テロリストが作った人体強化人間が異世界で暴れまくります・外伝【ポラリス伯国の玉姫】
「ミーレイ!貴様との婚約は破棄させてもらう!」
二重帝国帝都デネブ・アルゲディにある貴族学院。そこでは今年度の卒業生へのパーティーが行われていたが一人の男の声によってパーティーは静寂に包まれた。
声の方を誰もが見る。周囲の視線の先には三人の男女がいた。一人はこの国の皇太子グラウ=ディアン・リューベル・カプリエルとその婚約者で伯爵令嬢のミーレイ・フォール・ポラリス、そして男爵令嬢であるカルカ・レイベスである。
グラウ=ディアンは一年ほど前から婚約者をないがしろにしてカルカを愛しておりその様子を学院の者は誰もが知っていた。しかし、彼は皇太子であり誰も注意や批判をする事は出来ずミーレイに同情の視線を向ける事しか出来ていなかった。
それでもグラウ=ディアンがこんな暴挙に出る事は誰もが予想できずパーティー参加者は驚きの視線を向けている。それはミーレイも同じであり目を見開き震えている。
「で、殿下?何故その様な事を……?」
「しらばっくれても無駄だ!貴様が私の愛するカルカに嫌がらせをしていた事は判明している!……哀れだな。そこまでして私の寵愛を欲したか」
「そ、そんな!?私は何もしておりません!信じてください!」
「くどいぞ!バナップ!こいつをアルゲディ監獄に連れていけ!」
「はっ!」
皇太子の命に従いバナップ、ミーレイの弟であるバナップ・ヒューロウ・ポラリスは姉であるはずのミーレイに侮蔑の視線を向けながら無理やり引っ張る。力任せの弟の行動に驚きと恐怖を抱きながらもミーレイは必死にグラウ=ディアンにすがる。
「殿下!お願いします!私を信じてください!」
「カルカ。これで君を虐げる者はいなくなった。改めて私の妻になってくれないか?」
「殿下……、嬉しいです。ありがとうございます」
「殿下!」
「いい加減にしろ。何時まで醜態を見せるつもりだ?」
ミーレイはパーティー会場から連れ出され扉が閉まる直前までグラウ=ディアンに無実を訴えるのだった。
「何故だ……。何故、こんな事に……」
中継都市ポラリスの領主ギル=ブラン・ジャーン・ポラリスは帝都からの知らせに体を震わせていた。
『貴殿の娘ミーレイ・フォール・ポラリスは国家反逆罪を適用されアルゲディ監獄に収容された。そして昨日死刑が執行された。尚、ポラリス伯爵は子爵に降格の上全領土を召し上げるものとする。領土は帝国直轄領となるため一月後までに引継ぎを済ませる事』
ポラリス伯爵からすれば唐突の出来事であった。皇太子と婚約出来た時は当家を更に大きくできると喜んだが皇太子が大きくなるにつれ彼の者の性格から後悔し始めていた。加えて娘からの手紙からカルカと弟の事を聞いていたがまさかこんな行動を取るとは思ってもみなかった。
憤りを感じつつポラリス伯爵は仕事を続ける。この国がアリエス王国とカプリコン帝国に別れていた事から続く名門の出であるポラリス伯爵家を没落させる事に伯爵は心の中で涙を流した。だが、彼は二重帝国に忠誠を近った身。娘への仕打ちがあれど命令とあれば従うほかなかった。
「ほう、貴様がポラリス伯爵、いや、子爵か。思ったよりも冴えない風貌をしているな」
ミーレイの死から一月と少し。ポラリス伯爵は帝都からやってきた皇太子を出迎えていた。ポラリス伯爵の領地は全て皇太子に渡される事となっていたからだ。伯爵は自分の愛娘を殺した皇太子を心の中で上身ながら引継ぎ作業を済ませる。
「……こちらが資料になります」
「うむ、ご苦労。子爵も変わらぬ忠誠を期待しておるぞ」
「は……」
「ああ、貴殿の今後についてだが我が領土をかすめ取りつつあるレオル帝国に備えるために南部へと送る。指揮官として腕を振るってくれたまえ」
二重帝国の南部は少しづつ奪われており現在はレグルスを拠点に防衛を行っていた。二重帝国最大の激戦地であり隣にいた友が翌日には骸に代わっておりその翌日には自身が骸になっていたと言われる程死傷者が多く出ていた。そこに送られるという事は実質的な左遷を意味していた。
「……分かり、ました」
「うむ、それでいいぞ。……ああ、そうそう貴殿の娘についてだが」
「……っ!」
「最後まで『殿下、殿下!』と喚いていたな。城の兵士の慰み者にさせて漸く黙ったが、な……」
皇太子は最後まで言い切る事が出来なかった。我慢の限界に達した伯爵によって切り殺されたのだ。
「で、殿下!?」
「ポラリス子爵!血迷ったか!?」
「もう我慢ならん!我が娘をその様に扱うとは!騎士団長!」
「はっ!」
伯爵の呼びかけに彼の領地の騎士団の団長が直ぐに地下より膝をつく。
「全騎士団を使い領内を制圧しろ!我らはここに独立を宣言する!」
「はっ!必ずや!行くぞ!グラウ=ディアンの共周りを制圧するのだ!」
「「「おおぉぉっ!!!」」」
騎士団長の言葉に従い騎士たちが皇太子の共周りを捕縛していく。抵抗した者は容赦なく切り殺されポラリス伯爵は独立を正式に宣言しポラリス伯国の建国を宣言した。鈴木和人がこの異世界へとやって来る百五十年前の出来事であった。
「全く、やんなっちゃうわ」
二重帝国の帝都デネブ・アルゲディにある王宮の一画、皇太子妃にあてがわれた部屋にてカルカ・レイベスが荷物をバッグに詰め込んでいた。
彼女は宝石類を中心に詰め込むと来ているドレスを躊躇なく脱ぎさる。下着或いは裸の彼女が見えるはずだったがドレスの下には体をぴっちりと包みこむ黒い服を着ていた。そして左腕にの付け根部分には赤龍の紋章が描かれていた。
「わざわざカルカ・レイベス|を殺して成り済ましたのに《・・・・・・・・・・・・》取り入った相手が死ぬなんてね」
バッグが満タンになるまで詰め込んだ彼女は油のにおいが漂う部屋を一度見渡すと床に転がる一人の女性を見る。女性は目を見開き絶命しており首筋には目を凝らして見なければ分からない黒い点があった。
彼女はこの王宮のメイドであり今日は皇太子妃の世話を担当していた。そんな彼女を見たカルカは笑みを浮かべると部屋の隅に付けられている蝋燭を取り彼女へと落とした。瞬間彼女は燃え上がり床を、壁を、天井を炎が疾走する。油で充満した部屋は勢いよく燃えカルカはそれを見ながら部屋を後にした。
火は中々消えず王宮の半分を焼く大惨事となった。そしてカルカ・レイベスと思われる焼死体が発見されたことで皇太子妃の日の不始末と判断された。しかし、王宮の修繕に金を取られることになり且つポラリス伯国という新たな敵の出現に二重帝国は更なる衰退を見せるのであった。