VS全国ランキング8位
レーススタートの合図が出され、俺とジェントルがアクセルを踏み......一斉に走り出す。
G-ホイールで風を切って走りながら、周りに意識を向けてこのコースの情報を集めていく。
(ゴールは大体6km先、ルート分岐が多いけどどこのルートもあまり変わらなさそうだ。車の数は多いけどスピードは無いから回避は難しくない......むしろ車より、歩道に溢れるくらい居やがる人間が厄介だな。)
「......これ絶対交差点とかで道路が人で埋まるよな。」
「おっ、勘がいいじゃねぇか。そう、このコース中盤あたりにあるスクランブル・フィッシュ交差点。そこの信号が赤になった瞬間にゴールまでの道を塞ぐ大量の障害物達が出てくる。これがこのコース......『ジョーズ・タウン』最大の特徴だ!!」
そう言いながらジェントルは車を避けつつ近くで走っていた俺にぶつかってコントロールを奪おうしてくる。
俺も負けじとジェントルにぶつかりに行き、ギィン!とG-ホイール同士が擦れ合う音が響く。
そして、両者共に相手を叩き潰さんと衝突しては離れてを繰り返していく。
「おいおい、ホントに初心者か?これだけぶつかってバランス崩さねぇやつはなかなか居ねぇぜ?」
「そう言うてめぇも全然崩れる気配ねぇじゃねぇか......もしかして結構上手かったりする?」
「さぁ......どうだろうなぁ?」
「うわぁ......うっぜぇ。流石着ぐるみをチョウザメにしてるやつは違いますわ。何?チョウザメから高級食材のキャビアが取れるからって自分はサメの中でも特別だとでも思ってんの?いやいや、特別なのは卵だけであってチョウザメ自体はただの見た目がよろしくない魚類じゃん。さっさと海に帰れよ魚くせぇ。」
「なんかやっぱり言い方酷いよね!?!?レース中に精神攻撃されるのキツイからやめろよ!!つーかお前もコバンザメだから魚類じゃん!それでよく人の事魚くせぇとな言えるな!?」
「レース中なのにギャーギャーギャーギャーやかましいんだよ。産卵期ですか、コノヤロー。」
「..............................。」
「お、おい......無言でぶつかってくんのやめろよ!!」
目が笑っていないジェントルがいきなり突っ込んできたので回避し、少し距離を取る。
「こらこら〜逃げないでこっちこいや^^ 」
「きゃー!磯の香りがする変質者よー!(裏声)」
......なんてやりとりをしていると、スクランブル・フィッシュ交差点が見えてきた。
「さぁ、茶番はこれくらいにしようぜ?ここまではハッキリ言って前哨戦みたいなものだ。ジョーズ・タウンはここからが本番だからなぁ?」
そう言ったジェントルの雰囲気が変わったのと同時に、信号が赤に変化し......人が交差点へと流れ込んできた。
「うわぁ......人がgmのようだ。」
交差点が一瞬で人で埋まる。
それに伴いゴールまでの道が人で埋まり、見えなくなる。
俺が、信号が青になるまで待つしかないと思いスピードを落とすと、少し後ろに位置していたジェントルがスピードを緩める気配を見せずに俺を追い越していった。
「なっ!?ジェントルてめぇ、この人混みの中を強行突破するつもりか!?!?」
「強行突破?おいおい、ペナルティを受けるのに人を轢く訳ないだろう?」
「いや、だけどお前そのまま行くと...... 」
「............ちょうどいい。こうやって戦うことになったのも何かの縁だ、俺が完勝するついでに教えてやるよ。俺たちランカーはただランキング上位に居るから......なんて理由じゃなく、他を圧倒する『何か』を持っているからこそランカーと呼ばれる。例えば俺の場合......こんな事が出来たりする。」
そう言ったジェントルは人が溢れかえっている交差点に突っ込んでいき、時にはG-ホイールを限界まで傾けて曲がる事で人を躱し......時にはスピードを緩めて通り過ぎる人達を躱し......G-ホイール1台通れるか通れないかの少ししかない隙間を針に糸を通すようなプレイングで通り抜けていく。
ぶっちゃけあいつがランカーとか嘘だろうと思っていた俺は、そのプレイ1つで理解させられた。ジェントルは正真正銘ランカーの1人であり、凡人では一切届かない高みに居るプレイヤーだと。
そして信号が切り替わり、俺が再び走り出す頃には......誰1人も轢くことなくあっという間に交差点を抜けていったジェントルの姿が、遥か前方にあった。
俺も必死に巻き返そうとしてみたが、やはり交差点での差が大きく..................
結果的には本日2回目の大敗を喫する事となった。