5月10日 工藤母
工藤母「ごめんね、帰ってこなくて」
俺 「いえいえ、こちらこそ待たしてもらってすいません」
俺は、なぜか工藤の家に上がっていた。
工藤母「いいのよ。ゆっくりしてくれたら」
俺 「そういうわけにはいかないですよ」
話はトントン拍子に進んでいった。昨日、村上から自宅の場所を聞いて、今日いきなり会いに行った。工藤のお母さんは、家で待つことを快諾してくれた。
工藤母「もう少しで来ると思うんだけど」
俺 「わかりました」
間を開けて話した。"サッカー戻ってきそうですかね?"
工藤母「そうねぇ。サッカーが嫌いになったわけじゃないと思うから来るとは思うんだけどね」
工藤とは、高校から同じ学校になったから、どれだけサッカーに対して本気なのかはわからない。それでも、宝来同様、本気で練習すればもっと高いレベルでできるのにと思っていた。
俺 「一日でも早く、戻ってきてほしいんですよ」
俺の願いは叶うのだろうか?
工藤母「あの子は、ちゃんとやれてるの?」
俺 「はい。チームの中心人物ですよ」
工藤は、チームの副キャプテンでもあり、攻撃と守備のつなぎの役を担っていた。サイドバックをすることも多い。工藤の高速クロスは、県内屈指と相手の監督が言ったくらいだ。サッカーの上手さだけで言えば、沢田や宝来と遜色は、全くない。ポジションだけで言えば、工藤の方が有名なのかもしれない。
工藤母「そうなの?」
俺 「そうです」
工藤のお母さんは、驚いているみたいだ。
工藤母「チームの中心人物なんて信じられないわ」
俺は、ずっと玄関の扉が開くのを待っていた。
俺 「本当にすごいんですよ。お母さんもぜひ、一度試合を見に来てください。わかりますよ」
そうだ。俺たちの試合を見てくれたら、お母さんも自分の息子のスゴさに気づくだろう。
工藤母「そうなのかな?」
俺 「もちろんです」
玄関の扉は、なかなか開かない。なんで、開かないんだと思ってしまう?
俺 「なんで、外行ってるんですか?」
工藤母「詳しいことはわからないけど、本人は用事って言ってたわ」
俺 「謹慎期間は、ずっとこんな感じですか?」
工藤母「うん。なかなか難しくてね。あの子の扱いも」
これが、子を持つ親の気持ちなのだろうか?胸がグッとしめつけられるような感じだった。




