不自由な世界での幸せ
練習用のレース場に移動した俺は、早速18もあるコースの把握に努める。
『高速道路』や『ジョーズタウン』をはじめとする、主に車が進路を妨害するコース。
「お前らどこのRPGから出張してきたの?」と、つい言いたくなる程何かのゲームで出てそうなスライムやゴブリンなど、様々なモンスターが進路をはばむ『モンスターパーク』。
他にも魚や動物など、色々な生き物が進路を通過していくコースなどなど......全てのコースを走っていたらいつの間にか3時間も経っていた。
「いつの間にかこんなに時間使ってたんだな......時間を忘れるほど集中してゲームやったのなんていつぶりだ?始めた当初はなんだこのクソゲーって思ったんだが、今はこのゲームを上手くなる事しか考えてねぇ。いいねぇ!楽しくなって来たじゃねぇか!!」
気分が乗ってきたのでこの後追突荷台バグにも挑戦しようか迷ったが、全コース見終わってキリがよかったのと、そろそろ夜飯の時間だったのでロビーに戻りシャークレースのログアウトボタンを押す......
そして色とりどりなゲームの世界から、文字通り真っ暗な現実へと切り替わる。
「あぁ......いつまでたってもこの感覚には慣れねぇな。」
ログアウトした瞬間に観ていたはずの光がまるで幻のように消える。俺がVRゲームをやっていて唯一不満を感じるのがこの瞬間だ。
「まぁ、俺みたいに目が見えない奴の方が少数派だからな......不満を言ってもどうしようもねぇか。」
いつものようにゲームからログアウトする度に言っているセリフを呟いていると、夜飯を運んでくる看護師さんの足音が近付いてきた。
すかさず看護師の桜宮さんが病室へと入ってくるタイミングに合わせ、声をかける。
「今日はちょっと速かったか。いつもならあと2分くらい後に来るのに。ちくしょう、予想が外れたぜ......賭けはアンタの勝ちだ。約束通り、俺の全財産持っていきな。」
「何もしなくてギャンブルで勝てるならそれに越したことはないけれど......ヒロトくん、あなた全財産1円もないじゃない。まぁ、あったとしても使い道が全く無さそうだけど。というか、そういう意味の分からない事言ってるから他の看護師さんがここに来たがらないのよ?」
「ネタにマジレスしてカウンターまで打ってくるとは......やはりこの看護師、なかなかのやり手......!」
「ふふっ、そのテンションで続けるなら明日には配膳の担当変わってるかもしれないわね^^ 」
「すみませんでしたぁぁぁ!!いや、実際ホントに感謝してるんですよ?俺とまともに話してくれるの桜宮さんくらいですし......その、いつもありがとうございます。」
「きゅ、急にどうしたのよ。まぁ、感謝ならいくらでも受け取ってあげるけれど......こ、ここにご飯とタオル置いておくわね!それじゃ!」
「俺は桜宮さんの初々しい所も好きですよ。」
「お、大人をからかうんじゃありません!!」
そう言って普段は冷静そうに振舞っているくせに褒められると途端にテンパる桜宮さんは、病室から早足で出て行った。
「実際......桜宮さんは面倒見もよくて、優しくて、何より可愛いからいろんな人にモテそうなんだけど何故か浮ついた話を聴かないんだよな...... 」
何故なんだろうなぁ?よく分からんけど今日も飯が美味い。
夜飯を食べた後、置いてあるタオルで体を拭き、軽く歯を磨いて寝る準備に入る。
「今日はいい日だったなぁ......有咲がお見舞いに来てくれて嬉しかったし、シャークレースで神を引きづり落とすって目標が出来たから退屈さも消えたし、桜宮さんの可愛い所も聴けて........................こんな日が......続くといい......なぁ...... 」
そんな願望など叶わないと知っているから。せめて今だけは幸せな気分のまま眠らせて欲しい......そう、思いながら俺はまどろみの中に消えていった。
Q.あれ?なんか短くね?
A.キリがよかったので少し短めになってます。次話はその分長くなる...かもしれない。(断言はしない)