僕から君へ、恋についての研究結果
こんな経験が欲しかったなー。という妄想。
自分が「尊い...!」って思える話を書き殴りました。
ノベルアップ+にもあげてます。
窓から西日が強く差し込んでいる。いつまで
長引くのだろう。
隣にいる高宮も必死に欠伸を押し殺しているようだ。
...居残りで説教。まさか僕がこんな目に合うとは。
道徳の授業というのは、何度受けてもやっている意味を理解できなかった。
“良い話”ばかり聞かされて、最後に感想文。お決まりの流れを繰り返すだけ。
何かを教わった気にはなれないし、自分に同じ体験があるわけではないから共感もできない。
今日は「自分の大切な人とどう生きていくか」という内容だった。
僕は感想文が得意で、何を書けば評価が上がるか手に取るように分かっていた。
だけど心にもないことを書き連ねることに飽きてもいた。
だから今回は正直に書いた。
“特に大切な人がいないので、私にとってはどう生きるか以前の話でした。
強いて挙げるなら家族ですが、家族とは今まで通りに過ごせたら良いと思います。”
その結果、ここにいる。
「あなたには心がないんですか!14年の人生の中で大切な人くらい見つかるでしょう?家族に対しても今まで通りってなに?恩返しをしようとか考えないんですか。」
「すみません。」
感情を込めずに謝罪する。
これだ、これだから嫌だ。
うちの担任は典型的な「先生」だった。教え導くという立場に酔っているのか、気に入らない内容は徹底的に修正してくる。
道徳ってそういうのじゃないだろ。僕みたいな生徒が気に入らないのは分かるけど、こういう考えだって一つのあり方じゃないか。
「高宮さんも!分かりませんってどういうことですか。この年頃なら恋の一つも体験があるでしょう?それを書けば良かったのに。」
先生それ、あんたが女性じゃなかったらセクハラで訴えられてるとこですよ...
けど、高宮まで説教を喰らうなんて。
「本当に、私まだそういうの分からないんで。」
面倒くさそうに返す。意外だった。僕は他人の容姿に対してどうこう言える身分ではないけど、それはそれとして高宮は可愛いと思っていた。彼氏くらいいるのだろうと考えていた。
先生に目を戻す。顔が赤くなって震えていた。仕方のないことだ。僕も高宮もまともに話を聞いちゃいなかった。
「〜ッ、とにかく!2人とも書き直しなさい!私は職員室にいますから、ちゃんと提出すること!」
吐き捨てるようにして去っていく。
日が落ちかけた教室に、僕と高宮の影だけが伸びていた。
「はぁ〜っ!説教長いわ〜。」
「ホントに。僕も疲れたよ。」
「あの顔見た?プルップルしてたよ!プルップル!」
「かなりキレてたからな......書き直しってことだけど、どうしよ。」
「まあ適当に『これから大切な人を見つけていきま〜す』とか書けばいいんじゃない?こういうのはノリだよ、ノリ。」
「そもそも中2になったばかりであんなの分からないって...。それとも僕の方がおかしいのか?」
「まあ恋愛してない人の方が珍しいかもね。」
「うっ...やっぱそう?でもそれって癪だな。あの先生が言ってることが正しいみたいで。」
「おっ!翔太もそう思う?そうだよねぇ〜、あっちの方がおかしいって!」
「高宮もメチャクチャなこと言われてたな、恋くらいしてるだろって。決めつけが過ぎるよ。というか恋ってなんだよ... 。」
「翔太も、恋が分からない?」
「ああ、分からないね。まあ今日みたいな時のために、知っておいた方がいいとは思ったけど。」
「じゃあさ、恋について研究しようよ!研究しまくって、またあの先生になんか言われたら正論ぶつけて論破してやる!」
「なんだよそれ。というか、研究ってどうするつもり?」
「翔太よく本読んでるでしょ?だから翔太が資料漁って、結果を私に伝えるの。」
