灼熱の空中戦
『ツバメ亭の夫婦漫才〜灼熱の空中戦〜』
オスのツバメ(通称:ツバオ)
いや〜、今日も灼熱地獄やなぁ……。空飛んでんのに、まるでホットプレートの上やで。
背中、焼き鳥になりそうや……。
メスのツバメ(通称:ツバミ)
あんた、ほんまに口開けば文句ばっかやね。
こないだも「雲が少なすぎる」とか言ってたし。
ツバオ
だってやな、昔はもっと雲あったやん? 地球温暖化やでこれ。俺らの代で絶滅とかマジ勘弁。
ツバミ
はいはい、愚痴ってるヒマあったら、ヒナに虫もってって。
今日なんて、あの子ら全員「バッタ大盛りで!」って言うてたわ。
ツバオ
えぇ!? バッタて……あんなジャンプ力すごいやつ?
この歳で空中キャッチとか無理あるって。羽、つりそう。
ツバミ
何言うてんの。飛べてナンボがツバメやろ。
あんた最近、枝にとまると「ミシッ」て音するんよ。知ってた?
ツバオ
マジで!? それ木のせいちゃうの?
ツバミ
違う違う。あれ完全に“お前の腹圧”や。
下から枝が「重っ!」って悲鳴あげとる。
ツバオ
そ、そんなに出てる……?(チラッとお腹を見る)
ツバミ
うん、正直いま、腹に空気抵抗うけとるよ。
ツバオ
それ、もう俺“ツバメ”ちゃうやん。“ツバデブ”やん!
ツバミ
気づくの遅いわ。
もうすぐ渡りの季節やけど……あんただけ“渡れないツバメ2025”になるかもね?
ツバオ
ちょっ、それだけはやめて!?
空港で検疫に引っかかったツバメとか、シャレならんし!
ツバミ
その前に痩せなさい。今日からビール禁止。あと寝る前の蚊取りホットケーキも禁止。
ツバオ
え〜!? あれが俺の生きがいなのに……(涙)
ツバミ
生きがいより“飛びがい”を優先して。
ツバオ(ぼそっ)
こりゃもう、巣の中に秘密ジム作るしかないな……。
『ツバメ亭の夫婦漫才〜ビールはロマンか現実か〜』
(夕暮れの巣。空は茜色。ツバオが羽を伸ばしてひと息)
ツバオ(オスのツバメ)
あ〜〜、今日もよく飛んだわ。
肩に来とるね。肩に。……いや、ツバメに肩はないけどな。
(そっと、巣の隅に隠してあった“燕ビール”を取り出す)
ツバオ(うっとり)
くぅ〜〜〜っ、これよこれ。
この一杯のために空、飛んどるわ。
(ラベルには「ツバメラガー」と書いてある)
ツバミ(メスのツバメ)登場
……あんた、また飲んどるな?
ツバオ(ビクッ)
ち、ちがうちがう!これはその……保湿!喉の保湿や!
ツバミ
どこにそんなシュワシュワした保湿あるんよ。
まさか、また“ラガー派”の集会行ったん?
ツバオ(気まずそうに)
……行った。
でもな、最近ちょっと心揺れとるんや。
ツバミ
え? 何に?
ツバオ(真顔で)
“スーパードライ”派のあの爽快感……。
あれ、ズルい。めちゃくちゃ飛びやすくなる気がする。
ツバミ(呆れ)
あんたね、ビールで空気抵抗が変わるわけないやろ。
ツバオ
いや!あるんやって!
ラガーはコク深くて“夕焼けに合う”けど、ドライは“朝焼けの疾走感”や!
あのスーッと抜ける喉ごし……。
まるで朝一番の気流に乗った時みたいや!
ツバミ
……完全に、酔ってるのはビールやなくて、イメージやな。
ツバオ(瞳キラキラ)
俺、決めたわ。
次の渡り、どっちで行くか試すために――ラガーとドライ、飛行中に飲み比べする!
ツバミ(即座に)
落ちるわ!!
ヒナたち(遠くから)
パパ〜!今日のおつまみはミミズ〜?
ツバミ
……ヒナの教育に悪いわ。
あんた、今夜から“炭酸抜きネクター”に強制切り替え。
ツバオ(絶望)
えぇ〜!? それ、もうただの“甘い水”やんか〜〜!
ツバミ
健康のためよ。ビール腹で飛べんなってからじゃ遅いんやから。
ツバオ(遠い目)
……ラガーとともに生き、ドライとともに消える……
それもまた、オスのロマンや……(詠むように)
ツバミ
ポエムいらん。
『わたし、つばみ。〜空飛ぶ主婦のぼやき帖〜』
(夜、ヒナたちが寝静まり、月明かりの下でひとり物思いにふけるツバミ)
ツバミ(心の声)
はぁ……またや。
今日もツバオ、仕事帰りに「一杯だけな?」ゆうて……
結局、巣の隅で“燕スーパードライ”ごくごくいっとったわ。
「羽が疲れた」やら、「気流が重い」やら。
そんなん、あんたが重たいだけやっちゅーねん。
ほんまにもう……
私、なんでこんな“ビール腹の渡り鳥”と番になったんやろ。
最初は、頼もしかったんよ。
空切って虫取りしてる姿に惚れてもうて。
「この人についていけば、南までちゃんと渡れる!」って思ったんやけど――
気づけば、巣に帰るなり「プシュッ」やもん。
ヒナらには夢見てほしいやん?
もっとしっかりした背中、見せたいやん?
