7話「飛翔」
アニメで動くと映えそうな話かなぁと。
○ 地球・グランドキャニオン・高地
超大型の牛型ロボットが悠然と立っている。体長は約20メートル。
それに対峙しているサラとエマ。
サラはレイピア、エマはモーニングスターを持っている。
戦闘態勢は取っていない。
サラたちの後方には男性のサイボーグが二人立っている。こちらは戦闘態勢を取っている。使用武器はロングソードと盾。
サイボーグ男1「(震え声で)なぁ」
サイボーグ男2「(震え声で)なんだよ」
サイボーグ男1「(震え声で)なんで隊長たちは構えていないんだ……?」
サイボーグ男2「(震え声で)知るかよ。なんか策があるんだろ」
サイボーグ男1「(震え声で)ほんとにそうなのか?」
サイボーグ男2「(いら立たしげに)だから分かんねぇって。信じるしかないだろ」
エマ、隣に立つサラを見る。
エマ「ねぇ、お姉ちゃん……」
サラ「うーん?」
と、背筋を伸ばす。そのまま左右にストレッチ。
エマ「どうするの……?」
サラ、ストレッチしながら、
サラ「うーん、どうしようか」
エマ「あれ、するの?」
サラ、エマに向き直り、
サラ「あれはやめておこう。まだ慣れていないし、実戦に投入するには早すぎる」
エマ「じゃあ、あの牛さん……? は……?」
サラ「私たちふたりのコンビネーションで倒せるんじゃないかな」
サラ、笑顔に。
サラ「どう思うんだい? エマは」
エマ「……倒せるよ、うん、私たちなら」
サラ「だね。姉妹ならではのコンビネーションを見せてあげようか」
エマ「うん……」
と、牛型の右足近くに一気に駆け寄る。
牛型、動じず、直立不動のまま。
エマ、急停止し、背負っていたモーニングスターの柄を左手でつかむ。
つかむと同時に、柄の先から格納されていたチェーンが伸びる。チェーンの先にはトゲ鉄球。
エマ、左手でモーニングスターを振り回す。
モーニングスターのチェーン部分が牛型の右足に巻き付く。
エマ、両手で柄を持ち、
エマ「うん……!」
と、思いっきり柄を引っぱる。
牛型の巨体が少しだけバランスを崩す。
牛型「モ……!」
サラ、右手にレイピアを構えたまま、牛型の右足に超スピードで向かう。
エマを追い越しながら、
サラ「よくやった、エマ」
と、牛型の右足の正面に到着し、レイピアの連続突きを叩きこむ。早すぎて突きのスピードが見えない。
次の瞬間には、牛型の右足が粉粉になっている。
牛型「モォォォォォ!!」
と、バランスを崩して倒れる。
サラとエマ、牛型から距離を取る。
サラ「まぁ、ざっとこんなものだよね」
エマ「うん」
その戦闘の様子を見ていたサイボーグ男たち。戦闘態勢を解くのも忘れている。
サイボーグ男1「すごい……」
サイボーグ男2「いや、まだみたいだぜ……」
サイボーグ男1「え?」
牛型「モォォォォォ!!!」
サラ「へぇ」
牛型、三本足で立ち上がり、戦闘態勢を取る。今にも突進してきそうだ。
サラ「さすがにこれでは終わらないか」
エマ「すごく怒ってる……」
サラ「だね。第二ラウンドといった感じかな」
エマ「私も頑張る」
サラとエマ、再び戦闘態勢を取る。
○ 同・同・クレーター付近
飛んでいる超大型の鳥型ロボットと対峙しているリーザたち。
誰も致命傷は負っていないが、体は塗装がはげたりしている。四肢は無事。
疲弊感はない(サイボーグのため)。
鳥型「(鳴き声)キシャァァァ!」
と、リーザたち目がけて、くちばしから突っ込んでくる。
リーザ「くっ…」
リーザたち、ジャンプする。突撃の風圧で砂ぼこりや小石が舞う。
かなりのスピードを伴い、たくさんの小石がリーザたちを襲う。
リーザ「うっとうしい……!」
と、両腕で顔を守る。
傷つくリーザたちの体。
先の位置と反対側に移動した鳥型、態勢を立て直し、
鳥型「キシャァァァ!」
と、威嚇する。
リーザたち、着地する。
カミラ「さっきからこれの繰り返しばかりね……。芸がないわ」
リーザ「だけど、有効だよ」
と、鳥型ロボットを見据え、
リーザ「飛んでいる間は手出しができないし」
と、傷ついた体を見て。
リーザ「こっちは徐々にだけど、ダメージが蓄積してきている」
イレーネ「持久戦狙いでしょうか」
クロエ「いやらしい性格してるね」
