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ツボの中から異世界 ~A step towards a new world~  作者: みたよーき


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12.超越的なツボ

 マイが万友莉に対して提示した今後のプランとは、簡単に言えば『アヴァタで実戦経験を積みながらこのダンジョンからの脱出を目指す』というものだった。

 アヴァタの操作がマイにも可能であることを考えれば、それに任せてしまうこともできる。だが、万友莉自身が、それを良しとはしなかった。

 万友莉は、怠惰のために引きこもっていたわけではない。身体を動かすことはどちらかと言えば好きだし、むしろ、アルバイトの経験から、自分を追い込むほどがんばりすぎてしまう、そんな自覚がある。なぜそんなに必死だったのか、自分では分からないが、ただ、このままではいつか心身共に摩耗しきって壊れてしまうのではないか、そんな想像に漠然とした怖さを感じた覚えがあった。

 後に心が挫けてしまったことを思えば、それは予感だったのかも知れない。それでもなお、人付き合いの苦手な万友莉にとっては、ビジネスライクな対応でいいバイトの方が、身体的にはキツくても、学校よりずっと気は楽だったほどだ。

 そんな万友莉だから、この世界で生きていくためになるなら、それがスパルタ的なプランでも、それを否定する理由はなかった。

 だが、万友莉の中にあった、もっと大きな理由は、何もしない方が恐い、ということだった。何もしないことで、あの、一日のほとんどを自室にこもって鬱々としていたころの精神状態に戻ってしまうことこそが、何より恐かった。

 漠然とした無力感、絶望感の中で、もう一押し、何かきっかけがあれば、自分は“空へ跳ぶ”ことに躊躇を全く失うのではないか、そんな妄想じみた考えに、だけどそれを妄想だと言い切れない心理的感覚。自分はそんな人間じゃないと思っても、だけどその『自分』なんて明確な形はどこにも見つけられなくて、言いようのない不安と恐怖に押しつぶされそうになる。死ぬことそのものよりも、自分というものをつなぎ止め維持する“たが”なんて、ほんの些細なきっかけで失われてしまいそうな予感に怯えているようで、でも、それはどっちも根本的には同じことなのではないか――そんな思考は決して外への突破口を開くわけでなく、むしろ内の空虚を育て、それに心を削り取られていく幻痛に、ただじっと、うずくまるばかりの日々。

 万友莉は思う。あの、“日常”を努めて意識して過ごしていた日々は、そういった恐怖から目を逸らすためだけの、ただの逃避でしかなかったのかも知れない。

 一方で、だけど、それが無ければ、こんな訳の分からない今さえ、迎えていなかったのではないか。そうも思う。

 だから、誰かにそれを、言い訳だ、と罵られたとしても、それがあの時の私にできる唯一の精一杯だった、今なら万友莉はそう言える。

 そして、その唯一の精一杯は、万友莉の中で、まだ、終わったわけではない。

 だから、マイの提示した、無茶じゃないかと思うようなプランに、それでもどこか安堵を覚え、受け容れたのだろう。

 ――万友莉は考え、そう理解した。

 それが正しいのかは分からない。むしろ、どこか自分に都合の良い考えなのかも知れない、万友莉の中にはそう不安に思う気持ちもある。だがそれは、どっちでも良い、と切り捨てた。大事なのは、自分が後悔しない行動を選択することで、その先で正解をつかめさえすれば、行動を始める根拠の正誤なんて問題にならない。

 だから、そのために邪魔になる弱気なんて棄ててしまえ、万友莉は自らにそう言い聞かせた。


「それではまずツボポイントで『ツボ・メタモルフォシス』をアクティヴェイションしてください」

「……ハイ、マイさん、説明を要求します」

「了解。これはいわば『神器の機能拡張』で、アクティヴにすることで神器の形状をある程度まで任意に変えられるようにするものです。万友莉の身に直接影響するものではないため説明を省きましたが、今後は留意します」