なのに、あの背中、最近ほんま“もっこり”してるんよね。羽の下から。
おまけに昨日なんか、枝にとまった瞬間、
「ギィィ……バキッ!」て音したんよ。
あれ、もう“ツバメ”やのうて“オニヤンマのなれの果て”や。
……まぁ、なんやかんや言うても、私がおらんとヒナの世話もできへんし、
迷子になるし、南への渡りも真逆に行きかねへん。
つまり、私が操縦士であり、家長であり、管理栄養士であり、
そして時にはビールの監視役でもある――。
ほんま、空飛ぶブラック企業やわ。
でもまぁ、あのアホみたいな笑顔で「うまい〜っ!」て飲んでる姿見ると、
ちょっとだけ腹立ちながらも、笑えてくるんよな。
……しゃあないな。
明日も朝一で起きて、ヒナの朝ごはん確保や。
ほんで、ツバオの飲み過ぎには、また小言の一発や。
ツバミ、今日も、空を飛ぶ。
ビールよりも、愛と責任を背負って――。
『ツバメ亭の夫婦漫才〜健康診断、墜落寸前〜』
(巣に帰るツバオ、肩を落としてヨロヨロ)
ツバオ(ぐったり)
ただいま……健診、終わった……。
ツバミ(腕組みして待ってる)
で、結果は?
ツバオ(声ちっさく)
え〜っと、その……ちょっと血圧が、ピヨッと高めで……
ツバミ
“ピヨッと”て何。
ハッキリ言いや。紙見せてみ、紙。
(診断書をバサッと開くツバミ)
ツバミ(読み上げ)
上:175、下:110。
空飛ぶには“危険域”。
あと……高血糖。
空腹時でもグルコースたっぷり。
そして……はい出ました、“高脂血症”。
脂っこい羽毛、回収不能!
ツバオ(頭抱えて)
うわあぁぁぁ……!俺、飛べるんか、これ!?
ツバミ
むしろ今よう飛んどったな。
空中でプチ脳梗塞とか起こしててもおかしゅうないで。
ツバオ
でもさぁ、俺……あの“ぐびっと”が生きがいで……
ツバミ(即座に)
飲酒飛行、即・禁止。
免許、差し止め。再交付なし。
ツバオ(涙目)
えぇぇぇぇ……俺のツバメライフが……
ツバミ
ツバメライフより命や。
もう“夜のぐびっと”も“昼のつまみ虫”も節制やで。
お茶飲んどき、お茶。あと、ノンアルネクター。
ツバオ
ノンアルて……味せぇへんやん……
羽ばたく元気、出ぇへんやん……
男のロマン、どこ行ったんや……
ツバミ(ため息)
ロマンよりまず、血管掃除せな。
ツバオ
えぇ〜……でもなぁ……(と、ポケットからラベル取り出す)
これ見て!この「ツバメドライ・プレミアム」!
新商品やで!羽に効くらしいで!?
ツバミ(ピシャリ)
それ“効く”んやなくて“来る”んや、悪い意味で。
あんた、脳天から羽先までコレステロール詰まってるの、わかってる?
ツバオ(しくしく)
じゃあ……次の渡りまでに、体絞る……
ツバミ(ややあきれながら)
せやな。ほんなら明日から、毎朝“飛びジョグ”な。
朝5時に起こしたるから。
ツバオ(絶望)
……は、早朝……!?
しかも、虫じゃなくて“空気吸うだけの時間”……?
ツバミ(ニヤリ)
そう、“羽トレ”。
目指せ、“飛べるオトコ”復活や!
『ツバメ亭の夫婦漫才〜甘い夢と糖の罠〜』
(暑い昼下がり、ツバオが日陰の電線にとまってうなだれている)
ツバオ(心の声)
……ふぅ。今日も地獄の熱気流。
羽、パリパリに乾いとる。
このままいくと“干しツバメ”になってまう……。
(妄想スタート)
ツバオ(目を細めて)
あぁ、せめてこの喉に……
キンキンに冷えた梅酒サイダー割。
いや、いちご酒サイダーでもええな。
シュワッと甘酸っぱいやつ。
口にふくんだ瞬間、「夏がきた〜!」ってなるやつ。
あれさえあれば、俺、生き返る。
いや、また飛べる。空を……自由に……!
(巣に戻り、そ〜っとツバミに提案)
ツバオ(控えめに)
あのな……その……
夏バテ対策っていうか……
ほら、ミネラル補給的な意味でやな……
“梅酒かいちご酒のサイダー割”、一杯だけ、どないかな……?
(即答)
ツバミ(無表情)
あかん。
ツバオ(しょぼん)
……まだ何も言い切ってないのに。
ツバミ(冷静)
言い切らんでも分かるわ。
あんた、それ飲んだら確実に血糖値爆上がり→糖尿病まっしぐらコースや。
ツバオ(ぐったり)
いや、でも……サイダー割やし……薄めてるし……!
むしろ糖、減ってる気ぃせぇへん?(願望)
ツバミ(即ツッコミ)
その考えが“甘い”んよ。
甘いもんに甘いもん足してどうすんの。Wシュガー地獄や。
ツバオ(涙目)
……でも、飲みたい……。夏って、そういう季節やん……
キラキラしてて、なんかこう、シュワっとしてて……
ツバミ(静かに)
……キラキラしてんの、あんたの尿糖やで。
ツバオ(うなだれて)
そ、そんなオチいらん……(ショボン)
(ヒナたちがこっそり見ている)
ヒナA
ねぇママ、パパってなんでしょんぼりしてるの?
ツバミ(遠くを見る目で)
……人生って、思い通りにはいかんのよ。
【エピローグ】
その夜、ツバオはこっそり氷をしゃぶっていた。
「梅酒風」と書いたラベルは自分で貼っただけの、水道水の氷。
ツバオ(心の声)
……ええねん。
夢を飲んでるだけや……。
俺の夏は、“気持ち”で乗り切るんや……。