う。思ってから、下層で虫にばかり襲われていた時にマイに嗅覚のシンクロを遮断してもらったままだったことを思い出し、自分の迂闊さに気持ちが一気に萎びそうになる。

 だが、万友莉は軽く頭を振ってすぐに目の前に意識を戻し、集中する。今は自分のことはどうでも良い。サラには最高の焼き加減で提供したい、そんな気持ちがあった。

 ややあって。

「どうぞ……」

 万友莉はそう言って、サラに焼いた肉を乗せた皿を差し出した。

 肉は両面に軽く火を通しただけ、味付けは万友莉が最初に食べた時のように、塩と後掛けの香辛料だけだ。

「匂いはちょっと……甘そう? だね……」

 そう言ってサラは、興味深そうに、しかし少しおっかなびっくりと肉一切れを箸で口に運び、意を決したように肉をひと囓りした。とたん、まるで時が止まったかのように、サラはその動きを硬直させた。

 ほんのわずかな硬直から復帰したサラは、目を閉じ、天を仰ぐ。そして、ゆっくりと咀嚼しながら、その味をじっくりと噛みしめているようだった。

 その表情は、恍惚とした、と表現するようなもので、同性の万友莉が見てもドキリとするような艶めかしさがある。

 万友莉は、自分もあれを口にしている時はあんな表情をしているのだろうか、と思うと、誰に見られたわけでもないのに、なんとも恥ずかしい気持ちになる。ただ同時に、あれは仕方ない、という思いもあった。なので、万友莉はそれを指摘するような野暮はせず、見て見ぬ振りをすることに決めた。

「……これ、なんか、ヤバイ成分入っているでしょ……」

 サラは、肉一切れをじっくり味わった後、思わずといった様子でそう口にした。

「それ絶対思いますよね」

 万友莉は、最初の自分と同じような感想をこぼすサラに、心から同意する。

「え、なんか、言いたいこと聞きたいこと色々あったけど、全部吹っ飛んだわ……」

 そう口にするサラからは、その内面の高揚が手に取るように見て取れて、万友莉はなんだか嬉しい気持ちになる。こちらに来てから台所に立てて、自分がまだ料理することを好きでいられたことを確認できた時とは、また違う種類の嬉しさだ。

 これは調理なんていうほどのものでもない、ただ塩を振った肉を焼いて、香辛料を振っただけだ。それでも、自分がしたことが誰かを喜ばせている、そこに感じる嬉しさは、万友莉に初心を思い起こさせた。まだ少女だったいつか、その嬉しさゆえに食に関わりたいと思った、純粋な気持ちを。

「……次、焼けますよ」

「お願いします!」

 槍を突き出すよりも鋭いのではないか、という勢いで空になった皿を突き出すサラ。

 その様子に思わず笑いながら、万友莉は、就職に失敗してからはただただ後悔ばかりしていた自分の進路選択を、完全な間違いでもなかった、と、少しだけ認められるような気がした。


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