6月19日 聖淮戦
ベンチから見るサッカーコートは、とてもキレイだった。今年の聖淮戦は、聖徳高校のグラウンドだから、選手はみんな落ち着いているように見えた。いつもなら、もっと騒いでいるはずの中沢や辰巳も大人しい。例の3人に限っては、一言もしゃべらないという状況。こんな状況で、どうやってサッカーするというんだよ。思わずツッコンでしまいたくなった。
これまでの2年間とは、何かが違う気がした。3年生になって最終学年ということもあるのか?俺の右手には、キャプテンマークが巻かれていた。昨日、沢田からもらったこのマーク。サッカー部全体を背負っているみたいで、とても重たかった。選手の交代の決定に関しては、全て自分にあると。そんなこと普通、1日前に伝えないだろ。俺は、沢田に文句しかなかった。しかも、俺はサッカーしながら、選手交代を考える。そんなことできないだろう。いろんな感情を抱きながら考えていた。
決めていたのは、俺と中沢だけは最初から最後まで出続けること。後は、状況に応じて変えようと思った。一番気がかりなのは、3人がどれくらいのプレーを見してくれるかだ。俺の中では開始して20分も走り続けたら、しんどくなってしまうんじゃないかとすら思ってしまう。特に、宝来が問題だと思っていた。サッカーセンスは、抜群だが試合でどれだけ動けるかは未知数だ。その上、変に交代させると、それはそれでキレる。しかも、一度PKで負けているだけに威厳もなかった。沢田も怪我明けだし、そんなに長い距離を何度も往復することは難しい。走っていなかったらいなかったで、何かあると相手のエース藤森なら考えるだろう。相手の絶対的エースとも俺は勝負しなければならなかった。
野球部やバスケ部たちのみんなが見守ってくれている。前方に立っているのは、野球部の橘や橋本たちだろうか?バスケ部の高田や大野たちもいる。部活動に入っていない生徒も見ている。それだけ、大事な一戦ということか。沢田は、ペットボトルに水を含んだ後立ち上がり、宝来と工藤の方へと駆け寄る。何かを話しているみたいだ。俺の距離だと何を話しているかは全くわからなかった。
すると、整列のホイッスルが鳴った。自分の胸に手をあて、空を見つめる。なんでも、いい。勝たせてくれ。もう一度、このメンバーで勝利の瞬間を味わいたい。誰一人欠けることなく。沢田の代わりは、俺しかいない。自分に言い聞かせるようにピッチへと走り出した。




