PART2
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「ウゥホホッ!!」
商店街で雄叫びを上げるのは見るからに大食いそうなゴリラのような姿の魔獣。
それを見て一目散に逃げ惑う人々。
「ゼンブ、クワセロォォ!!」
目に入った店に突撃すると野菜や果物だけに留まらず魚や肉、本や食器という食べ物以外の物でも何でも喰らってしまう。
「あの魔獣。ゴリラみたいな見た目してるくせに雑食かよ!」
現場に到着した瑛人はすぐさまザンバを構える。
「やる気だな?」
「ああ。この町を守れるのは俺だけだ!今度は俺がヒーローだ!」
「……なら行くぞ、オレを引き抜け!」
少しの間の沈黙に多少引っ掛かりはしたが俺は構わず勢いよく剣を引き抜いた。
「鎧染!」
剣を鞘から引き抜いた瞬間、体が赤い光で包み込まれるとアカキキシへと姿を変えた。
「あああっ!!」
憧れたヒーローを頭に浮かべながら走り出すと、先手必勝とばかりに食べることに夢中な魔獣の背中に一太刀浴びせる。
「どうだ!」
「?……」
一回はこちらを振り向いたが直ぐに食事を再開してしまう。
「コイツ……じゃあコレならどうだぁ!」
大きく振りかぶった渾身の一撃は魔獣の体に見事傷をつけた。
「……」
平然な様子でゆっくりとこちらを振り返る魔獣。
「まさか効いてないのか!?…」
「ジャマヲ、スルナァァ!!」
魔獣は腕を大きく払うと風圧だけでアカキキシを後方へ吹き飛ばした。
「なんて馬鹿力だ!」
「気を付けろエイト。風圧だけであの威力。まともに食らえばただじゃすまないぞ!」
「分かってるって」
立ち上がるとなれない手つきで剣を構える。見た目こそ堂々としているが心なしかその手に持つ剣は僅かに震えている。
「オマエ、ジャマダ。サキニ、クッテヤル」
魔獣はその大きな体からは想像出来ないほどの機微な動きで一気に近づいてくる。
「速い!」
「アイツ見た目と違って動けるデブだな」
「そんな事言ってる場合かよ!?」
一気に距離を近づけた魔獣はその大きな手と頑丈そな拳でアカキキシを襲う。
「ぐっ……!」
最初の1発こそかかわすことが出来たが連続に放たれるパンチのラッシュにアカキキシは剣で塞ぎながらなんとか耐え凌ぐ。
「おい!剣は盾じゃないんだぞ!!もっと上手く戦え」
「そんな余裕…あるわけないだろうが!」
リズム良く打たれる拳について行くのがやっとで反撃の意図が中々掴めない。
「ウホホっウホホホッ!!」
「ダメだ、このままだと…」
「クソ、こんなところで……なっ!」
突然体がいうことを聞かなくなり思い通り動かなくなってしまう。
「なんで!体が急に重く…」
「ウッホーー!!」
その隙を見逃すほど魔獣もバカではない。拳がアカキキシの体にクリーンヒットすると転がるように後方へ飛ぶ。
「ぐあぁぁぁっ!……」
なんとか立ちあがろうと体を起こそうとするがやはり体が動かない。今の状態では歩くのすら困難な程だ。
。
「なんで、なんで動かない!!……ザンバ!」
だがザンバから返答は無い。
「クソッ!!」
ふと周りを見ると各々の家や店内に避難している人々の姿が見える。新しく現れたヒーローに期待していたであろう人々の顔は落胆と怒りに満ち溢れていた。
「これじゃヒーロー失格だ…」
顔も下を向き俺は完全に戦うのを諦めた。
「コレデ、トドメダ。イタダキマーース!」
魔獣の最後の一撃が放たれる瞬間、魔獣の体に数本の小刀が突き刺さり爆発した。
「ウホ!?…」
その隙に一台のバイクに乗った翼がアカキキシの元へ駆けつける。
「どうして…」
「ボーッとすんな!今は逃げるわよ!!」
2人の周りが煙に包まれると一瞬でその場から姿を消した。
「大丈夫?」
工場に戻ってきた2人。翼が瑛人を介抱し包帯を巻き手当てを施す。
「ああ。でもどうしてあそこに?」
「なんとなくこうなる予感がしてたから。…貸して」
翼はザンバを手に取る。
「あーあ、こんなボロボロにしちゃって。こんな使い方じゃ当然だけど」
「ザンバにも同じこと言われた……。俺は戦うのに必死で、そしたら急に体が重くなって動かなくなった……」
「そりゃそうよ。アンタが着てる鎧はこの剣から召喚されてる。剣が致命傷を受ければその鎧も同様に影響を受ける。そういうもんなの」
