7 海の賊
朝、日記を見返してそのページの少なさに嘆いた。今日は絶対に書こうと思う。
昼になって、ケンが突然近づいてきた。
「昨日いったことは忘れろ。誤解がある表現だった」
「はい?」
「ああ、昨日話した、自分探しとかいうやつだ。オレは自分探しのために旅に出たわけじゃない。ムカついたから、なんだよ。わかったか」
「はぁ」
やはり、ケンとはわかりあえないのだろうか。さっぱり理解できなかった。
「で、今日もなにか話すのか?」
「そうするつもりです」
「そうか。じゃ、クリスのとこ行こうか」
「ん」
特に何も話さずにクリスのもとについた。
クリスは手で挨拶をした。
「今日も、話しますかね」
まだ、友人ではないのだろう。会話の最初がぎこちない。
「じゃ、今日は好きなことでも話そうか」
「いいんじゃない」
私は無言で肯定を示した。
「じゃ、まず、ケンからかな。その次は書太郎がお願いね」
「オレか、オレの好きなことか。ちょっと待て」
「悩まなくて良いんだよ。かんたんに」
「分かってる。そうだな、論理的な思考回路をする人間かな」
「ほかの、、
「、、」
「。。」
ケンとクリスは兄弟なのだろう。会話が遠い。私は、一人を感じる。
「そうすると、合理かな」
「やめて、それやめて。やっぱ、好きな物にして」
「そうか、それは時間がかかりそうだ。ちょっとパス」
「じゃ、書太郎の番ね」
突然、振られた。
私の番か。何も考えていなかった。
寂しさが吹き飛んで、隙間に焦りが滑り込んできた。
「も~、書太郎も時間かかりそうなの?それなら私から言っちゃうよ」
なにか、クリスに可愛さを感じた。
「たとえばね~、「"ヴー"」
耳をつんざく警告音が言葉をかき消した。ケンもクリスも、すぐに武器を持った。私は何がなんだか分からずに、オロオロしていた。
「海賊が現れた。戦うぞ、みな、甲板にでろ」
竜兄の声だ。少しおかしな声音だが、竜兄だ。
私も出たほうが良いのだろうか。
まだビクビクと動かずにいたら、ケンに腕を掴まれた。
「行くぞ」
ここで、連れてかれなかったら、私はまた一人を感じていただろう。しかし、連れて行かれた今は、ガクガクと、足の震えが止まらない。嬉しいが怖かった。
甲板に出ると、神父様、ミコ、エリックが待っていた。三人は親しそうだった。
竜兄が、甲板に上がってくる。
竜兄が、ある方向を指した。
遠く、大きなマスト船があった。風力で、進むあの旧式の船だ。
「奪うぞ」
その言葉の、真意を掴むことはできなかった。