第3話 BT-2
俺たちは、しばらく走っていてふと疑問に思ったことがある。この戦車の燃料ってなんだ?
BT-2ならエンジンはガソリンのはずだが、どうもガソリンの匂いがしないのだ。
俺たち調査と休憩も兼ねて少し丘になっている場所にあった木陰にBT-2を止めた。スキルにあった『装備生成』で整備に必要な道具を一式出して、ユイカと俺はBT-2の調査と整備、ハサキはスキルで出したミリタリー飯をアレンジしてくれている。
「ユイカ~。エンジンはどうだ?」
「エンジン自体はガソリン式っぽいわ」
「覗き込んだ感じ、サスペンションもクリスティー式で間違いないな」
「となると、燃料自体か?」
「うちが見てみるわ」
ユイカが燃料庫を覗き込んでみると、大声を出して驚いた。
「なんじゃこりゃーーーーーー!!」
俺も慌てて燃料庫を見ると、そこには虹色の無臭の液体が溜まっていた。
油なら光が反射して虹色に見えるのはわかる。だがこの液体は自らうっすらと光を放ち虹色に見えている。しかも油の臭いも全くしない。
「なんだ、これは……」
「わからんけど、走ってて違和感はなかったし、エンジンも健康、大きな問題はないやろな」
「まぁな~。だが燃料の特徴が分からないのは怖いな」
「色々試しながらやるしかないわなぁ~」
「2人共~。ご飯できたよ~」
「「は~い」」
ハサキがアレンジしたミリ飯は中々美味く、乾パンもスープと一緒に食べればそこまで気にならない。
「それで、どうだったの? なんか叫んでたけど」
「燃料が謎の液体って点を除けば、一般的なBT-2だな」
「燃料が謎の液体って点を除けば、整備状況は良好。無茶せん限りまだまだ走れそうやな」
「燃料が謎の液体ってめちゃくちゃ怖いんだけど大丈夫なの?」
「「わからん!!」」
「はぁ……」
まぁ、37mm戦車砲と機関銃1門はちゃんと使用できるから、自分たちの身はある程度守れるはずだ。え? 最大13mm装甲は紙だろって? この世界の技術レベルは知らんが、機関銃なら防げるくらいだから案外大丈夫なはず!!
「そういえば、『装備生成』が漠然としててわからなかったから、ある程度調べといたよ」
ハサキ曰く、整備用具に変えの部品、歩兵装備に、携帯食料、砲弾に機関銃の弾、戦車の運用と戦闘に必要そうなものは大抵このスキルで用意できそうだ。ただ、大量に出したり、精密部品や大きなものを出そうとすると、どっと疲れるらしく、何が削られているのかはわからないが、安全を期すために使用は制限していくのがいいだろう。それと、一応ガソリンも出す事は出来たが、ポリタンク1つ分(18L)も出せないし、というか、万全の状態で6Lくらいで目眩がした。とても効率は良くなさそうだ。
「なるほど。となると、俺らに残された疑問は主に残り3つだな。1つ、例の燃料になっている液体は何なのか。2つ、『装備生成』を使用したときに体内で消費しているものは何なのか。3つ、そもそもここはどこなのか」
「そのためにも、まずは人を探さない? ここの住民と対話が出来れば、何か分かるかもしれない」
「それもそうだな。ここにいても仕方ないし、森に沿って平原を南進しよう」
「「了解」」
俺たちは、BT-2のエンジンをかけ、予定通り森に沿って平原を南進していた。俺はハッチから上半身を出し、周囲の警戒を行っていた。すると、突然森から人が3人飛び出して来た。俺は慌ててハッチを連打し、緊急停車の合図を出した。ユイカはBT-2を緊急停車させ、開口部を除いた。ハサキも照準器に目を当て、例の3人を警戒している。
「何の騒ぎや。あのあんさんらえらい慌ててるようやけど」
「わからんが、とにかくやばそうだぞ。森が騒がしい……。何か来るぞ! 戦闘準備!!」
「「了解!」」
俺は双眼鏡で例の3人の様子を見てみた。3人はこちらに気づいるようで、こちらに警戒しながら森と我々との距離を取っている。
そんなに必死になって何から逃げているのかと思っていると、森から4足歩行で3mは優に超えているくまが出てきた。やばいと思った俺は、咄嗟にBT-2の中に引っ込み、ハッチを閉めた。
「なにあの熊……。化け物としか言いようがないんだけど……」
「あんなんに目付けられたらそりゃ逃げるわなぁ」
「呑気に言ってる場合か! あんな熊から生身の人間が逃げられるわけないだろ! 助けるぞ!」
「お人好しやなぁ」
「いいじゃない。マサの少ない良いとこなんだから」
「うるさいわ! 徹甲弾はもう入ってる。早く照準!」
「もうやってるよ。撃っていい?」
「よし! 撃て!!」
ドボンッ!!
周囲に火薬の爆発音が鳴り響き、その衝撃で例の3人の内の1人が躓いて転んでしまった。化け熊も驚いたのかその場で立ち上がり、その結果砲弾は外れてしまった。
「なんで立つのよ!」
「こうなったら足狙うぞ。榴弾入れる」
「早くしてよ。正気に戻る」
「よし出来た! 撃て!!」
ドボンッ!! ドゴ―――ンッッ!!
グオ―――ッッ!!
榴弾は化け熊の足元に命中し、背中から倒れた。俺たちは例の3人とコミュニケーションを取る為に俺がハッチから上半身を出してゆっくりと近づいて行った。
「お――い!! 大丈夫ですか~?」
例の3人はボーっとしてしまって全く応答がない。まぁ、初陣は価値ということで良し!!