一章完結記念SS① 〝不老〟の会得
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※ 先日の反動、あとSSなのもあり少々短めになる予定です
※ そもそも書き始める前にこの前書きを書いているので結局どうなっているかはわかりません()
※ 星ください(強欲)
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「ついに500層...か」
目の前の大扉を見上げる。
そこには――どこか人間に冒涜的な見た目をした生物が二対、書かれてあった。
:ついにかー
:人類史上最速ですね
:↑そもそも普通の人類は2層とかって止まってるのにそれと比べてもよ()
:取り敢えずRTA最速ということだけはわかった
「いや、別に僕RTAしてるわけじゃないからね?ただただ深層――ダンジョンの踏破を目指して攻略していってるだけ」
最近、どうやら僕の配信を見に来る人に僕の目的をよく知らない人がいる。
配信タイトルは「ダンジョン完全攻略するまでやめれまTEN☆」にしてるし、普通に義務教育受けてたらこれくらい完全攻略を目標にしてることわかると思うんだけど、なんでなんだろうね?
僕はダンジョンができてすぐとは言わないけど、それでも1年以内には潜り始めた。
だから今の義務教育がどうなっているのかは知らないけど、もしかしたら国語の授業がなくなってダンジョンに関する授業でも追加されたのかもしれない。もしそうなってるならちょっとうらやましいかも。僕、国語の授業あんまり好きじゃなかったし。
作者の考えを答えろ?いやいや、普通の人が他人の考えを読めるはずがないじゃないって。僕たちは別にニュータイプじゃないんだから無理言わないでくれよって。
ずっとそう思ってたんだよね。
さて、くだらない考えはここまでにして。
「さっそく、500層。攻略するとしようかな」
ちょうど500層。きりがいいし、もしかしたら完全攻略かもしれない。
それにしては500層の魔物は弱かった気もしないけど、可能性を完全否定することはできないしね。
楽しみだな、この先が――と、そんなことを考えながら、扉に手を当てる。
相変わらず不思議なのは、手を当てただけで自動で開き始めること。
どの層のボス部屋扉はバカみたいに大きいし、自動で空かなかったら開かなかったで「重い!」って文句を言うんだろうけど、それがわかっていても不思議なものである。
あと、一つ文句を言うのであればできればあと少し早く空いてほしい。
遠足前夜の明日を待ち焦がれる現象なのかはわからないけど、とにかく「遅いなぁ」っておもっちゃうんだもの。
――そして、体感2分くらいは待機し、ようやく扉が開ききった。
「よし...突撃するか」
:500層のボス、どんなのなんだろ
:命大事にやで!
:↑多分死んでも蘇るくらいはしてくると思う
:というか、最近こいつの実力と魔物の実力が釣り合ってないと思うこと多いし瞬殺できる可能性あり
:できたらいいなぁ
:これで完全攻略だったらいいんだけど...そりゃないか()
いつも通りマイペースなコメント欄を眺め、覚悟を決める。
――最近僕が使う獲物は、西洋で使われてそうな片手剣を二本。いわゆる二刀流ってやつである。
どこまでも黒く、まるで夜空を連想させるような剣と、まるで雪のような儚さを感じさせる白い剣。
どちらも450層のボスが落としたドロップ品で、切れ味もいいし耐久力もそこそこ。便利に使わせてもらっている。
二つとも、少し特殊な能力を持っているのが肝だ。
「一応、入る前から武器は抜いておこうかな」
背中に十字にかけたホルダーから剣を抜く。
別に僕の服は黒いコートというわけではないけれど、というか身長も髪の長さも全く違うけれど、黒の剣士気分だ。
二刀流だし、強化された身体能力であれくらいの動きは再現できるし、ロールプレイするのも割と楽しい。
――ということで、右手に黒剣、左手に白剣を持ちながら、ボス部屋へと足を踏み出す。
「...ふむ」
あたりを見渡すけれど、そこには何もいない。
...となると、上かな。
そう思い、上を見上げようとした瞬間――
――ボス部屋の扉が、自動的に閉まった。
「...え?」
:あれ?
:扉閉まった?
:出れない?
:逃げれないじゃん
:死ぬ?