「動くのほとんど僕じゃん...。それに、本は読んでるけど小説ばっかで、資料とかそういうのは...。」
「恋愛小説も立派な資料だよ。翔太って頭良いから色々分かるかなーって。」
「別にそんなこと...。でも、そういうのを調べるのも悪くないかもね。」
「あはは!頭良いって言ったら乗り気になった!翔太ってチョロイね。」
「う、うっさい!」
「いや~こんなところに仲間がいるとは思わなかったよ。それじゃ、成果を楽しみにしてるね。」
「…しょうがないな。」
こうして研究が始まった。
休み時間は恋愛小説ばかり読んだ。意外にもフィクションとしては中々良いものが多かった。読みながらついニヤけてしまうことが多くて、周りから変な目で見られることもあった。
特別恋愛に憧れているわけではなかったけど、読んでいてすごくドキドキした。
図書館に行くことも増えた。小説だけじゃなくて、エッセイやコラムも読んだ。身近で直接的な話は僕の心に深く刺さった。
高宮もよく図書館に来た。
「さ、今日の結果を報告してもらおーか。」
「やけに上から目線だな...。正直まだ分からないよ。色んな形がありすぎる。でも、どれもすごくイイと思う。」
「おぉ...目がキラキラしてる...!翔太くんは今まさに恋がしたいんだねぇ。」
「そんなつもりじゃ...!まだ恋がどういうものか分かってもないのに、そんな...。」
「まぁまぁ落ち着いて。ところで、そんな翔太くんに朗報があります。」
「朗報?」
「じゃん!コレだよコレ!」
「映画の...チケットが...2枚。」
「そう、今話題の恋愛映画です。これ観に行こ。」
「...2人で?」
「そ、2人で。これも研究のためだよ。本だけじゃ分からないこともあるでしょ?」
「あ、ああ!研究ね、研究。そうだな、映画だからこそ伝わることもあるよな。分かった。研究に付き合うよ。」
「うん。予定、空けといてね。」
ほんの少しだけときめいた自分が恥ずかしかった。自分は何を勘違いしているのか。僕と高宮はただ恋について調べているだけなのに。
当日、鏡の前で時間を費やしていた。別に何も意識しなくていいのだけれど、なんだかんだで緊張する。恥ずかしながら、中2にして女の子と出かけるのは初めてだった。
変に思われるのも嫌なので、結局無難な格好に落ち着いた。まあ、これくらいなら女の子と一緒に歩いても大丈夫だろう。そう言い聞かせて高宮に会いに行った。
高宮の姿も、なんというか...普通だった。なんなら制服の方がいいような。メイクも薄めに見える。僕はほんの少しガッカリした後、安心した。僕と彼女の間に余計な気遣いはいらない。その事実が、僕らの距離を適切に保っていた。
映画はありきたりとも言える内容だったけど、キャストの演技が素晴らしくて、何度も心を揺さぶられた。やはり映画には映画の良さがある。
けど、何より普段と違うのは高宮の存在だった。誰かと一緒に観るだけでこんなにも変わるなんて。
場面はクライマックス。監督が必死に考えたはずの最大の見せ場。だけど僕は高宮のことが気になった。
高宮はスクリーンに見入っていた。監督め、あんたの作戦は大成功だ。
彼女の頬を涙が伝う。画面の光に照らされた横顔は、映画のヒロインよりも素敵だった。
「面白かったねー!私、つい泣いちゃったよ。」
「ああ、良い映画だった。」
もう一度高宮の姿を見る。恋愛モノを見た後だからだろうか、最初に比べて魅力的に感じてしまった。
服装はワイルド系で、高宮の可愛さとは合っていないかとも思ったけど、彼女の普段とは違う一面を知れたようで嬉しくなった。
メイクだって、高宮はもともと目鼻立ちが整っている方だ。むしろ余計な手間をかけない方が良い気もする。
少しだけロマンチックな気持ちになった後、現実に戻る。
「どう?良い経験になったでしょ?」
「そうだな、恋がちょっとずつ分かってきたよ。」
これは研究の一つに過ぎない。僕と高宮の間に余計な感情はいらないんだ。
