第4話 牙
楽しい日々だった。友人ができたのは生まれて初めてのことだった。友人のいない間は想像もできなかったことだけれど、心のささえになってくれるような人がすぐ近くにいると、自殺級の絶望さえ目にはいらない。
純一は時が経って卓也が笑うようになったのを「いいことだ」と受け止めていた。これもすべて二葉のおかげなのではないか、と思う。たまには感謝の言葉でも告げてみたいけれど、コミュニケーション能力が人よりも若干遅れているので、なんと言えば良いのか分からない。
とりあえず感情を全て表に出してみるか、しかしそうすると若干気持ちが悪い気がするので、やはり言葉は選ぶにして、どうすればいいのだろう。
オカルト研究会がおひらきとなって帰り支度をする中、卓也は「やっぱりたまには感謝の言葉を伝えたほうがいいよなぁ」というようなことを考えてばかりいた。
どうしようかなぁ、どうするかなぁ。そういうことばかり考えながら気がつけば畦道のなかにいた。家は目前まで迫っていた。ふと、口が動いた。
「二葉」
「おん? どったの」
「…………なんというか、いままでずっと考えてたんだ、今日。ほら……俺って、下向きな性格をしてんじゃないか。だから、今の今まで友達とかできたことなくてさ、だから、死にたくなったときとかすぐに死のうとしちゃってて。でもそれって健康的じゃなかったんだ。それが分かったのは、お前と兄弟になれて、友達になれたからなんだ」
「おー? おー……うん」
「それで、迷惑かけるかもしれないけど、言わないとって思ったから言うんだ。俺やっぱり、お前と出会えて良かったなって。俺やっぱり、お前のこと好きだなって」
「おお……」
二葉は卓也から顔をそらしてから「じゃあずっと一緒にいようぜ」と返した。卓也は「それとてもいい」と返す。
帰宅。
「お前、好意をド直球に伝え過ぎなんだよ」
「いけないか?」
「いけないよ。お前、俺が見た目通り女の子だったら多少関係が拗れてたぜ」
「そんなにいやらしい言葉かい? 好きってのは」
茶を飲み団子を食ってひとつ休憩。
そうしていると、危機が見える。
思わず立ち上がって、二葉が「どうした」と言うと、思わず口をついて出たのは「純一さんがあぶない」という声だった。
純一はその時目の前に男を据えていた。
男はサングラスをしており、腰には大きなベルトがある。クライムコンバーター・バックルの存在は、公にはなっていない。
それを一目見ても脅威には気づけない。
何故か知っている人間だけがただあり、どこからか誰かが手に入れる。それを自ら装着する者を、馬鹿野郎という。
それはひとつ、馬鹿野郎であった。
剣が現れた。そしてその剣を蹴り砕く黒い怪人。
サングラスの男は「ユニバース」とつぶやき、クライムコンバーター・バックルの性能を発揮させる。計器の針が揺れ、そして、全身を強化皮膚で覆い隠していく。
「彼に何をするつもりか」
「殺すんだよ、わかるだろ。俺はね、警察っていうのが嫌いなのよ。だから、使えるものが手に入ったから、殺すんだ。あいつはね、ずーっと嫌いだったんだ。俺にないもの全部持ってる」
「なら、持って生まれなかった貴様が悪い」
黒い怪人・卓也は剣の怪人を殴り飛ばした。剣の怪人は立ち上がろうとするけれど、追い討ちのように卓也が蹴りつけ、肋骨が折れたところでギャアと叫んだ。
「持って生まれなかっただけなら同情の余地などあったろうけれど、貴様はそうして他人を害することしか選べない。だから、持つことをしらない。他者を理解する心を持たない貴様のような人間の屑がクライムコンバーターなど手にしても碌な事にならないのは目に見えていたろうに、初めて手に入れた自分だけのスーパーパワーとでも思ったか。情けない奴」
俺の宝に手を出すな──醜い怒り。
「なるほど……これが他害性かい?」
「ちくしょお……」
「何か言ったか」
背骨を折り砕いた。
どうせこんな事をしても死なないのだから、無力化さえできればよかった。仰向けにして、クライムコンバーター・バックルの吸気口を握り潰す。