:やばいって
これまでのボス部屋では、入ったら扉が閉まるとかはなかった。
だというのに、この状況。
初めての状況に、コメント欄が阿鼻叫喚になる。
「死ぬか、倒すか。それとも、第三の選択肢が?」
自分でつぶやいたけど、たぶんそれはない。
ダンジョンの目的というかこれまでの趣向的に、相手は全力で僕を――侵入者を殺しにかかってきているから。
じゃあ、果たして何なのか。
わからないけれど―――とにかく今は避けなければ死ぬ、と。
僕の〝本能〟が、そう警鐘を鳴らしていた。
――故に、飛ぶ。
敵は、上だ。そこにいるのは、扉が閉まった瞬間に気配をとらえている。
逃げなきゃ死ぬ? ははっ、僕を殺せるなら試してみるといい。
自慢じゃないけど、僕の勘はよく当たるんだ。――まぁ、自分が死ぬといった予感は、絶対にあたることがないんだけど。
気配、そして僕の〝勘〟にすべてを任せ、地面に向かって【風魔術】を行使。
簡易的なホバリング状態をうまくコントロールし、気配の場所に特攻。
――もはや考えることをやめたのか、それとも本能に従ったのか。
どっちかはわからないけど、〝視認できない物体〟が僕に突撃してくる。
たぶん、この層のボスはゴーレムだ。それもたぶん、このボス部屋をすべて自分の体で覆っている。
簡易領域とでもいったところだろうか。自身の体内故に、自身の〝法則〟を適応できる。
――まあ、それは僕自身には効かないようだけど。
だけどまぁ、僕の持ち物には効くようで、僕の剣はいつも以上に重みを増している。
たぶん、適応する〝法則〟は質量の増加、かな。
「ふふっ。残念だったね、ゴーレム君」
重い? ありがとう。
重くなるってことは、それすなわち攻撃力も増すということ。
コアがどこにあるかはわからないから攻略には時間がかかるだろうけど――瞬間、黒い閃光が走る。
「僕の剣は特別製でね。そもそもが軽いのになぜか硬い。だから――いくら質量を上げようが、そんなの雀の涙程度にしかならないんだ」
だから上がる攻撃力も微量とはいえ――嬉しいことに、今のこの剣の重さは僕の好きな重さそのものだ。
遠心力に任せて振ることもできるし、少し力を籠めれば精密な剣技も...僕の技量以内でできる。
「飛んでいるからって、地面に攻撃できないと思った?」
――《天候操作 雪》
白剣――名は、〝ウル〟。
北米神話の雪の女神の名を冠し――なんと、周りに雪を降らせる能力を持つ。
そして、降った雪はすべて操作可能だ。
そして――《夜の招来》
黒剣――名を〝イシュンバグ〟。
ソポタミア神話におけるよると闇を司る神の名を冠し――あたりを自身の領域にする力を持つ。
「二つの能力を同時稼働させた僕は、強いよ?」
――《暗雪の影》
二つの剣を同時使用したときのみ使える特殊能力。
あたりは暗く、そして白い。
相手は僕を認識することができなくなり――一方的に、僕に蹂躙される。
まあ、僕はこの力があんまり好きじゃないんだけどね。
それでも――たぶんこの技を使わないと僕、勝てないし。
あたりを見渡すと、そこにあるのは膨大な数のゴーレム。
〝法則〟の書き換えではなく、このボス自身の力といったところだろうか。
たぶん、魔力が許す限り永遠に手下を作る的な力だろう。
1対多数。今、総力戦が始まった――
黒い閃光が視界を埋め、それを追うように雪がただよう。
ゴーレムとはいえ、この世界――ダンジョンのボス。
どうしてかはわからないけど、どうやら寒さによる低速化が適応されるようで、割と簡単に刈れている。
総力戦が始まり、1時間をたとうとしている今もなおゴーレムが生産されるのは厄介でしかないけど、幸い僕の体力は無尽蔵といえる。
たぶん、あと1週間くらいなら不眠で戦闘を続けられるだろう。代償としてそのあとにめっちゃ寝るのは明らかだけど。
「何かいい方法はないかなぁ」
両手に休む暇はない。休んだ瞬間僕の場所までゴーレムが来るのは明白だから。
だけど、剣を振りながらでも考えること、そしてみることはできる。
割と余裕あるし、コメント欄、覗いてみようかな。
:うわー
:無双や
:白くて何も見えん
:明るいのに暗い不思議
:そういえばこれって、雪操れるんだっけ
:降らせるだけじゃなかったはず。さっきから敵をかこったりしてるし
:...こっちも雪のゴーレム、創れるんじゃね?
「...天才か?」
考えもしなかった。
これでゴーレムを作ってみようだなんて。
体から意識をなるべく分離させる。だけど、体は止めない。
イメージで言ったら、体をマクロで動かしているような感じかな。
...よし、集中だ。雪がゴーレムをかたどり――この部屋を破壊するところを。
ゴーレムは...もう、日朝のロボットみたいな形でいいか。それが一番思い出しやすいし。
じゃあ、攻撃方法はビーム一択かな。どうせなら僕も中に乗ってみたいし、登場席も作っておこう。
――その瞬間、雪が一気にかたまり、思い通りのロボットの形になる。
「できちゃったよ」
:できちゃったねぇ
:どっかから著作権侵害で訴えられそう
:日曜日...朝...特撮...
:これ乗れるの?
「もちろん」
幸い今はゴーレムの生産が止まっている。
たぶん、ここで起きたことに驚いているのだろう。
「とりあえず...乗るか」
しかし――ゴーレムに足をかけた瞬間、このボス部屋が崩壊を始めた。
:は?
