第2話 転移
目の前にはには1人の男性が座ってる。暗闇の中、光を浴びているのは俺とその男性のみ。俺は何が何だかわからずににいると、その男性が話し始めた。
「そんなに緊張してないで、とりあえず座ったらどうだね」
「え? は、はい」
俺は後ろにあった木造の椅子に腰かけると、少し落ち着きを取り戻した。
「突然だが、大雪 真信。君は神に選ばれた」
「え?」
俺には何が何だかわからなかった。
「いやいや待ってくださいよ。突然こんな暗闇に放り込まれて、突然神に選ばれたなんて冗談も程々にしてくださいよ。そんなことより、ここはどこなんですか? そもそもあなたは誰なんですか?」
「落ち着き給え。1つずつ答えよう。まず、神に選ばれたというのは冗談ではない。しかし、神の気まぐれによるものだから100%冗談ではないかと言われると、言いきれないがな」
「神の気まぐれとは?」
「それは、2つ目の答えにもなる。ここは天界だ。神は気まぐれにこうして人の子を天界に呼び出し、その者の願いを1つ叶えるのだよ。そして今回選ばれたのが君だったわけだ」
「いやちょっと待ってください。いきなり呼び出して願いを叶えるってもう親切通り越してほぼ嫌がらせですよね。神様どんなけ自己中なんですか」
「まあまあ。そこは超豪華宝くじの様だと思って飲み込んでくれないか」
「そんなこと言われても...…」
「さぁ。願いを唱え給え。わたしはただの面会者だから神ではないが、神は私を通して今も君のことを見ている」
ん?今見てるって言った?あれ。自己中って言ったのももしかして聞かれてたりする?
「神は寛大だ。そんなことでは激怒されないよ」
「そ、そうですか。って今心読みました?」
「そりゃ。天界の面会者だからね。それくらいはできるさ。そんなことよりも、願いを早く」
なんか、すみません。
「願いって、そなこといきなり言われても……。そうだ!! 戦車に乗って世界中を旅したいです!!!! 可能でしょうか……?」
「もちろんだ。では、君にはтанкを与えよう」
男性がそう言うと、俺の下の床は再び光り出した。
「あ、あの!」
「ん? なんだ?」
「最後に教えてください! その身に着けている軍服といい、あなたは何者なんですか?」
そう。混乱していた最初こそ気付かなかったが、今見るとこの男性が身に着けている物は明らかに第2次大戦期のソ連軍の制服だ。
「わたしか? わたしはソ連邦元帥、ゲオルギー・ジューコフ。無神論者だったわたしがこの役目に選ばれるとは思わなかったよ」
「神は寛大ですね」
「そうだな。君に出会えたことを誇りに思うよ。そうだ。戦車好き仲間の君に、選別としてこれを送ろう」
そう言われて光に包まれつつある俺の手元に突然ソ連軍の帽子が投げ込まれた。
「ありがとうございます。こちらこそ、お会いできて光栄でした」
「なに。先輩からの餞別だよ」
ジューコフ元帥の言葉を最後に俺は再び光に包まれた。
「う、うぅ……」
俺が目を覚まし、ジューコフ元帥から頂いた帽子を被り、体を起こすとそこには広い草原が広がっていた。俺の頬を風が撫でると、俺は風をなぞるように振り向いた。そこには、ハサキとユイカが倒れていた。俺は、慌てて2人に近づいて状態を確認する。
「おい! 2人共大丈夫か!!」
「う……マサ?」
「ハサキ! 良かった。ユイカ、お前も無事か?」
「あぁ、ちょっと頭痛がするけど、大丈夫や」
「2人共無事で本当によかった」
「せやけど、ここはどこなんや?」
2人も体を起こすと、ユイカがこぼすように言葉を発した。
「多分、異世界……」
「「は?」」
さりげないユイカの発言に俺とユイカは冗談だと思った。
「冗談はよせよ。ハサキ」
「信じられないと思うけど、わたし、さっきまで天界にいたの」
「うちも一緒や。なんや願いを叶えるゆわれたわ」
「俺もだ」
どうやら俺ら3人共同じ現象に出くわしたようだ。これは冗談ではなさそうだ。話を聞くと、ハサキは遠くの国、いやどうせなら異世界に行ってみたいと願ったそうだ。そこがこれということか。
「だが、なんで3人なんだ? ハサキはそこまで指定してないんだろ?」
「うん」
「それは多分うちや」
すると、ユイカは顔を真っ赤にして細々と話し始めた。