寂しさが募る。でも本当に、今日は良い経験ができた。
それからも、図書館に入り浸っては調べていた。高宮は毎回のように答えを急かしてくる。
「それで、恋ってなんなのかなー。」
「うーん、まあ当然だけど『好き』って気持ちが大事だよ。憧れもあるし嫉妬もあって、一概には言えないけどさ、胸が高鳴るっていうの?誰かと一緒にいてそうなったら、それはもう恋かもしれない。」
「胸が高鳴る...ねぇ。」
彼女は何かを確かめるように繰り返した。その言葉の奥に何を隠しているのか、気になったけど聞けなかった。僕がそこを追求するべきではないと思った。
夏休みが近づいてきた。ここ2週間ほどは期末テストの勉強のために研究ができていなかった。そもそもここまで力を入れるものでもないけれど、調べるのが楽しかった。
図書館へ足を運ぶ。自分でも分かるくらい浮かれている。
気づけば図書館は2人の集合場所になっていた。でも、テスト期間は勉強している生徒で溢れかえって機会がなかった。
そのぶん、久々に2人だけで話せるのが嬉しかった。
「テストおつかれさまー。」
「お疲れ。」
「手応えはどう?私はなんとか無事に夏休みを迎えられそうだよ。」
「僕も問題なさそうだよ。無事に夏休みだ。...まあ、休み中は特にやることないんだけど。」
「夏祭りとか、行かないの?」
「行きたいのはやまやまだけど、1人で行ってもなぁ。自分が惨めになる」
「...私がいるじゃん。」
「おいおい、そんなこと言われたら勘違いするぞ?」
「なっ⁉︎チョロくなくなってる⁉︎前の翔太ならこれで顔真っ赤だったのに!」
「僕だって、伊達に研究してないから。どういう反応したらいいのか分かってきた。」
「くっ、いつの間にこんなに手強く...。」
「それで、夏祭りはいつだっけ?」
「あ、うん。8月の...12日だったかな。行くの?」
「これも研究。よく考えたら、夏祭り系のイベントは恋愛に欠かせないからな。」
「...そうだね、欠かせないね。」
「なんか反応鈍いな。で、僕は行くよ。高宮も行くんだろ?」
「うーん、どうしよう。」
「あれっ⁉︎今のって一緒に行く流れじゃないの⁉︎」
「いや、なんか...。」
「これは恋を理解するための大事な行動なんだよ。これを逃しちゃいけない気がするんだ。僕を助けると思ってさ、頼む!」
「そ、そこまで言うなら...。分かった、行こっか。」
「良かった!ありがとう!」
本当はもっとクールになりたかったけど、気持ちが抑えきれなかった。
僕が恋を研究しているのは、高宮に頼まれたからだった。彼女のために調べていた。彼女のためにも、夏祭りが必要な気がすると感じていた。
鏡の前に立つ。今度はそう時間はかからない。帯を確締めて、高宮に会いに行く。
会場は見たこともないほどの人だかりだった。それでも、高宮はすぐ見つけられた。浴衣が薄暮に映えて、周りの人よりもずっと美しく見えたから。
「すごく、可愛いよ。」
「それ、開口一番に言うセリフ?でも、ありがと。翔太も似合ってるよ。」
「正面から言われると流石に照れるな...。」
「それ、今の私の気持ち。」
笑い声が合わさった。
2人で屋台を見て回る。高宮と並んで歩く。それだけのことがこんなにも嬉しい。彼女の仕草は、やはりひとつひとつがとても可憐で、僕は目が奪われてばかりだった。彼女を見つめていると、心臓が跳ねて顔が熱くなっていった。
「そろそろ花火の時間かー。やっぱり夏祭りといったら花火だよね。」
「ああ...花火なら僕、良い場所知ってるんだ。ついてきて。」
「えっ?う、うん。」
高宮の手を引いて歩き出す。自分でも積極的すぎたかと思う。でも、こうしたかった。
「...こんな穴場があったんだね。」
会場のすぐそば、林の中に神社があった。いつから人の手が入っていないのか、今となっては誰も来ていないようだ。ここは鬱蒼とした林の中でも少し開けた場所になっていて、空がよく見えた。