リーザ「持久戦狙いというわけではないと思う。当たれば致命傷だし」
イレーネ「あわよくばでしょうか……」
リーザ「たぶんね」
鳥型ロボット、くちばしから急降下を始める。
クロエ「またなのだー」
リーザたち、ジャンプする。
鳥型ロボット、スピードを緩める。
リーザ「(ハッと気づく)クロエ! 危ない!」
クロエ「えっ!?」
鳥型ロボット、かぎ爪でクロエに襲いかかる。
クロエ「わっ!?」
と、槍を横に構え、かぎ爪攻撃を防ぐ。
直撃は免れたが、鳥型ロボットの体重に押され、地面に激突する。
小さなクレーターが出来上がり、その中心には鳥型ロボットに押されているクロエ。
クロエ「ぐっ……」
イレーネ「クロエ!」
クロエ、槍でかぎ爪攻撃を防いだまま。
鳥型の重みのため、槍は震えている。
クロエ「なん……とか……大丈夫っ……」
リーザ、思いっきりジャンプをして、鳥型の左翼に目がけて大剣を振り下ろそうとする。
鳥型、危険を察知し、羽ばたく。
風圧で吹っ飛ばされるリーザ。
リーザ「(大剣でガードをしながら)くっ……」
と、大剣を地面に刺し、滑りながら着地する。
リーザ「近づけない…!」
カミラ「なら、私のナイフで!」
と、ナイフを二本投げる。
鳥型、羽ばたく。
風圧ではじかれるナイフ。
カミラ「やっぱりダメか……」
カミラの横を何かがものすごいスピードで飛んでいく。
カミラ「えっ! なに」
飛んでいるのはイレーネのランス。ランスが鳥型の足の付け根辺りに刺さる。
鳥型「ガァァァァ!」
カミラ、ランスが飛んできた方向に振り返る。
カミラ「イレーネ!」
イレーネ「――これが飛んでくるとは、さすがに思わなかったようですね」
鳥型、リーザたちの方に振り返る。
鳥型「キシャァァァ!!」
クロエ、力が緩んだ隙にかぎ爪から脱出。ジャンプして、クレーターから出る。
クロエ「(大声で)ありがとー!! イレーネーーー!」
と、イレーネに向かってブンブンと手を振る。
イレーネ「全く……。この借りはまた返してもらうわよ」
○ 大型戦艦アスモデウス・ブリッジ内部
エーデル、リーザたちが映っているディスプレーを見て。
エーデル「(ハハハと笑い)ランスを投げるか。面白い」
霧江「もう何でもありですね……」
エーデル「勝てばそれでいいんだ。(ユリアを見て)なぁ、ユーリカ」
ユリア「そうそう、勝てばいいんだよ!」
霧江「まあ、そうなんですが……」
ユリア「霧江おねーちゃんの銃を使うスタイルだって滅茶苦茶だよー」
霧江「うっ……」
エーデル「(笑いをこらえ)一本取られたな」
霧江「――それにしても、(エマたちが映っているディスプレーを見て)エマとサラはさすがですね。コンビネーションが群を抜いています」
ユリア「あー、話をそらしたー!」
エーデル、隣にいるアニードに囁きかけるように。
エーデル「まだ無理か……?」
アニード「(ひそひそ声で)まだじゃな。制御が安定せん」
エーデル「(ひそひそ声で)そうか」
アニード「(ひそひそ声で)まあ、いずれは出来るようになるじゃろうて」
エーデル「(ひそひそ声で)長い目で見るしかないか」
ユリア「ねえねえ!」
エーデル、ユリアを見て。
エーデル「どうした?」
ユリア「二人で何の話をしてるのー?」
エーデル「大人たちの秘密の話さ」
ユリア「ずるーい! 私も混ぜて!」
エーデル「大人になったらな」
ユリア「体が? (頭をコンコンと叩きながら)ここが?」
エーデル「どっちかというと頭のほうかな」
ユリア「何歳ぐらい?」
エーデル「……20歳ぐらいかな?」
ユリア「あと8年も!?」
エーデル「じゃあ、それまでお預けだな」
ユリア「えー!」
霧江、エーデルたちのやり取りを見ている。
霧江「……」
鳥型の声「キシャァァァ!!!」
ブリッジ内に響き渡る鳥型の声。
エーデルたち、リーザたちのディスプレーを見る。
鳥型が我を忘れたように暴れ回っている。
エーデル「手負いの獣は手がつけられないと言うが、ロボットも同じか」
○ 地球・グランドキャニオン・クレーター付近
地上で暴れ回っている鳥型。近づくことすらままならない。
少し離れて、その様子を見ているリーザたち。
イレーネ「窮鼠猫を噛むとも言いますが……」