「そ、その……。3人でこれからも一緒にいれたらいいなって願ったと思うで! 知らんけど!! 知らんけどな!!!!」
どうやら、これからも3人でいたいというのが、ユイカの願いだそうだ。なんだかこちらもこっぱずかしくなってきた。
「つまり、2人の願いが重なった結果がこれということか」
「「ごめん」」
「「え?」」
2人で同時に頭を下げて同時にお互いの顔を見た。
「わたしが身勝手なことを願ったから……」
「いや、うちがみんなを巻き込む原因を作ったんやから!」
「まぁまぁ。2人共、俺だってこれからも2人といたいし、それに、2人と一緒ならどこでも楽しめそうだとじゃないか」
「本当に、マサってこういう時は冷静よね」
「ほんまにな。なんか鼻につくけど、冷静さは見習いたいわ」
「なんだその微妙に痛いやつを見る目は!! 鼻につくってなんだ!!」
そんな俺のことは無視してハサキは話を進める。
「そうだ。ナギの願いは何だったの?」
「あ~。戦車で世界中を旅したいと願ったんだ」
「でも、戦車なんてあらへんで」
「俺だけ不発なのか?」
そう思った瞬間、目の前にパネルの様な物が表示された。どうやら2人にも同じものが出ているようだ。視線が全員一致している。そこには、このように書かれていた。
<<神の加護>>
танк、自動翻訳、思考加速、身体強化、装備生成
聞いてみると、2人にも同じような内容が書かれているそうだ。
試しに俺は「танк」選択してみると、帽子に違和感を感じた。俺が咄嗟に振り払うと、その帽子を中心に魔法陣が広がり、そこから『BT-2』が姿を現した。
俺は感激のあまり子供のような笑顔が思わず漏れ出していた。俺は帽子を拾いあげ、深々と被った。すると、俺たちが今まで着ていた高校の制服が戦間期のソ連軍服へと変形した。ちゃんと、灰色のブレーザーもある。俺は驚きつつも遂には涙を流して喜ぶ。
「マサ。あんたそれどないしたんや」
「いいじゃん。かっこいいし、似合ってる!」
「2人もよく似合ってるよ」
なんだかんだで付き合ってくれる友達を持って、俺は幸せ者だなぁ。
「そうだ。せっかくだし、ちょっと走ってみないか? 本当に主砲が撃てるか心配だし、そもそも動くかわからないからな」
「砲手ならわたしに任せて! 弓道で鍛えた照準力が活かせると思う!」
「ほなうちは操縦手やな。うちのドライビングテクニック舐めたらあかんで」
「え。ユイちゃんって運転できるの?」
「まかしとき。親父からマニュアル車の動かし方は叩き込まれとるわ」
「「なぜ?!」」
「うちは元々自動車整備が生業なで。当然や!」
「そうだったな。心強いし任せるよ。となると、俺は戦車長兼装填手だな。なんだかワクワクしてきたな」
「それやったら、つべこべゆうとらんで、早よ乗ろうや」
「「そうだな(ね)!」」
操縦手のアザミから、砲手のヒマ、そして戦車長兼装填手の俺が乗り込んだ。
アザミが探りながらエンジンをかけると、エンジンの音と共に小刻みに車体が揺れ始める。そうだよ、これ、これだよ!!
「ほな、行くで!!」
アザミがそう言うと、BT-2は動き出した。正直心配だったが、かなり順調に進んでいる。
「ユイ上手いじゃんか」
「まだ慣れへんけど、ええ感じやろ?」
「うん。上出来だな」
「何様やねん」
「え? 戦車長ですが何か?」
「そうやった。調子ええやっつやでほんまに」
「まぁまぁ、ねえ、2人共、あの木に目掛けて撃ってみたいんだけどいい?」
「「了解」」
ユイは2号戦車を森の方に向けて止め、俺は慣れない手つきで装填を終わらせると、合図を出す。発射された砲弾は見事木の幹に命中し、木が傾いたかと思うと、そのまま倒れた。
「やった!!」
「流石ヒマ! 頼りになる~」
「ありがとう。後はもうちょっと装填速度が速くなたら良いんだけど?」
「そうだな。これから練習するよ」
それからはそれぞれの練習を行いつつ、ドライブを楽しんだ。すると、楽しくなったのか、アザミが「3人の戦車兵」を歌い始めた。
「固く結ばれし絆♪」
それにハサキが続く。
「この歌が示さん♪」
ここまで来たら乗るしかないだろう。
「3人の戦車兵、愉快な仲間達♪」
「「「3人の戦車兵、愉快な仲間達♪」」」
俺達は呑気に歌を歌いながら平原を進んだ。まぁ、こんな時があってもいいだろう。