表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/94

麻衣ちゃんとのエピローグ③

 大阪の母から電話があったのは夏休みの最中。

 夕方。

 ぼく、台所でタマネギをむいていた。そばにカレールー。

 目が真っ赤。涙が止まらない。

 悲しいときより辛い。

 母といえば、仕事でほとんど家には帰らなかった。

 家政婦さんが週に一回来て、掃除や洗濯をしてくれる以外、まったくのひとり暮らし。


 「今晩は。ヘッドライトニュースです。

 キャスターの神梨鶴輝かみなしつるてるです」


 テレビの音声が聞こえる。

 ニュースの時間だ。


 「政府の諮問委員会である民法改正検討委員会の設立が決まり、代表に、元大阪法制大学学長。現在は京都文化大学の臼神光うすがみひかる名誉教授が内定しました。

 事務局長として弁護士の日下由美子くさかゆみこさんの参加が決まっています。

 日下さんは、父に警視総監や国会議員、法務大臣を務め、現在も政界、警察の御意見番として知られる山宮茂雄氏。従弟に警察庁官房長の吉村一弘氏。兄の大阪府警本部長の山宮一茂をはじめとして、親族や親戚に警察や法務省関係の幹部が多数いることで知られています。

 本人も元東京地検特捜検事を経て、現在はセクハラ、パワハラ問題に積極的に取り組む弁護士として知られています・・・」

 「同じ名前の女優さんがいますね。どちらもすごいキャリアですね」

 「本当ですね。特に弁護士の日下さんの場合、親族や親戚に・・・」


 スマホの着信音が聞こえたのは、ちょうどテレビのニュースの真っ最中。

 あわててテレビの音声を小さくした。

 母からの電話を聞く。


 「一応教えとくね。

 麻衣ちゃん、ロンドンのスコットランドヤード大学に入学が決まった。明日、ロンドンに出発するから・・・」

 「スコットランドヤード大学って優秀な警察関係者を養成するって大学・・・」

 「世界中の警察組織と提携している。日本でも警察庁が提携していて優秀な人材を送り出している。

 正式に大学として認められているから、卒業すれば大学卒業の資格が得られる。

 大阪法制大学と提携しているから、大阪法制大学卒業の資格も得られるの。

 成績がよければ最短一年半で卒業が可能。

 麻衣ちゃんならできると思う」 


 そんな大事な話・・・

 教えてくれなかった・・・

 ぼくらふたり、スマホの番号知ってるのに・・・


 「麻衣ちゃん、自分も母親のエリカさんと同じ特捜検事になるつもりだったけど、警察庁官房長のよし君が強く勧めたの。

 今度、警察庁に新しい部署をつくるんだそう。

 麻衣ちゃんを将来、そこの幹部にしたいみたい」


 母の声がだんだん遠くなっていく。


 「麻衣ちゃん、このこと、健には教えてないって言ってた」


 なにも見えなくなった。

 タマネギ切りすぎたみたい。


 「詳しいことはわたしも聞かないでおく。

 でもしばらく会えなくなるから、一応教えとく・・・」


いつのまにか電話が終わってる。

 テーブルに向って座る。

 ポロポロポロポロ涙が落ちた。

 どうしたって止まらない。

 もうタマネギの料理なんかやめよう・・・


 目をこすって真っ赤な目で、スマホの番号押した。

 こんなのひどい。

 すぐ、


 「つなげません」


ってアナウンス。

 目がずっとぼんやりしてる。

 苦労して、一時間かかって、でもどうしても伝えたくってline送った。


 <麻衣ちゃん


 イギリスに行くんですね。

 しばらく会えなくなってしまうから寂しいです。

 でも麻衣ちゃんなら、きっと優秀な成績で卒業できると信じています。

、麻衣ちゃんって、カッコいい正義の味方だから・・・

 また会えるのを楽しみにしています。

 麻衣ちゃんの部屋で言ったこと、本気です


                    麻衣ちゃんのこと大好きな健>


 ずっと起きてた。

 何度もスマホを見返した。

 だけど・・・

 麻衣ちゃんからのline届くことってなかった。


 夏休みの終わりに携帯ショップに行った。

 ニコニコ笑って用件聞く担当の女性に、


 「電話番号とメルアド変更したいんです」


って伝えた。

 ずっとがまんしてたけど、店を出てから思いっきり泣いた。


 カッコいい正義の味方なんていないんだ・・・

 少なくともぼくの前には・・・

 

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