頑張らない8
空港で娘とオネエの出発を見送った。
そのまま、俺も飛行機で目的地に向かおうとして、ふと考える。
文明の利器に頼らず、道端の花なんかを見ながら歩くのも風情があって良いんじゃないかと。
……3時間経つ頃には俺の心はポッキリと折れていた。
道端の花なんてどうでもいい。
足が痛くて堪らない。
よく考えたら飛行機は人の叡智の結晶なのだ。
文明万歳!飛行機万歳!である。
途中でタクシーを拾って最寄りの空港に行って貰った。
約20分後、今朝出発した空港に戻った……
気を取り直して、目的地へ出発だ。
次は山口県だ!
よく考えたら、俺は都心から山口県まで徒歩で行こうとしていたのか……
それは最早旅行ではなく、ただの苦行である。
山口に着いたが、電車の路線が少ない上に本数も少なかった。
諦めてレンタカーを借りた。
鍾乳洞というパワースポットで謎パワーを補給すべく秋芳洞に向かっていると、ヒッチハイカーを発見した。
車を路肩に寄せる。
旅は道連れ世は情けということわざもあるくらいだ。
助け合うのは大事なことだろう。
助手席の窓を開けて声をかけた。
頭部しか見えないがしゃがんでいるのか?
「ヒッチハイクか?途中までなら乗せて行けるぞ?」
「ありがとう。それじゃ、遠慮なく」
乗り込んで来たのは小学生の女の子だった!
「私は20歳だ!」
お決まりのやり取りが終わったら、雑談しながら車を走らせる。
「因みに身長はいくつだ?」
「女性に伸長を聞くなんて礼儀知らずね」
「それは歳の話だろうが!」
「私にとっては同じことよ」
伸長は低いが気は強いようだ。
暫く車を走らせていると前方に数台のパトカーと共に車が並んでいるのが見えた。
「不味いな。検問だ」
「何が不味いの?」
「初見なら間違いなく警官はお前を小学生と思うだろう。お前は20歳だと言い張ると思うが、免許証は持ってるか?」
「……持ってないわ」
「そうか。年齢確認が出来なければ、その後は俺達の関係を聞かれるだろう。お前がヒッチハイクをしてるのを俺が拾ったと答えれば、間違いなく署に同行願おう案件だ」
「……それは確かに不味いわね。どうすれば良い?」
「上手く抜けられる案はあるが、お前は賛同しないだろうな」
「何よ、勿体ぶって。私がそんなに狭量の女だと思ってるの?」
どうやら自信ありげだが、もう検問が目前に迫っていて時間がない!
「お前の演技力にかけるしかないか。もう時間がない!俺のアドリブに合わせてみせろ!」
「やってやるわよ!」
コン、コン……
「すみませんねぇ〜。ちょっと車を見させて貰いますね」
何か事件でもあったのだろうか?
「今からどちらに?」
「ええ。娘と2人で秋芳洞の方に。生前の妻と3人でよく行ってたんですよ」
「パパ。早く行こうよ!」
「待て待て。今お巡りさんと大事なお話中なんだ」
「早く行かないとママが居なくなっちゃうよ!」
「……ママはもう居ないんだ」
「あそこに行くとママを近くに感じられるんだもん!ねえ、早く行こうよ……」
「……ぐすっ。引き止めて申し訳ありませんでした。行って大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。では、ご苦労様です」
「ありがとう。お巡りさん!」
警官は少し涙ぐんでいた。
バックミラーで確認すると、軽く手まで振っていた。
「お前、凄えな……」
「ま、まあね……」
その後は、先程の演技の話で盛り上がったり、俺の身の上話をして同情されたりした。
色々話している内に、ヒッチハイカーのことは『ヒナ』で、俺のことは『パパ』と呼ぶことになった。
……パパ活かな?
秋芳洞につく前に夕方になってしまった。
調べると17時30分で入れなくなるらしいので、近くの旅館で一泊することになった。
あの無意味だった3時間さえ無ければ……
「当たり前のように着いて来てるが、部屋は一つしか取ってないぞ?」
「パパの娘なんだから一緒でもおかしくないでしょ」
まあ、冬でもないし最悪床に寝れば良いか。
温泉に入った後は、部屋で夕飯を食べた。
ヒナも酒がいける口だったので、ついつい深酒をしてしまった……