5 ケン
神父様に言われて、ケンとクリスがいた場所に戻ってきた。二人は剣のような武器を持って素振りをしている。近づきがたい。いいタイミングまで待つか。
そのまま後ろから見てたら、クリスのほうが気づいた。クリスは双子の女の方だ。器量はまぁよし。私が評価して良いのかはわからないが、凛としていてかっこいい。
「あらあら、書太郎さん?」
「あは、はは」
気まずいのは当然だった。どうしたものか。
「あなたも稽古する?」
「い、いえ、やりません」
気まずい雰囲気を打破してくれることを願って、ケンの方を見た。しかし、なにかとネチネチしてそうな顔立ちをしていて、私は不安だ。
「なにか、オレに用か」
きつい眼差しを添えて、ケンが見返してきた。どうしようもない。
ケンは勝手に頷き、近づいてきた。
「クリス、オレに構わず稽古しとけ。こいつとはオレが話す」
ケンに肩を持たれて、クリスから少し離れたところまで無言で連れられた。
「それで、」
私がいきなりの言葉に戸惑っていると、次の言葉を素早く足した。
「あー、オレは合理性を重んじているんだ。見ていたってことは何か用があるんだろ。それをさっさと話せ。簡潔に。無駄話はなしでな」
「えー、と」
ケンは無言だったが、その圧力は重く、私は次の言葉を焦った。
「あの、旅って長いじゃ」
「言い訳、説明不要!さっさと結論から話せ」
「は、はぁ」
私の焦りは限界まですぐに到達したが、声を出すと、お叱りの言葉を受けてしまいそうで何も話せない。仲良くなるなんて無理だったのだろうか。
「まさか、稽古をやりたかったのか」
「ぃ、ぃぇ」
「なら、さっさと言え」
「早く言え」
考える隙すら与えられない。口を開けば「簡潔に」と言われる。つぎの言葉は発せられず詰みである。私は終わった。ココで終わる。
「その書いているのはなんだ。器用なことをやる」
「あ、これは、旅の行いを記録しようと思いまして、それで、」
「もうちょっと簡潔に、お願いできるか」
「日記です」
「なるほど、日記か。話しながらやるとは器用だな。しかし、話の方を疎かにしてしまうなら、書くのを一旦止めたほうが良い」
「簡潔に、ささっと俺らに話しかけた理由を言え」
少しだけ、話の要領をつかめた。さっさと言えば良いようだ。
「あっ、と」
言い換えろ、いい感じに。
「旅の行いを円滑にするために、」
「長い!」
次の言葉を、紡ぐ!
「仲良くなっておきたいと思いました」
一瞬の沈黙の後、納得したようにケンは言った。
「へぇ、仲良くね」
「じゃ、オレの早とちりだったわけだ。あはは、すまん。クリスも一緒のほうが良いよな。いや、すまん、すまん」
早口で言葉を言い、さっとクリスのもとに向かい出す。
「仲良く、仲良く、仲良く?仲良く」
ケンは、その言葉を口の中でコロコロとガムを噛むように味わっている。
その後を、私は満ちた心地でゆくのだった。