5月26日 紅白戦7
5月も後4日で終わる。新しい月に向けて、何かが始まろうとしていることがわかった。
ー5月20日ー
辰巳の走る姿は、一生懸命そのものだった。パスを
両サイドに出すがなかなかつながらない。さっき蹴ったボールなんかは、早坂がボールに追いつかず、膝を手で触るように腰を下ろしていた。仕方ないと言えばそれまでなのだろうけど、あのボールに追いつけないようなら、レギュラーにはなれないんだろうと思っていた。
試合開始から、39分。俺は、アップを進めながら、戦況を見つめていた。出るなら早い方がいい。グラウンドにいる辰巳が俺を待っている気がする。白組は、2点リードしていることもあってか、動いてこない。
さっき、沢田と話をした。沢田からの指示は、単純明快。全体のラインを上げること。それだけをしてくれたら、点は入ると言っていた。俺には思いつかないアイデアだったから聞いた時は、驚きというより疑いの方が大きかった。
自分の中では、ラインを上げるというより、どの選手をどう使うかということで頭がいっぱいだった、俺は、全体のラインを上げるためにサイドからの攻撃を作ることを考えた。俺が得意なのは、左サイド。ちょうど、辰巳が一番得意なパスコースでもあった。
俺たちは、昨年からずっとこの戦術を得意としていた。辰巳から俺にきたら、後は俺がペナルティーエリアにボールをあげたら、沢田、宝来、工藤の誰かが何とかしてくれるという安心感があったのだ。しかし、今日はこの3人がいない。その中で、得点をあげられるのだろうか?
他のベンチにいる選手は、50分ごろに投入すると言われていた。沢田の中では、50分になるまでに1点差のプランを考えていることを告げられた。なんとも言えないし、そのプランを考えられること自体不思議だった。沢田には、全員が納得するような選手交代を紅白戦でしてくれたらと告げていた。それは言われなくてもわかっているような仕草で頷いてくれた。
おそらく、今回の試合で、"聖淮戦"のメンバーは、おおよそ決まる。それだけじゃないのだろうけど、誰しも全員が納得した形で試合に出たいというのが本音だろう。
指揮を務める沢田は、辰巳、早坂に指示を出した。どうやら、ポジション取りについて話しているみたいだった。俺は、ボールを蹴りながら、そろそろ試合に出るだろうと覚悟を決めた。"唐沢!!"。俺の想いにシンクロするかのように声がかかった。俺は、ベンチには向かわず、直接コートに立った。




