第11話 そして
夜中。寝ていると身体に違和感がある。二葉はそうしてふと起きて、便所に向かった。そこで気付く。
「あォ……? チンポなくない……?」
夢でも観てんのかなぁ、そんな股間のブツがなくなることなんてねぇもんなぁと思いながら、目を擦って、便所内の電灯をつけてもう一度確かめる。
「チンポねぇんだけど……」
これ俺だけがそう見えているとかそういう感じなのかな、もしそうだとしたらだいぶ病的なことになってしまっていないか、とそういうふうに思いながら若干焦燥感に胸がドクドクと脈打つのを感じつつ、寝相が悪すぎてシャチホコのようになっていた卓也を叩き起こし便所に連れ込む。
「あれ……? あれお前チンポなくない?」
「やっぱりねぇよな……」
やっぱりなかった。
何故か股間のアレが無くなってしまった。夢だと思いたかったけれど、卓也までもが付いていない事を認識してしまった為、これは紛れもない事実だということを思い知らされる。
「本当にないの?」
「ちゃんとよく見ろ、あるかも知んないだろ」
「あるわけねぇだろもうここまでなかった。タマまでねぇじゃん」
「ほんとうか? 君、物忘れ激しいだろ」
「バカ言え、チンポとタマ忘れる奴がいるか」
「じゃあこれはいったい……?」
そうしていると、卓也の危機感知能力がビンと張った。
「怪異だけ相手にできりゃ良いんだけど……お前みたいなのも相手にしないと駄目なのかい……!?」
「知らねぇよ、怪人同士ツラ合わせたら殺し合いだろ」
声。
「そういうもんなのか。知らなかった」
部屋を出て、廊下に男がいるのを見つける。二葉は慌てて卓也の後を追う。
「コイビトと旅行かい……!? ガキの癖にませている」
「バカを言う」
二人は腹に巻いた物騒な機械を露わにしてコールする。
「ユニバース」
「変身」
クライムコンバーター・バックルの吸気口が忙しく働き、計器の針が揺れ動く。筋肉の駆動とともに強化皮膚が形成され、つなぎ服のなかに戦士の肉体を作り出した。
「貴様は俺だけを狙っていたらしい。なかなかに潔い奴だから貴様は正々堂々戦って差し上げるよ。」
「俺もあまり罪なき彼らは傷つけたくない」
「本当に良い奴なんだな。友人になりたいくらいだ」
「怪人は殺し合うんだ。だから力なんだ」
「理解はしないが、受け入れるよ」
拳がぶつかり合う。ドッポッパパパン、と乾いた音が響き、おそらく実力は拮抗。そうなると、決着をつけるのは技量の差である。
ほとんど同時に拳を繰り出した。卓也は怪人の拳を躱し、怪人も卓也の拳を躱す。次の瞬間、卓也はそこから肘を伸ばし、手の甲を怪人の右側頭部に叩きつけた。
「ンゲェッ」
「生殺与奪の権は我にあり」
「ガキッ!!」
よろけた怪人の腹に蹴りをめり込ませる。倒れた所、立つのを待ち、立ったところで顎に対し突くような蹴り。
「正々堂々本気のキックだぜ。こんな無粋な事、本当は嫌で嫌で仕方ないけど、潔い貴様の為に、俺……応じる為に、キックするぜ。怪人は殺し合うんだろ、何度でも立ち上がってこい」
怪人が起き上がらなくなるまで、それは続いた。その間、その廊下は二人だけの世界だった。卓也は変身解除して倒れる怪人の呼吸を確認すると、「殺さずに済んでよかった」と呟いた。