「恋愛モノでさ、よくあるでしょ?こういうシチュエーション。僕もちゃんと調べておいたんだ。」
「ふふっ。なにそれ、彼氏気取り?」
「い、いや、研究だって!こういうのはしっかりシミュレートして確かめなきゃ!」
「...恋愛、か。そうだ、あれからどう?恋ってなんなのか、結論は出た?」
「...それなんだけど、結論は出せないってのが僕の結論だよ。」
「へ?ちょっと前は分かってきた〜とか言ってたじゃん。」
「その後もずっと考えてたんだ。でも考えるほど分からなくなっていった。だけど、それで良いんだよ。」
「なんか哲学的だね。」
「うん。恋ってのは、いくら考えたって仕方ないんだ。自分の中で勝手に大きくなって、抑えきれなくなって、気づいた時にはそれしか頭になくなる。だから何を考えようとしたって無駄なんだ。その人を想うとどうしようもない。そんな感じ。で、その感覚はまた個人で色々違って...」
だんだん何を言えば分からなくなってきたので、無理やり締めくくる。
「結局、恋ってそういうものなんじゃないかな。」
「...そっか。それが恋なんだ。」
高宮は納得してくれたのだろうか。何かを思い出すように空を見上げる。
「...じゃあやっぱり、私は先輩のことが好きだったんだなぁ。」
「え?先輩?」
突然の言葉に驚いた。鼓動が一瞬止まる。
「うん。あの人を見てるとドキドキして、ちょっと話せただけでも嬉しかった。あの人のことばかり考えてた。私1人じゃどうしようもなくて...だから告白したの。けど、フラれちゃった。」
なんだよそれ。
「道徳の授業覚えてる?大切な人とどう生きてくかってやつ。あの時さ、色々書こうとはしてたんだよ。でも先輩にフラれてすぐだったから、気持ちがグチャグチャで。気付いたら授業終わってた。」
なんだよそれ、恋について研究しようって言ったくせに、君は既に知ってたのか?
「ごちゃごちゃ考えてたら、自分が本当に恋をしてたのか、恋って何なのか分からなくなって。」
...ああ、そういうことだったのか。君は自分の気持ちをどう捉えればいいのかを知りたかったんだね…。
「もし自分の気持ちが恋じゃなかったって思えたら、開き直れたんだけど...。でも、翔太のおかげでやっぱり恋だったって分かった。ありがとう。」
「だけど...はぁー、これからどうしようかな。」
高宮は答えを見つけた。それでも、迷っていた。
それは僕も同じだった。
高宮の背中を押すこともできた。僕の目に映る高宮は、他の誰にも負けないくらい魅力的だった。今の高宮ならその先輩とやらも認めるだろうって、心の底から思った。
でも僕はきっと、君に恋をしている。
大切な人とどう生きていくか、どう生きていきたいのか、少しだけ分かった気がする。
だから
「僕じゃ、だめかな。」
呟くように言った。僕に出せる精一杯の声だった。
君が振り返る。潤んだ瞳を瞬かせ、その中に僕を反射していた。泣かれてしまうのではないかと覚悟していたけど、君は笑った。
「普通、フラれた話した後にいきなり告白するかなー。あ!あれかな?物憂げな表情の私に惚れちゃった?やっぱ翔太ってチョロイね。」
「う、うっさい!これは...研究!研究の続きだよ!僕たちは散々調べてきたけど、実験がまだまだ足りないだろ?今までの成果を無駄にしないためにも、実際に試して...」
「あっはは!焦りすぎだよ翔太〜。」
「まったく...僕の勇気をなんだと思ってるんだよ...。」
「うん...うん。いいよ、研究に付き合ってあげる。」
熱い想いが打ち上がっていく音がした。
夜の中に2人だけが照らされる。
僕と君の影が、ひとつに重なって伸びていた。
恋愛経験のない僕の作品としてはこれで十分...!!(つーか これが限界)
短編を書くのが好きですけど、もっと経験を積んで長編とか書けるようになったらいいな。