6月30日 聖淮戦Ⅻ
ボールを蹴れず、勉強している時間はとても窮屈だった。それよりも、もっと自由に勉強させてほしかった。今の俺には、勉強は意味がなかった。
ー6月19日ー
後半の開始合図とともに、ホイッスルが鳴り響いた。俺は、さっきまでのポジションから、左寄りに動いていた。このポジションだと、藤森とマッチアップすることも多くなる。攻撃よりの場所だが、これ以上点は取られたくない。ボールを持っているのは、玉波だ。俺は、できるだけ藤森をマークするがすぐさま動くから、なかなか封じにくい。玉波は、ゆっくりボールをもちながら、ドリブルをしかけていく。さっきまで晴れていたのに、少し薄暗くなっていた。
淮南高校の玉波は、山根、狩野へとボールが渡っていく。ボールをもった狩野がゴールへと向かう。やばい、俺も戻らないと。藤森のマークを少し離れ、自軍のペナルティエリアに走り出した。狩野は、佐藤に繋がれる。俺は、近くにいた山根へマークを変える。ペナルティエリアに入り、観客は立ち上がった。しかし、山根へボールは渡らなかった。どこからくる。俺は、アンテナをたてた。ボールを受けた山根は、鋭いドリブルで羽川と今田をかわしていく。やばい、前が空いている。山根の目の前に広がるスペースは大きく広がっていた。
その空いたスペースから、シュートを放たれた。ボールは弧を描き、キーパーの右上へと飛んでくる。ゴールキーパーの川上は反応し、手を伸ばしボールが当たる。川上の手に当たったボールは、俺の方に飛んでくる。俺はボールを外に出すために走り出した。しかし、そこにはまたしてもあの男がいた。俺以外にも、加藤と長尾が走り出している。最もこぼれたボールに速く近づいたのは、藤森だった。ヤバい、前に出ていたキーパーの川上は、その場所から動かない。藤森は、転がったボールを軽く蹴り、川上の頭上を越えていく。
なんでこんなに簡単にプレーするんだろう?なんであんなプレーができるのだろう?頭の中に疑問が浮かぶ。ボールがネットに吸い込まれながら、俺はそんなことを考えてしまっていた。ゴールを決めた藤森は、腕を高く上げベンチの方に向かっていた。クソォ!!ディフェンスの相田は大きな声を出していた。近くにいた富山は、肩を叩きながら戻るように指示を出した。後半3分。まだまだ、時間はある。前半でも2点とれたんだ。まだまだやれる。淮南高校の選手たちは、表情が緩んでおり、仲間とハイタッチをしながら、真ん中のラインへと戻っていくのだった。




