第1話 プロローグ
計器の針がグワと右に振り切れると、取り付けた変換装置から酸素が吐き出される。クライムコンバーターと呼ばれるそれは、二酸化炭素を吸い取り、酸素に変換する装置である。それの薄型を「喜屋武式変換装置」と呼び、それに帯をつけ腰に装着すれば、戦闘人間というものになる。
巣食う。
喜屋武式変換装置のクライムコンバーター・バックル部分を触ると駆動していることが分かる。腹部に固定されたそれを取り外すには特殊な手術が必要になるため、「取り付けたい」と言って安易に手を出しても後戻りはしづらくなってしまう。
そうでありながら、副作用は大きい。神経系を変換の維持装置やクライムコンバーター内部に備わった制御機能に支配され、いずれ脳が侵されてしまう。すると、人格に変化をもたらす恐れがある。
それも構わないで装着してしまう奴等のことを世間一般では「馬鹿野郎」といった。
中学生‥‥‥橋本卓也は薬を盛られ眠っている間に無理矢理クライムコンバーターを装着させられてしまった。どういうルートで手に入れたのかは分かっていないが、母親がそうして卓也を怪人にしたのには理由はなかった。ただ、「そのほうがかっこいいと思ったから」というものだった。
クライムコンバーター・バックルの存在は明らかにされておらず、最初それを起動させてしまった時は突如自分の身体が怪人になったので驚き、そして絶望した。腹に埋まったそれを取り外すツテもない。
卓也は死のうと思ったが、どうやらこのベルトが腰にあるうちは決して死ねないようになってしまったらしい。首を吊っても高所から落ちても水没しても決して死ぬことなどできなかった。
これの使い道は何? 何のために生み出された?
悩んでいてもわからない。‥‥‥一生何もわからない。