「えっと……、それをアクティヴにして、どうするの?」

「現状のままでは防御に不安のあるアヴァタを護るため、全身鎧の形状に変形します。神器はこの世界のなにものにも破壊できませんし、その上でアヴァタとの間に衝撃を亜空間へ逃がすバッファを設定することで、防御に於いてはまず完全無欠となるはずです。また、アヴァタを完全に覆い隠すことで、いずれ起こる対人接触に於いて偽装効果等を期待するものです」

「……なるほど……」

 万友莉は口ではそう言いながら、それもうツボでも何でもないじゃん、と心の中でツッコむ。

 そして、なるようになれ、とばかりに、ディスプレイから『決定』を選択した。

「それでは、変形を開始します」

 マイの声と同時に、ディスプレイには外の様子が映し出された。アヴァタを少し離れた斜め上方から客観的に見下ろすような視点だった。

 アヴァタの背後で『ツボ』が半液状化したように形を崩し、アヴァタに飛びつくように纏わり付くと、あっという間に全身を覆い尽くす。そしてそれがアヴァタの輪郭にぴったりと集まると、瞬く間にそれは鎧に姿を変えていった。

 全身鎧、といっても、無骨な感じではない。マンガやゲームで見るような、着用者のシルエットがハッキリ浮き上がるような形状だ。万友莉は自らのスタイルが露わな点に釈然としない思いを感じはしたが、百歩譲って動きにくいよりはマシだ、と思うことにした。そうして無理矢理自分を納得させた万友莉は、改めてディスプレイを注視する。

 鎧は若干黒くくすんだ銀色で、鉄や鋼製の鎧に見えなくもない。間接部は、おそらくボディスーツと同じ材質の革だろうもので覆われていて、隙間は無い。唯一あるとすれば、顔面部の『T』と『Y』の中間くらいの形をした細いスリットだが、その奥も何かで覆われているのか、暗く、黒く、アヴァタの顔面部は全く窺えない。

 そして、頭頂部から少し下がった後頭部に、小さな出っ張りがあるのが万友莉の目を引いた。気になった万友莉がその部分をよく見れば、出っ張った部分には何かがぴったりと埋まっているようだった。

「? ……穴に、栓? ねえマイ、この頭のやつ、意味があるの? それともただの飾り?」

「ツボですから」

「はぁ……? …………!!」

 マイの、極めて端的な回答に、万友莉の思考は一瞬、宙をさまよった。だが、そう間を置かずにそれが意味するところが理解され、そして、万友莉は思う。

 ――ツボとはいったい……?

 つまり、これは『口』なのだ。頭のこの部分があることで、マイは鎧をツボだと言い張っている。『口』が有りさえすれば、その下が鎧の形をしていても、ツボなのだ、と。

 では、ツボをツボたらしめている『勘所(ツボ)』とは、その部分なのだろうか? その、深遠――でも何でもない疑問に対し、万友莉は思う。んなわけあるか、と。

 そんな万友莉の思考を知ってか知らずか、マイが語り出した。

「ツボは、美術品としての価値を見出されたりもしますが、本質はその内に何かを『おさめる』ことにあります。『保存』や『貯蔵』、『防護』、『隠匿』などなど、多岐にわたるツボの役割が、内に物品を収納することによって実現されることは、論をまたないでしょう」

「……要は、その役割さえ果たしていれば、形状は問題じゃない、ってこと?」

「少なくとも、神器としての『ツボ』は、本質を違えなければ、拡大解釈でもこじつけでも、多種多様な役割を十全に果たすことができるということです。つまり、万友莉が固定観念に囚われなければ、当神器の可能性は無限に広がりうる。マスタとして、そのことは、よくご理解ください」

「無限の可能性って……。それは、例えば、極端な話、この世界を滅ぼすようなことも?」

 万友莉はそれを、冗談めかすように口にした。だが、マイの返事は――

「できます。万友莉がそれを本気で願うなら」

 即答、そして、断言。そのマイの言葉にはただ事実のみが厳然とあって、それが万友莉に、途方もなく巨大で恐ろしい何かに圧倒されるような怖気を感じさせた。

 背筋に冷たいもの感じた万友莉は、ただ沈黙の中で、知らず身を竦めることしかできなかった。


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