頑張らない2
次の日……
「私も連れてって……」
いざ、出発しようとすると娘が言ってきた。
俺を嫌っている筈なのに一体どういう了見だ?
……ああ。急に金づるが居なくなったら困るもんな。
「金はちゃんと振り込むし、暫くしたら戻ってくるから心配しなくても良いぞ。態々嫌いな奴と旅行なんか行きたくないだろう?」
「!!?……………………行く」
「まあ、好きにしろ。流石に学校には連絡しとくか」
電話で娘の学校に暫く休む旨を伝えた。
切る時に担任が何か言っていたが、連絡はしたから平気だろう。
娘が何を考えているかは分からないが、自分から言い出した事だし、勝手についてくればいい。
飽きたら帰れば良いだけだし。
「……何処に行くの?」
「まだ決めてねえな。駅に着いて決めようと思ってたし。そうだな……最初はお前が決めて良いぞ?」
「……沖縄」
「おお〜良いな!泡盛飲むの学生の時以来だ」
「お酒、飲むんだ……」
「お前が産まれた時に止めたからな」
それ以降は特に会話も無く、目的地に着いた。
普通に観光も良いが、どうせなら食べ物屋巡りがしたい。
1、2品頼んでハシゴしていこう。
「オロロロロロロ!!」
道端で盛大に吐く娘の背中を撫でる。
娘も飲んだのだ。何を?とは言わない。
面倒なので娘をおぶってホテルに戻る。
部屋のベッドに放り投げて、俺は再度街に繰り出した……
翌朝、ホテルの近くの道端で起きた。
どうやら途中で力尽きてしまったようだ。
財布が無事で良かった……
部屋に戻ると娘は起きていた。
「……今日は何するの?」
「取り敢えず眠いから寝るわ」
「私は?」
「観光でも何でもすれば良いだろ。俺はツアーのガイドさんじゃねえよ」
「……ふん!分かったわよ!」
娘はプリプリと怒って部屋を出ていった。
意味が分からん。
今まで家で散々好き勝手してたんだから、勝手にすれば良いのに……
そんな事を考えながら、激しい睡魔に襲われた俺は急速に意識を手放した。
目を覚ますとまだ朝だった。
……と思ったら次の日の朝だった。
寝惚けてトイレに行った記憶はあるが、カーテンを閉めていたので気付かなかった。
大きく伸びをして、酒が抜けているのを確認する。
折角海が近いし、今日は泳ごう!
部屋を出ると丁度娘と出会した。
「……何処行くの?」
「沖縄に来たからにはやっぱり泳がないとな」
「……私も行く」
2人で海水浴場に向かう。
俺がパラソルを設置していると、娘が若い男を2人連れて来た。
「おい、おっさん。娘さん連れて行くけど良いよな?」
「一緒に遊びたくてさ〜♪良いですよね〜」
「どうぞ〜」
「ちょっ!?何で……!」
何でも何も状況が分からん。
予測は出来るが、別に助けを求めてる訳でも無いのに、何で俺が止める前提なんだよ。
俺は人の心が読めるエスパーか何かか?
「は、放せよ!」
娘が連れて行かれる時に抵抗していたので、国家権力に力を借りる事にした。
嫌なら最初から抵抗しろよ……
何で黙ったまま俺の所に2人を連れて来たのかが謎だ。
だが、どうやら国家権力は間に合いそうになかったので、3人がハイエースに乗るのを見届けた後に、近くに落ちていた大きめの石でフロントガラスを叩き割ってやった。
ついでにミラーも壊していると、2人が車から出てきた。
男2人にボコボコにされていると警察が到着した。
遅えよ。
娘が暴行されそうになったので口論になり、抵抗したら2人にボコボコにされた事にした。
男2人はギャーギャー喚いていたが、性欲を満たす事しか考えていない猿共が何か言った所で説得力は無かった。
車を壊された?何の事でしょう?
ホテルに戻る道すがら、娘はトボトボと俺の後ろをついてきた。
「ごめんなさい……」
「何が?」
「私のせいで怪我を……」
「代わりに車を壊してやったから気にすんな。大体、嫌なら最初から抵抗しとけよ」
「ごめんなさい……」
俺の中に眠る破壊衝動が覚醒したとかではなく、ただ単にスッキリして気分は爽快だ。
相手側が好き勝手しようとしたんだから、文句を言われる筋合いも無いだろう。
その夜、娘が一緒に寝たいと言い出した。
どうせ、昼間の件のせいで急に怖くなったのだろう。
暑苦しいので嫌だと追い返した。