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二年間の休暇ってこと!

 「健!公立は青涼高校せいりょうこうこうで決めたけど、私立はどうする?本当に滑り止めでしかないと思うけど・・・」


 時間経つのって早い。

 手にしたスマホって中一のときのまま。

 スマホから聞こえる大阪の母の声。

 母がまったく家に帰らないのも中一のときのまま。

刑事だった父が亡くなり、母も特捜検事を辞めて弁護士になったときのこと。

父から助けられた人が、レストランやスナックのチェーン店の社長として大成功を収めていた。

その人からあるレストランの経営権を譲られた。


「お世話になったからどうしても恩返しをしたい」


ということだった。

実質的な経営は社長さんがやっているので、時々、母と一緒に店に行き、視察も兼ねて一緒に食事するのが、数少ないぼくらのスキンシップ‼︎

この前、一緒に食事したのって、いつだったかな?

弁護士の仕事整理したら法務省の仕事に専念するって言ってたから、これからも同じ状況だって思う。

 青涼高校・・・

 麻衣ちゃんが二年生の一学期まで在学していた高校・・・

 回りを見回す。

 冬空の下。学校の屋上。

 ぼく、たったひとり。

風が冷たい。

 校庭の木に残っていた葉っぱだろう。ぼくの前をひとつだけ舞った。

 空って青く冷たい。

 

「健なら私立なんて受けなくていいと思ってるけど」


 ぼく、なにも答えない。

 しばらく静かだった。


 「新しい電話番号、麻衣ちゃんに教えていい?メルアドも」

 「やめて!」


 すぐ返事!

 ぼくのスマホの番号もメルアドも、中一のときに替えた。lineもできなくなった。

 中一の六月まで毎日、電話していた人の番号は削除した。

 

 「じゃあ、自分から麻衣ちゃんにかけてあげて」


 ぼく、なにも答えない。


 「事情は麻衣ちゃんから聞いた。

 麻衣ちゃん、自分がぜんぶ悪いって泣いてた。

 早く直接話がしたいからって、一年でスコットランドヤード大学卒業した。

 最短記録だそうよ。

 健にたくさんプレゼント買って帰ったけど、直接渡したいからいまでもとってあるそうだよ。

 手紙読んだ?

 何通も届いたでしょう?」


 母が言葉を切る。

 一呼吸おいて答える。


 「大黒さんの手紙なんて読んでない。捨ててはいないけど・・・」


 母の小さなため息。


 「一度会ってちょうだい。

 よくふたりで話し合うこと」


 母の口調が鋭い。

 裁判のときみたい!


 「青涼入るなら力になりたいと言ってる」

 「大黒さん、忙しいんでしょう。

 警察庁特別捜査部大阪支局の捜査員なんだから・・・

 新しく設立されたばかりで忙しいって・・・

 警察庁のヨシ君にも聞いたけど、未来の幹部候補だって・・・」


 母が黙ってる。

 ぼくも・・・

 強い風が吹きつけた。

 もう一月なんだもん・・・


 「よく知ってるね。麻衣ちゃんのこと・・・

 ヨシ君にもいろいろ聞いたんだね。

 健って本当は気になってるんだね」


 ぼく、なにも答えられない。


 「麻衣ちゃんに話しておく」


 母の言葉が鋭い。


 「麻衣ちゃんなんかになにも言わないで・・・」


 電話が切れた。

 ため息・・・

 カバンから封筒を取り出す。見覚えのある筆跡。

 封筒の中に一枚の写真・・・

 警察庁特別捜査員。かっこよくグレーのスーツを着た麻衣ちゃんの写真。

 写真なんか送らなくていいのに・・・

 大阪から東京まで新幹線で三時間。

 すぐ僕のとこ、来ることできるのに・・・


 ぼくの憧れた正義の味方って・・・

 もういないんだ・・・



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