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僕と木下マナ

 僕は高校を卒業し、春からは地元の大学に通う。

 そして卒業式の日、僕は学校一を超えて、地元ナンバーワンと言われ、世界レベルのミスコン優勝候補と言われた美少女、木下マナに伝説の木の下で告白され、そして恋人関係になった。


 木下マナが僕に告白したのは、純粋に好きだから。


 中学まで、容姿のせいで女っぽくて男らしくない。声変わりもせず、男女問わず、ずっとバカにされてきた。

 けど木下マナは、僕を好いてくれた。容姿、そして高校で頑張ってきた、部活動で活躍する姿に惚れて、好きになった。そんな彼女の言葉が嬉しく、僕も素直にオッケーした。そして春から木下マナが借りたマンションの一室で、僕も同棲する事になった。


 品行方正、成績優秀と言われ、毎日のように男子に告白されていた美少女、木下マナ。


「ああ~っ!! カジキマグロちゃん~っ!! マジで尊い~っ!!」


 けど、実際同棲してみると、木下マナは別人だった。同棲し始めた時と全く変わっていない、卒業した高校の上下体操服の木下マナ。ブルーライトカットの黒縁メガネをかけ、一日中スマホゲームをしている。


 自分が借りているマンションの一室なのに、木下マナは全く家事など、身の回りの事をしようとしない。このマンションに来てから、すべて僕がやっている。


 木下マナは、俗に言う()()()()()だった。正直に言って、僕はもう別れたいと思っている。どうにか別れる口実を作って、自由になりたいと、常に考えている。


「はぁ~。尊死しそう~」


 木下マナがやっているスマホゲーム、『ウオ娘 ドリームリュウグウライブ』は、2月ごろに配信開始され、魚が擬人化、美少女化された、巷では有名になりつつあるゲームだ。プレイヤーがプロデューサーになり、ウオ娘たちをトップアイドルにするゲーム。乙姫の前でライブするため、プロデューサーが育成し、チームを編成する、かなり中毒性があるようで、月に数百万円課金した人がいるとか。


「マナさんが200万円課金したから、尊死じゃなくて、餓死する事になりそうだけど」

「推しの為に死ねるなら、私は本望だぞ~」


 新生活のために、木下マナの両親がコツコツとしてきた貯金も、課金で一気に消えて、俺たちは一気に絶体絶命だ。そのせいで、部屋の中は何もない殺風景。俺が持ち込んだ布団、身の回りの物や日用品、木下マナが常に寝転がっている以上、代り映えのしない部屋になっている。


「それなら、推しの為なら動けるよな」

「もちろん、推しの為なら動けるに決まっているじゃないですか~」

「今日から仕事だぞ」


 木下マナは、春から社会人。歩いて10分ほどにある、24時間稼働の工場で働くことになっているらしい。そして今日は4月1日。世間では入社式がある。日程は聞いていないが、木下マナが入社する会社も、今日が入社式だと思われる。


「……死にたい」

「死ぬのは、本望じゃないのか」


 今日から会社、春休み期間を終え、日常生活が始まった事を知ると、木下マナは、誤ってゲームのデータを消してしまったような、絶望した顔になっていた。


「……私の推したちの顔を、5分以上見れないとか、もう死ぬしかない」


 ヤバいぐらいに、木下マナはスマホゲームに依存している。下手したら、仕事中に発狂し、そして暴れて問題を起こして、即解雇になるかもしれない。木下マナが会社にちゃんと言ってくれないと、木下マナの人生が終わるだけではなく、僕の人生も終わる。一緒に共倒れになって、僕までもが一緒に借金を背負う事になりそうだ。


「……こほん」


 そうならないように、一刻も早く別れた方が良いかもしれないが、こんなスマホゲームで地に堕ちた元美少女を放っておくわけにもいかない。


『プロデューサー? ちゃんと働いてくれないと、怒っちゃうよ?』


 僕は、声帯模写が出来る。一度聞いた声は、僕は何でも再現できる。なので、木下マナのスマホから聞こえてきた、ゲームのキャラの声を真似して、木下マナのやる気を出させる。


「はいっ! 怒っているのも可愛いけど、怒らせるとコンディションが下がっちゃうから、血反吐吐くまで、働きに行きま~すっ!」


 これで木下マナは、一瞬で覚醒する。しかし、これで一生覚醒してくれるなら、僕はこんなに苦労しない。


「……あーっ。……眠くて死にそー」


 木下マナは、推しの子の一言だけで、一つだけの行動が出来るだけ。今回は、立ち上がらせるだけ出来た。


「6徹するからだぞ」

「いやー、推したちのライブを見ていたら、眠気なんて一気に飛んじゃうからねー」

「今日から仕事、あと1時間で始業時間だと言うのに、眠気が飛ばない方が驚きだけど」


 現在、朝の8時前。木下マナが働く会社が、一体何時から始まるのか分からないが、朝の9時までには始まるはずなので、そう発破をかけた。


「いやいや~。蘭丸さん~、あと30分ですよ~」


 まだ余裕だと思っていたのに、木下マナの一言で、30分も時間が失われる、僕の気持ちを察して欲しい。


「急ごうとは思わないのか?」

「私は、1秒でも長く推しを見ていたんですよ~。だから、ギリギリまで出なくても――」


 そう木下マナが寝転がろうとした時、木下マナのスマホに着信が入る。そしてしばらく着信音を鳴らしてから、木下マナは、急いでいる感じで、実感息を切らしている演技をして、電話に出た。


「もしもし。すみません、ちょっとお婆さんに道を聞かれて、色々教えた後に、財布が道に落ちていたので、交番に届け終えた所なので、もう少しで着きます」


 よくもまあ、平気に嘘が思いつくなと、違う意味で感心してしまう。


「上司か?」

「そーそー。いやー、10分前に集合っていう事を、すっからかんと忘れてー」


 更に時間が失われる。残り10分、つまり今すぐ家を出ないと、木下マナは怒られる。そんな状態なのに、木下マナは、へらへらと笑っていた。

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