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安田さんが戻ったってこと!

 真っ暗な室内にぼくひとり。

 手足を手錠でベッドに拘束されたまま。

 まだ体中痛くて涙が止まらない。声出して泣いてた。

 涙で濡れたシーツが背中に当たる。

 窓から射し込む月光で少しずつ部屋の中が見えてくる。

 ずっと同じ光景だけど、先輩の姿がない。


 先輩ってぼくのこと・・・


 (慰謝料が払えないから、代わりに宿題やテスト勉強を教えるって先輩に泣きついてる)


 そう思ってるんだ!

 ぼくのこと、「仕事」の邪魔した仇って思って憎んでるんだ!

 だけど先輩・・・

 ぼく、先輩が悪いことするの、見たくなかったんです・・・

 だってぼく・・・



 どのくらい時間経っただろう。

 部屋のドア。外から鍵を開ける音。

 ポニーテールの彼女がボンヤリ見えた。

 電気が点く。

 安田さんの悲しそうな顔がハッキリ見えた。

 紙バッグ提げてる。

 ベッドまで来て、手錠かけられたぼくの手の平を握った。

 涙が、ぼくの顔にこぼれて落ちた。

 猿轡をはずしてくれた。


 「ごめんね。日下君」

 「安田さん。悪くないんだから・・・」


 痛みこらえて伝える。


 「先輩に分かったらまずいよ!早く戻って!」

 「カラオケに行ったけど、


 『気分が悪いから、ちょっと外で風に当たってくる』


って言ってある。

 大丈夫!」


 でも先輩って、すごく勘のいい女性ひとだし・・・

 安田さん、ぼくの体にかけられたタオルを取った。

 紙バッグからバンドエイドの大きな箱を取り出し、ぼくの体に大きめのバンドエイドを丁寧に貼ってくれた。

 タオルの代わりにジャージの上下を体にかけてくれた。

 それからピーナッッバターロールと牛乳パックを取り出した。


 「手錠はどうにもできない。ごめん」


 ぼく、首を横に振った。

 

 「いま、食べさせてあげる」


 安田さんのやさしい声。


 「安田!気分はどうだ!」


 聞き覚えのある冷たい声。

 ドアのところに先輩が立ってた。

 煙草口にくわえてる。


 「お前サ。

 気分悪いの、学校まで戻らなきゃ治らないんか?」


 先輩がベッドのとこまで来る。


 「なんだ。このパンは?」


 安田さん、下向く。


 「あたしに差し入れか!」


 ピーナッッバターロールと牛乳を取り上げる。


 「悪いな。あたし、ピーナッツバターロール、キライなんだ」


 先輩の口元が直角になる。

 目が白くなった。

 パンを顔に叩きつけられた。何度も何度も・・・

 袋の中で粉になってた。

 牛乳パックの牛乳、顔に流された。

 最後に思いっきり頬を殴られた。


 「死ね!バーカ!

 さっさと慰謝料払え!

 泣いてごまかせるって思ってんのか。

 甘いんだよ」


 髪の毛、強く引っ張られた。


 「明日、慰謝料払わせるからナ。

 あたしサ。てめえやてめえの家族、どうなったって構わねえんだよ。

 この意味、分かってんな。

 一晩、ベッドでよく考えてろ。

 あたし満足させなきゃ、ずっとこのままだからナ」


 口にまた猿轡押し込まれた。


 「安田!気分の悪いの治っただろう。さあ、来い」


 先輩が安田さんのこと引っ張って、部屋を出ていった。

 安田さんのすすり泣きが聞こえた。


  (ごめんね。安田さん・・・)






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