表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
UNIVERSE  作者: 蟹谷梅次
10/11

第10話 広縁の君を

 やはり、何か秘密があるのかもしれない。


 二葉はそんな事を考えながら広縁で本を読んでいる親友を見る。橋本という家からやって来た倉瀬卓也。兄の純一いわくどういうわけかあの男は死にたがっており、まともな精神状態ではなかった。


 では何故そうなってしまったのか。別に生まれつき死にたがりという訳ではないだろう。何故そのような人間になってしまったのか。大きな問題を抱え込んでしまったからだろう。ではその大きな問題とは何なのだろう?


 本人に直接聞いてみればスッキリするかもしれないが、悲しい事に二葉はまだポンポン秘密を打ち明けてもらえるほど信用されてはいない。


 じぃーっと見つめていると、ふと卓也と視線が合う。少し赤色の入った茶色の瞳。彼は情けなく垂れた前髪をがしっとかき上げながら「どうかしたか?」と言わんばかりに眉を上げた。


「何読んでんの」

「郷土館そばの本屋にあったんだ。〈水都偉人伝〉……水都をつくったいろいろな人の話が書いてある。とてもおもしろいよ」

「文学少年だなあ。怪談読めよ」

「いけずだなあ。俺が怖いの苦手ってわかるでしょ」

「わはは」


 ごまかした。


 思わず。


 もし例えば二葉がここで「お前のことをもっと深く知りたい」なんてことを少しでも言葉を選んだとして打ち明けてみれば、卓也はどのような反応をするのだろうか。


 二人しかいないこの客室が二人だけの世界になってしまうような、生ぬるい夏の気配が流れるなかで、彼はどのような顔をしてくれるのだろうか。


 カラッとコップのなかの氷が鳴いた。


 どちらかが腕を伸ばせば頬に手が届くような距離で、二人は理由も分からずに見つめ合っていた。


 そうしているところに進一と光太郎がやって来た。進一はなにやらセクシャル的な営みがあったんではないか、というような二人の距離感にすこしピリつきながらも、何もわかっていないふりをして卓也に「作務衣着ろよう」と言った。


「俺は作務衣いいよ、こっちのほうがいいんだ」

「なんで作務衣よりつなぎのほうがいいんだよ」

「卓也は変だからなあ」

「あはは……」


 彼は私服となるといつも灰色のつなぎ服を着ていた。服がめくれて腹が出ることが無いから。卓也は誤魔化すように笑ってから、二葉の頬に手を当てて、微笑む。


「君の言いたいことは、俺たちにはまだ早すぎるから、言わない」

「…………いけずはどっちなんだ……」

「どちらもでしょ。俺たちお似合いのコンビなんだ」

「そうやってからかうんだ! ほほぉ〜! 少し前までビクビクしていたばかりの激弱男のくせに、少し女にモテるようになったからといって、今度は親友すら口説き始める」

「過剰反応すぎない……? 別に女性に好かれるようになったのと君に語弊のある事を言っちゃったのは無関係だろ! なんなんだ君!」


 さっきまでの柔らかい熱気をなかったようにするように、いつものふざけ尽くした軽口を。氷のように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