「そうだったのか…」
知らなかったじゃ済まされない。ようやく変われたと思ったのに。ヒーローになれたと思ったのに……。
目に見えて落ち込む瑛人を見兼ねて翼は肩を叩く。
「でも大丈夫。その為に私がいるんだから」
「え、」
「私の本業は鍛治師だから。実はこの剣も私が作った作品なのよ」
「そうなのか!?君が剣を…」
ジロジロと疑いの目で翼を見る瑛人。
「何よその目。もしかして信じられない?こんなチャラチャラした格好のやつが剣を作るなんて」
「そ、そうじゃない。ただ意外だったから」
図星だった。
「よく言われる。鍛治師のくせにこんな格好するなって。だからもう慣れたわ」
「…なぁ前から気になっていた。この剣は一体なんなんだ?」
「私達鍛治師が創造する武器には精霊が宿るの。その武器は人間や生物のように意思を持つ。だから誰でも好き勝手使えるわけじゃない。武器が使い手を選ぶのよ。普通の人間は精霊武器を持つことすら出来ない」
「だから喋るのか。てっきりAIかなんかかと思ってた」
「あんなのと一緒にしないで。精霊は科学や言葉で説明出来る物じゃない。そういうものとして受け入れるしかないのよ。武器も魔獣も」
翼は話しながら仕事道具を用意しはじめる。
「精霊武器に選ばれた人間は<色者>と呼ばれ鎧を纏い戦う騎士になる。それにアンタは選ばれた。そんな騎士をサポートするのも私達鍛治師の仕事ってわけ。理解できた?」
「ああ。なんとなく」
「ならいいわ。なんとなく分かってればなんとでもなるから」
「それでザンバは治るのか」
「勿論。それが私の仕事だもの。完璧に仕上げてみせるわ」
「そっか。良かった…」
ホッと安堵の表情を見せる瑛人。
「だけど浮かれないで。いつでも治せると思われてたら困る。精霊武器は物じゃない。壊れてしまえばそれは死を意味する。そうなったら手の施しは無いわ」
「………」
「これに懲りたなら2度と相棒をこんな目に合わせないように上手く戦えるようになることね」
すると再び魔獣出現の警報が鳴り響く。
「行かないと!!…」
怪我した体に鞭を打ち現場へ向かおうとする。
「待ちなさい。武器も無いのに行ってどうすんのよ」
「だけど、」
「このまま行ってもさっきと何も結果は変わらない。いや、今度は生きては帰れないかも」
翼の正論に唇を噛む。
「……今は体を休めて相棒の復活を黙って待ってなさい。現場にはアイツを向かわせる」
「アイツって?」
「アンタの先輩よ。この町を守るもう1人のヒーロー」
翼は慣れた手つきで電話をかけるが一向に応答は無く、するとこれも慣れた手つきでスマホを投げつける。
「チッ!なんであの女ったらしはいつも私の電話には出ないのよ!……」
「やっぱ俺が行く」
痺れを切らした瑛人は立ち上がる。
「ヒーローだから?」
「そうだ」
「…前も言ったけどさアンタはどんなヒーローになりたいわけ?」
「それは、みんなに憧れられて誇らしく思われるような、」
「確かにそれはヒーローね。だけどそんな身勝手な理想を掲げて勝てるほど魔獣は甘くない!誰もそんなのは望んじゃないないのよ…」
彼女のいう通りなのかもしれない、
「……だからって放っておけないだろ。このまま黙ってるのは気に食わない!」
この時も魔獣が町を壊して人を襲っている。それを考えただけで俺はいてもたってもいられなかった。
「……待ちなさい」
後ろを振り返らず無視しようと決め込む瑛人。
「このくらい持ってきなさい」
その一言に思わず振り返ると笑顔で投げ渡したのは一本の模造刀だった。
「これは…」
「何も武器無しで挑むよりはいいでしょ。一応それだって私が作った特別製。鎧も召喚出来ないし精霊武器と比べれば力も天と地の差はあるけれど無いよりはマシ」
「でもなんで」
「……気まぐれよ。何かあったら私が困る」
「ありがとう!!」
模造刀を手に瑛人は駆け出した。
「私もバカね。あんな奴にまだ期待しちゃうなんて」
翼は広げた仕事道具を手に取るとザンバを引き抜く。
「さて、私は私でやることやりますか!」
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