リーザ「別に弱くもないけどね」
クロエ「何の話?」
カミラ「さぁ……?」
鳥型、暴れるのをやめ、空中に飛び立つ。リーザたちが立っている方向とは逆方向に飛んでいく。
クロエ「逃げた……?」
リーザ「(鳥型が飛んでいた方向を見つめながら)……いや」
カミラ「そういえばイレーネ」
イレーネ「何ですか」
カミラ「ランスは?」
イレーネ「あっ……」
リーザ、ハッとした表情になる。
リーザ「みんな伏せて!」
と、リーザは伏せる。
カミラ・イレーネ・クロエ「えっ!?」
と、カミラたちもリーザに続いて伏せる鳥型が飛んでいった方向からイレーネのランスが、真っすぐ、リーザたちがいる場所に飛んでくる。
ランスはリーザたちが立っていた空間を通る。
風圧でリーザたちの周りに振動が起こる。
リーザ・カミラ・イレーネ「くっ……」
クロエ「わっ……」
クロエ、立ち上がる。
クロエ「びっくりしたー」
リーザ「クロエ! ダメッ!――」
クロエ「えっ」
クロエの前方、真っすぐに飛んでくる鳥型。
クロエと鳥型の距離は余裕がない。通常の視力でも姿を確認できるほどの距離。
リーザ「クロエ!」
と、クロエを片手で突き飛ばす。
突き飛ばされるクロエ。
クロエがいた場所にリーザが来る形に。
リーザと鳥型の距離は目と鼻の先。
カミラ「(伏せていた顔を上げ)リーザー!!」
と、手を伸ばす。
○ 月・第4層・森・回想
空から落ちて来るカミラ。いくつもの木の枝にぶつかりながら、地面にお尻から着地する。
カミラ「いったー!(お尻を手でさすりながら)あっ、痛くないんだった」
と、両手を地面につけ、両足を伸ばす。人工的に作られた空に顔を上げ、
カミラ「はぁ……。一体何がいけないのかサッパリ……」
カミラ(M)「リーザはもうとっくに変形できるっていうのに……」
空を見つめたまま。
カミラ「何が足りないのかしら。うーん……」
と、目をつぶり、考える。
カミラ「うーん――分からない!」
と、おもむろに立ち上がり、
カミラ「まあ、練習するしかないわよね」
○ 地球・グランドキャニオン・クレーター付近
ここから先はスローモーションで流す。
手を伸ばしているカミラ。
大型の鳥型はもうリーザの目の前まで飛んで来ている。
リーザは避ける間もなく、立っている。
カミラ(M)「今度は私がリーザを守るんだ。だってあの子は――」
と、カミラの体が徐々に変形していく。
カミラ(M)「私の大切な大切な妹なんだから――!」
と、カミラの体がさっきよりも変形していく。右足で地面を蹴る。
カミラ「コードB!!」
○ 同・同・空
リーザ「……」
リーザの顔。目をつぶっている。髪が揺れている。
リーザ「? ……んっ?」
と、目を開く。視界の先は青く澄んだ空。雲がポツポツと浮かんでいる。
リーザ「んん?」
と、瞬きを繰り返す。
リーザ「――天国って本当にあったんだ……」
カミラの声「(苦しそうに)んな訳ないでしょ……」
リーザ、頭を上げる。
そこにはワシのような鳥型に変形したカミラ。全長は約百五十センチメートル。
カミラはリーザの背中をかぎ爪で掴みながら、羽ばたいている。
リーザは背中を掴まれ、ぶら下げられている状態。
リーザ「カミラ……?」
カミラ「何よ」
リーザ「変形できたんだ、やっと」
カミラ「やっとは余計よ」
リーザ、フフと笑う。
リーザ「確かにその形は制御が難しそうだね」
カミラ「まあね。……っと、続きはアイツを倒してからね」
リーザ、正面に顔を向ける。
そこには超大型の鳥型ロボットが羽ばたいて、リーザたちの様子を見ている。
鳥型「キシャァァァァ!(威嚇)」
リーザ「だね」
鳥型、カミラたちに突進。
カミラ「避けるわよ」
と、超スピードで突進を難なく避ける。
リーザ、はるか彼方に見える茶色の地面を見て。
リーザ「落としたら嫌だよ。確実に死ぬから」
カミラ「その時はその時よ」
リーザ「……頭さえ守ればなんとかなるか……」
カミラたち、鳥型と位置を変え、再び対峙。
鳥型「キシャァァァァ!」
カミラ「さて、でもどうしたらいいのかしら……。体格差がありすぎるわね」
リーザ「――私の剣で切る」
カミラ「剣は持ってるの?」
リーザ「ううん。たぶんクロエたちの所」
