第7話 嫌な感覚
「い、一応……歴史調べのメモとか、そういうの集めてんで、俺亜水に帰ったらすぐに発表用のやつ作れますよ」
照れながらもそう言うと、洋子と光太郎のかわいがりは加速してしまった。「おおすごいや、えらいや」「できる子だねぇ!」と何かと理由をつけて褒めちぎるので、おそろしい。
「もう止まんねぇや」
苦笑い。
その時、嫌な気配を感じる。空気がざわつくような、皮膚に直感的な痛みが走るような感覚。洋子が卓也の変化を感じて、頬をぷにぷにするのをやめて「どうしたの」と訊ねた。
「…………」
その頃には、感覚は消えていた。
「……いや、なんでもないです。なんだか変な感覚があったので、なんだろうと思ったんですけど、姥捨山って聞いてちょっと怖がってるのかもしれないです」
「ようし、そうだなぁ、実は俺たち全員鎮魂の意を胸に抱いちゃってるからな! 気分が落ち込んだままじゃ観光もクソもない! うまい飯でも食いに行こうぜ!」
そうして、郷土館を出て近くにあった漁港近くの飯屋に向かった。海鮮丼がうまいらしい。二葉はじっと卓也の隣に座り込んだ。「なんで距離置いてんの」だとかなんとか小声で言いながら。
「人間関係がこじれるのが嫌だから……」
「こじれるわけねぇだろ、小心すぎ」
「ンン……野生の勘みたいな」
実際は野生とは程遠い怪奇の機械で得た空間把握能力・人心認知能力の賜物なのだけれど、それを言って理解されるだろうと思えるほど二葉には期待はしているわけではないので、ジリジリと視線が刺さるのを感じながら、ほどほどに誤魔化しつつ。
「なんだそりゃ。いいじゃないかよ。見せつけていこうぜ、俺たちが最高のコンビだって言うところをさ」
「それでカップルだって勘違いされてダメージ受けるの君じゃないかよ。後悔しちゃうぞ」
「たぶんもう後悔しねぇよ」
「何わかんないことを言ってんのさ……」
海鮮丼はとても美味かった。
しかし、いい思い出の合間に嫌な空気が挟まってくる。店を出る際、郷土館で感じたような嫌な気配をまた感じる。一度振り返るが、やはりなにもない。進一はこういう卓也の不思議な行動を「二葉に気に入られるためのキャラづくり」だと思っているが、そんな甘いことをしていては何もできやしない。
「どうした?」
「…………」
今度の気配はなかなか消えない。
腰のクライムコンバーター・バックルに手を当てながら、いつでも変身できてしまえるように構えている。もしかしたら他にもクライムコンバーター・バックルを装着した馬鹿野郎がいるかもしれない。そうだった場合、馬鹿野郎の多くは人間の屑でもあるので、オカルト研究会に手を出してしまうかもしれない。
それだけは許せない。
「卓也?」
「少し、別行動に出る」
「えっ? 何言ってんだよ、これから旅館だぜ」
「あとで追いつく」
危機感知。
卓也は二葉が何かを言うのにも構わないで走り出した。少しばかり怪人の筋力を発揮したので、一メートル程度ならば一秒もかからず走り抜ける。
光太郎の「あいつ陸上いったほういいだろ」というような言葉を背にして、二葉はびりびりと肌を注すような痛みに腕をさすった。




