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僕と彼女との親睦会3

 市川さんには、僕の顔を知られていたようだ。マナの言われたとおりに、女性を演じているつもりはなかったが、こうやって不意打ちで男だと言われると、ついドキッとしてしまう。


「初めから知っていたんだ」

「知ってるのなんの、あの桜木蘭丸クンでしょ? 同学年じゃ、桜木蘭丸って名前は有名だし。バスケの名門校からスカウトが来て、高校卒業したら、渡米するって聞いていたんだけどさ」


 確かに、海外の大学からのスカウトは来ていた。けど、僕はすぐに断った。スカウトが来たのも、僕がバスケから身を引いた後の話だったから。


「僕に、そんな資格はない」


 声帯模写を悪用し、ズルして勝っていたことは、マナ以外の誰も知らない。親や監督、メンバーにも、体が優れないと言って辞めた。。


「そんじゃ、どうして木下マナと、一緒に行動してんの? 高校の時でも、仲良しだったとか?」


 僕の事を知っているなら、変な嘘をついても、すぐにバレてしまうだろう。マナとは恋人関係だという事を、市川さんには言っておくか――


「私が席を外している間、市川さんと仲良くなれたみたいですね」


 推しの勇姿を見るために、暫くトイレに籠っていたマナが戻って来て、僕と市川さんの間に無理やり入って、その間に座った。


「あ、そうそう。今、駐車場に、あの市川さんが可愛いと言っていた、モデルの方がロケに来て――」

「マジでっ!!? あのみるるんがっ!? そうなったら、会いに行くしかないっしょっ!!」


 市川さんは、ロケに来たモデルを見に行き、今度は市川さんが席を外す感じとなった。


「本当に、嘘つくのが得意だよな」


 そう呟くと、マナはケラケラと頷いた。僕と市川さんの会話を妨害するように、そして市川さんが興味がある事で釣って、場外に移動させたという事は、モデルが来たというのは、嘘だと思われる。


「嘘ついた記憶が無いけどねー」


 僕が困っていたところを助けた、そんな事は言わず、遠回しで滝行に打たれ続ける、小金井さんを眺めていた。


「いずれ、恋人関係の事は言うよ」

「まだその時じゃないって事?」


 そして、マナは再び頷く。


「私にとっては、蘭丸君が初めての彼氏で、初めての恋人。そして大切な人」


 マナの少し赤らんだ顔で、そう言われると、僕も段々と顔が熱くなる。


「『これが私の彼ピッピっ!!』って感じで、堂々と自慢する人って、バカじゃないのかって思う訳。こんな風に、何でもないような時間、こうやって腹を割って話し合える関係でい続けて、もしかして付き合ってる、恋人なのって感じで、周りに認知してもらえれば、本物の恋人だと思う」


 それがマナの考えのようだ。僕は、マナの意見に反対しないし、肯定もしない。それでマナが僕を恋人として認知してもらえる、そう言った関係を望むなら、僕もマナのやり方に付き合うだろう。


「蘭丸君、こっち向いて」

「何――」


 マナにそう言われたので、マナの方を向くと、いきなりマナのスマホで写真を撮られた。


「いい写真。今、ラインで写真送るねー」


 そしてマナから、すぐにラインで、今撮った写真が送られてきた。


「あっはっはっは。蘭丸君、変な顔~」

「……笑うな」


 ギョッとした僕の顔とは裏腹に、マナはちゃんとカメラを意識した、大和撫子のような、美しい顔で映っていた。


「これが、私の今日の目的だからね~」


 マナは、こういった関係を望んでいる。確かに、小金井さんが滝に打たれて、叫んでいようが、市川さんがマナの名前を呼んで走ってきている事なんか気にしない、こう言った、のんびりできるような関係が、僕たちは合っているのかもしれない。





「実に、気持ち良かったっ!!!」


 ようやく滝行を終えた小金井さんは、びしょ濡れになりながら、僕たちに接近してきた。ずっと他人のふりをしていたかったが、こう歩み寄られてしまっては、僕たちは苦笑いしながら、小金井さんを迎えた。


「次は君たちの番だっ!! さあ、誰が――」

「小金井さん、一応私たちは女性ですので……」


 マナがやんわりと断ると、小金井さんはハッとした顔をしていた。


「それもそうだなっ!!! なら、この山の頂上で、今後の抱負を叫ぼうっ!!!」


 結局、マナたちは今後の目標を叫ばないといけないようだ。一応、僕は部外者なので、マナたちが叫んでいる姿を、見守る事にしよう。


「桜木さんも、これから新生活を送るのだろうっ!! なら、一緒に僕たちと抱負を叫ぼうではないかっ!!」


 まあ、そんな感じはしていた。高みの見物が出来ないと分かったマナは、僕を見て、ニヤニヤしていた。


「そうとなれば、頂上までは、歩いて1時間ほどっ!! 頂上の景色を楽しみながら、今後の事を話し合おうじゃないかっ!!」


 そして再び小金井さんは、単独で走って登っていった。


「……これさ、うちたちがいなくても、高松さんのようにドタキャンしてもさ、絶対一人で親睦会やってたよね」

「そうですね……」


 マナたちは、親睦会を着たことを後悔していた。もちろん僕も後悔している。


「集合時間になってもだれも来ないっ!! だが、それもありっ!! 一人になろうが、僕は今後の事を叫ぶために、滝に向かうっ!! って、言いそうだね」

「そうですね――って、蘭丸君っ!? 声帯模写、出ちゃってますよっ!!」


 マナがいるから、ついマンションのノリでやってしまった。もし全員ドタキャンして、小金井さん一人になってしまったら、こんな風に河原で叫んでいただろうと、何も知らない市川さんの前で、声帯模写で再現してしまった。


「は~ん。桜木蘭丸クン~。面白い事を隠してんじゃん」


 市川さんは、新しいおもちゃでも手に入れたような、企んだ顔をした。初めて僕たちに、ピンチが訪れた。


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