カミラ「取りに行くしかないわね」
リーザ「うん。でもその前に」
カミラ「ん?」
リーザ「体勢変えたい……」
カミラ「どうしたいの? 手で私の足を掴む?」
リーザ「いや、ちょっと待って……」
と、少し考えて、
リーザ「いいこと思いついた」
カミラ「?」
リーザ「ちょっと聞いて」
○ 同・同・クレーター付近
イレーネとクロエが空を見上げている。
クロエは片手にリーザの剣を持っている。
クロエ「見える?」
イレーネ「いいえ。全く」
クロエ「どこまで飛んだんだろう」
イレーネ「さぁ。ただこの目で見えないとなると……。相当な高さね」
クロエ、耳を澄まし、ハッと気づく。
クロエ「ねぇ、イレーネちゃん」
イレーネ「なに」
クロエ「何か聞こえない? あっちの方から」
と、指さす。
イレーネ、その方向を見て。耳を澄ます。
イレーネ「――確かに」
クロエ「だよね!」
と、目を凝らすように見る。
はるか遠くに見えるのは――地面すれすれを飛ぶ鳥型のカミラ。リーザは背中を掴まれている状態(さっきと同じ)。
カミラたちを追うのは超大型の鳥型ロボット。カミラ達より高い位置を飛んでいる。
かなりのスピードを両者とも出しており、キーンという音が響いている。
クロエ「カミラたちだ!」
イレーネ「こっちに来てる……?」
○ 同・同・地表をギリギリで飛んでいるカミラ
カミラ「本当にやるの!?」
リーザ「うん」
カミラ「ああ、もう! どうなっても知らないわよ!」
リーザ「カミラを信じてるよ」
クロエとイレーネが見えて来る。
リーザ「あと少し、あと少し……」
○ 同・同・クレーター付近
クロエたちの前方(距離はほとんどない)を真っすぐにこちらに向かって飛んで来るカミラ。
クロエ「こっちに来た!」
イレーネ「――もしかして」
リーザ「(大声で)クロエ!」
クロエ「(大声で)なにー!!」
リーザ「(大声で)剣を投げて!!」
クロエ「(大声で)分かったー!!」
と、剣をリーザに向かって投げる。
リーザ、剣の柄を口で捕らえ、そのままくわえる。
リーザ「(剣をくわえながら)ひゃりはとぉー」
カミラとリーザ、クロエたちを通り過ぎていく。
風圧でひるむクロエたち。
超大型がカミラたちを追っていく。
クロエ「うーん。私たちの出番はなしだね!」
イレーネ「はぁ……。私たちも変形できれば……」
○ 同・同・空
真っすぐに上昇飛行しているカミラ。
リーザ、チーター型に変形する(同時にくわえたままの剣は大剣に)。
リーザ「(追ってくる超大型を見て)よし、やるよ」
カミラ「はいはい」
リーザ「ちゃんと受け取ってね」
カミラ「保証はしないわよ」
と、リーザの背中を掴んでいた手を離すカミラ。
リーザ、超大型の方へ頭から落ちていく。
鳥型「キシャァァァァ!」
リーザ「そこ!」
と、超大型の右翼を大剣でぶった切っていく。真っ二つになる。
鳥型「キシャァァァァ!!」
リーザ、くるくると回りながら(猫のように)空の中に落ちていく。
カミラ「間に合えーー!!」
鳥型のカミラ、急降下。リーザの真下に。
リーザはくるくると回りながら、カミラの背中に綺麗に着地。
片翼を失いながらも、果敢にカミラたちに向かって飛んで来る超大型。
リーザ「遅い!」
と、超大型の左翼に飛びかかり、大剣でぶった切る。
鳥型「キシャァァァァ!!!」
と、地面に向かって落ちていく。
あとを追うように落ちていくリーザ。
○ 同・同・クレーター付近
クロエ「(見上げながら)ん? 落ちてきてない?」
イレーネ「きてるわね」
超大型がクロエたちの方に空から落ちてくる。
クロエ「(ジャンプで避けながら)よいしょっと」
イレーネ「(ジャンプで避けながら)……」
ドーンと地面に落ちる超大型。
砂ぼこりが舞う。
クロエとイレーネ、鳥型の頭のほうへ。
鳥型「(威嚇するように)キシャァァ……」
クロエ「まだ生きてる!」
イレーネ「大した生命力ね。ロボットに言うのも変だけど」
鳥型「(威嚇するように)キシャァァ……」
ドン! という衝撃音が響く。
鳥型「シャァ……」
鳥型の頭に大剣が刺さっている。大剣を持っている人影。人型のリーザだ。
大剣を引き抜き、
リーザ「――任務完了」
(第7話 終)