6 クリス
ケンと一緒にクリスのもとに戻ってきた。船の揺れはそこそこになってきているから、嵐は弱まってきているのだろう。エリックは元の場所から消えているようだった。
「おっ、戻ってきた。結局書太郎さんは何だったの?」
ケンは手を振りながら答えた。
「仲良くなりたいんだとさ」
「へぇ、良いね。私もそっちの村の人と仲良くなりたいと思ってたんだ」
クリスはもっていた剣を置いた。
場を沈黙が支配する。私はこういうときに何を話して良いのかわからない。
「じゃぁさ、この旅に参加した理由でも語ろうよ」
良さそうだった。ただ、私の持ち前の恥という感情が前に出て、言葉が出ない。悲しい。村では女子と話さなかったのだ。悔しい。竜兄が羨ましい。
「うん、うん。書太郎さんは、なんでこの旅に同行したの?」
「ちょ、ちょっとまってください、」
何も才能がなかっただから旅に出てきた、というのはきっとわかりにくいだろう。なにか言い換えなければ。
「ああ、そういえば、私はこのケンみたいにお硬い合理主義じゃないから。安心して。言葉が長くなっても大丈夫だよ」
「失礼な、誰だって無駄は嫌だろう」
「人はそんなもんじゃいかんでしょ」
「はぁ、この話はするだけ無駄だな、はっ」
二人が話していると、何故か思考がまとまらない。とりあえず、この日記にまとめてみよう。それを言えばいい。
「さっさと、言えばいいじゃねえか。黙っている時間のほうが無駄だぜ。クリスは、なんだろうといいとか言ってんだからよ」
「ちょっと、そんな言い方はないんじゃない。いつも思うけどさ、ケンは言い方ってもんを考えなよ」
「はっ、知らねえよ。分かりゃいいじゃねえか」
「そんな事無い。感情というものを大切にしなさい、この屁理屈野郎め」
「屁理屈じゃない。合理的な思考と、世界の真理だ」
と、何やら言い争っている間に、私は考える。
はて、なんとまとめればいいか。
簡潔に言うならば、自分探しのためだろうか。そんな気がする。
「決まりました」
「ん、ああ決まったの?」
「おせえよ」
クリスは無言の圧力で、ケンを黙らせ私の方を向いた。私の言う場が整ったというわけだ。
「自分探しです」
ちょっと声が裏返ったが、伝わっただろう。コレでよし。
「ちょっとわからない。説明を追加できる?」
伝わらなかった。短すぎたか。
「あ、はい。あの、私は何も才能がなくて、それで、数合わせで村から出てきた感じです。村長の子供が旅に出ればメンツも立つし、落ちこぼれが消えて一石二鳥というわけですかね」
口が回った。いや、滑った。コレは、書くより前に口をついた。その言葉は私の闇だ。言った瞬間に脳に刻まれ、覚えてしまった。だから、一言一句この日記に書けた。
思ってもいなかったはずだ。
沈黙は、痛かった。寂しさが蘇ってくる。
その悲しみを打ち破ったのは、意外にもケンだった。
「何いってんだよ。自分探しで旅に出たんだろ。忘れんなよ」
そうなのだ。自分探しが多分この旅の目的なのだ。しかしその裏には、私の闇が隠されている。
「オレとクリスもそうだよ。自分探しが目的だ。強くなって、、」
「...そうだよ。私達も、自分探しが目的なの。書太郎さん、一緒に頑張りまっていきしょ」
顔を上げると、目があった。その目には力があった。私はそらさなかった。
そこに、楽しげな大きな声が鳴り響いた。
「はれたぁああああ」
竜兄の大きな声だ。
竜兄が下からこちらにやってきている。しんみりとした空気はその声によって消しとんだ。竜兄が希望を引き連れてやってきている。外は良い天気だと叫びながら、やってきている。今は、火兵衛が操縦をやっているのだろう。
私とケンとクリスは、顔を見合わせて、竜兄より先に甲板に出た。
パラパラと雨が降っていたが、きれいな空がひらけている。
この日記に書き記すなら、闇を打ち払う虹がそこにありそうだった。