プロローグ
こちら元の厨二的ルビ満載バージョンです。
内容は本編と同じですが、プロローグだけちょっと増えてます。
面倒くさいのが好きな方はこちらからどうぞ。
夜も更けて、日中の暑気もようやく落ち着いたころだ。
賑やかな酔漢たちのパレードは過ぎ去り、バーのカウンターは終電を気にしない特権階級のステージとなっていた。
日常という呪いから解き放たれた彼らの血と魂は、優しげな薄闇の中に縄張りし、思い思いに佇んでいる。
懺悔と祝福のうちに、盃は重ねられていく。
乾杯、乾杯、復乾杯――隠れ処に栄えあれ――酒精により聖別されし神籬に、皆みな頭を垂れるべし。
酒神の祭壇に供される贄は、彼ら自身の落とし子だ。
綾なす夢幻を紡いだ言葉、すなわち酒気と共に吐き出された精神体の、歪な忌み子なのだ。
有象無象の思念が、希望が、悲哀が、ふつふつと泡立ち渦を巻き……時空を越えて流れ落ちて行く先――昏い昏い深き処に臨んで、それら異形の蛭子どもは言問うのだ――喧しく共鳴しながら、あるいは独り呟くように。
「吾は在るのか?」と。
じっとグラスを見つめていた男の目が、ふと、闇に浮かぶもの――妖艶な微笑みに気がつき、慄いた。
彼は薔薇薔薇の色の奥に、深淵を覗く者であろうか。
夜の君に選ばれし彷徨の言霊よ、無意味の渦中に因果律の語る声を聞くがいい。
それは、遠いあの日に埋蔵せし宝物と、ふたたび結ばれる――あの愉悦を――たまさか思い出させることになるだろう。
これら想いは、もうひとつの隠された世界に、意味をもたらす祈りとなるのだ。
酩酊の詩人が、飽かずに詠う。
一杯、一杯、復一杯……と。