第8話 怪異
感覚を頼りに走ってみると、海。
そこには女がいた。
女の腰にはクライムコンバーター・バックルがある。ベルトの色は白い。この女が何かを企んでいるのかと思い顔面を蹴りつぶそうと考えていると、またも感知。どうやら違うらしい。何か怪我をしているらしい。
「大丈夫か、お姉さん」
「か、怪人……」
「大丈夫か? 怪我をしているようだけれど他の怪人にでも襲われたか?」
「いや、ちがうの……あの、なんて説明すればいいんだろう。あのさ、あの……幽霊とか妖怪って信じる」
「怖くておしっこチビッちゃう」
「ああもうだめそう……」
どうやら幽霊や妖怪などといったものは実在するらしい。そういうものをまとめて「怪異」と言うらしいが、この女・菊池八重はそういった怪異と戦っているのだとか。
「なぜ?」
「怪異は……人を殺すんだ……それって、とてもいけないことなんだ。人は幸せになるべきだから……で、でしょ?」
「たしかにそうだ」
怪人ってまともなのもいるのかと思い半分驚きながら卓也はさっそく感知能力を働かせた。何かが蠢いている。
「あっ……気をつけて……! 怪異はクライムコンバーターを動作不能にしてくるよ……!」
「ズルだろそれは」
どうやら、八重の話はほんとうらしい。クライムコンバーターの様子がおかしい。感覚にズレがある。仕方がないので素の力で戦う。
「来た!」
海から上がってきたそれはどうやら内臓の集合体。ちかくの姥捨山とは何の関係もないただの住み着いただけの化け物。伸びてきたはらわたを叩き落とし海から引きずり出す。素手で触ると、どうやら手が爛れてしまう。
「私にお任せ!」
八重が化け物の顔面に蹴りをたたき入れた。跳ねとんでしまい着地の仕方が分からないようだったので受け止める。
「ああいうのは普段どうやって倒してたんだ」
「頑張って蹴ったり殴ったり……」
「ふむ……それは俺にはまだできそうにないなぁ……」
「どうして?」
「まだ筋肉がクライムコンバーターに追いついてない」
クライムコンバーターの筋力強化の影響で怪人の筋力はそれに耐えられるように強化されていく。卓也はまだその段階にはいないらしい。そうは言っても徐々に強化は始まっていて、小石くらいなら握りつぶせるが、戦闘に役立つような段階ではない。
「じゃあ腕と脚だけ変身させるといいよ! 私もよくやる。たぶんできるよ。えーっと……君名前は……」
「くら………橋本卓也」
「たっくん!」
「たっくん……?」
怪異はまたもはらわたを繰り出した。卓也は八重をおろし、両腕に強化皮膚をまとわせ、殴りつける。怪異は大きく歪み、弾き飛ばされる。八重は卓也がぐるんと回転し地面に腕をついたのを見ると、何かを感知した。そして、小さくジャンプし、卓也の足裏に着く。次の瞬間、強力なばねのような運動によって八重は高速で飛び出した。空中で伸身を翻し蹴りを叩き込むと、怪異は爆発した。
「こんなにはやく怪異を倒せたのって初めて」
「そうかい」
「ありがとう、たっくん」
「どういたしまして」
排気口から酸素が吹き出す。強化皮膚が消えていく。
「君、この近くに住んでるの?」
「いや、亜水のほうに」
「遠いね。でも私の家からは近いよ」
「あんたはどちらに?」
「流川市に」
「おや。俺は前までそこに住んでましたよ」
「えっ、奇遇だね!」
「月イチでしか開かないパン屋の近くに」
「あっ、私もそのあたり」
「おお」
「近いねぇ」