:なんで
:今からがいいとこなのに
:...あれ?ゴーレムの足元、核みたいなの踏みつぶしてね?
:赤い宝石が粉々になってる...
:草
:草
:草
コメントが草で吹き荒れる。
同時に、雪のゴーレムが崩壊を始める。
降りかかる雪。そしてゴーレムの瓦礫を避けながら、僕は独り呟いた。
「...なんでぇ?」
――――――――――――
「で、結局ドロップ品はこの刀と」
あれから5分くらい。
すべての崩壊が無事?終了し、ボスが落とした刀を眺めていた。
「...なにこれ?」
普通、ボスのドロップ品というのは何かしら説明があるのだが、見事にこれにはない。
なんか神秘的な雰囲気を漂わせるシンプルな鞘と、そこに刀が入っているのみ。
:刀か
:男のロマンやな
:二刀流もロマンやけど刀もロマン
:刀抜いてみたら?銘彫ってあるかも
:↑もしそうだったらくそかっこいい
「あ、そっか。刀って銘が彫ってあることあるのか」
納得しつつ、抜刀。
腰に掛け引き抜いてみたけど、なかなかに気分がいい。江戸時代の侍になったみたいだ。侍どころか時代劇も見たことないけど。
――そんなことを考えながら、刃を確認。
するとそこには――
「――草薙剣...?」
―――ッスーーーー、え?
神剣?あの??
スサノオがヤマタノオロチの尾から見つけたっていう、アレ?
いや、僕がこれまで使ってきた双剣もどちらも神の名を冠してはいたけど。
それでも多分、神剣というレベルじゃなかったよ?天変地異起こせるけど。
「...取り敢えず、メインウェポンはこれからこの刀に決定かな」
うん、もう名前は見なかったことにする。これはただのかっこいい刀、それでいいじゃない。
平和的解決、大事だよ?
:まぁ、お前がそれでいいなら...
:神剣かぁ...天皇家大丈夫かな()
:そういやこれ三種の神器の一つじゃん
:お前これから天皇になるの?
「え、やだよめんどくさい。なんで僕が天皇なんかにならなきゃならないのさ? 祈ってくれてありがとうとは思ってるけどなりたいとは思わないね」
天皇ってあれでしょ? 国民のために人生をささげる悲しい職業。
否定はしないし感謝はもりもりだけど、なりたいとは思わないかなぁ。
自由が奪われるなんて御免だし、ダンジョン探索もできなくなるってことでしょ? 失踪しちゃいそう、なって一ヶ月で。知らんけど。
「さて、それじゃあ重要案件...果たしてこれでダンジョンは踏破なのか!」
天皇になった自分を思い浮かべ、陰鬱な気分になっていたところを頭を振り気分転換。
これで終わりだといいなぁ、ダンジョン。
攻略も楽しいけど、かれこれ5年は攻略してるし...背伸びないし。
:たぶん、これで終わりではないと思う
:ボスっぽい雰囲気はあったけどそれでも死闘ってわけじゃなかったしなぁ
:一生ダンジョンから出れないんじゃない?
:ダンジョンに深淵はない...
コメントを眺めつつ、出てきた転移陣に直行。
「虚空記録層じゃ何もわからないし、そのまま今回も直行かな」
もう少し僕が強くなれば転移陣の情報にもアクセスできるんだろうけど――と考えながら、その上に乗る。
いつも通り、魔力を流すと――一瞬視界が暗転。
治った先には、遺跡のような光景が広がっていた。
「...残念、これでも踏破じゃなかったか」
:だなぁ
:悲しいね
:お前一生ダンジョンで過ごすんじゃない?
:縛りやめて帰って凝ればいい物を...
あきらめのコメント共に、縛りを終了すればいいのにといったコメントが飛ぶ。
でもなぁ、それじゃあ面白くないし。何より自分で決めたことを自分で破るのは、なんか気に食わない。
「はぁ。...まぁ今日はまだまだ眠くもないし、ちょっとから進んでから休憩しようかな」
さっきの先頭のおかげで、アドレナリンはどばどばだ。
正直、今すぐにでも暴れだしたい。
――だけど、周りに敵はいないしそれはできない。
もうちょっとだけ、攻略しようかな。
そう考えながら、僕は足を踏み出した。
――――その一時間後だった。僕が、〝不老〟を会得したのは。
もしかしたら、本格的に〝ダンジョンの真意〟にかかわり始めたのは、これが始まりだったのかもしれないなって。
今になって、僕は思うよ。
あとがき――――
残念。実はけっこう長めでした。
僕もびっくりしてる。よくここまで長くなったなって。
あ、そういえば。
これは100フォロワー記念SSですがそろそろ200フォロワー達成しそうって話する?
うーん、もうてがつかれてきたしやめとくか。
これだけは言っておこう。
――――コメントとかください、よろしくです。




