麻衣ちゃんとのエピローグ①
六月末。日付も曜日も、天気だって覚えてるんだ。
ぼくのスマホのホーム画面。
TDLで麻衣ちゃんとふたりで撮った写真。あれから十日も経ってないのに・・・
麻衣ちゃんが引っ越す前の日。
麻衣ちゃんのお母さんって大阪地検特捜部の検事。
麻衣ちゃんは学業の関係でお父さんと東京にいたのに、急に大阪に引っ越すことになった。
その日が、麻衣ちゃんの家で勉強教えてもらった最後の日。
麻衣ちゃんの部屋で、ワンワン泣いた。
麻衣ちゃんは泣いてなかった。
黙って僕の様子見てた。
ぼく、自分の持ってる勇気、ぜんぶ使ったんだ。
「麻衣ちゃんのこと、大好きです!十八になったら結婚してください!」
麻衣ちゃんは僕の顔見てなかった。
「先輩でしょう。また忘れた」
ラッピングした箱を僕に手渡した。
「ボールペン!しっかり勉強して。
泣くだけが100点満点にならないようにね」
そう言って立ち上がる。
「明日の引越しの準備がある」
ぼくに、
「帰れ」
って心で言ってる。
「麻衣ちゃん」
泣いたまま、声かける。
「先輩と呼ぶように言った」
机の上の本とか箱に入れ始めた。
「日下君のお母さんに頼まれた。
『わたしも忙しいんで、健の姉さんになってくれない?』
母からも言われた。
年も離れてるから、ハッキリ言って迷惑だった」
それが別れの挨拶なんて・・・
ぼく、スマホのホーム画面見せた。ストックしてあるTDLの写真もぜんぶ・・・
麻衣ちゃんの気持ち変えたかったから!
だけど麻衣ちゃんったら大きくため息。
どうして?
「みんなわたしがやった。スケジュール決めた!
事前にパスポート買ったり、列車の時刻しらべたり・・・
君って、ただわたしに手引っ張られて歩いてるだけ・・・
君は楽しかったもしれないけど、わたし、別に・・・
君のお母さんの代わりしただけだもん。
TDLの写真って、わたし別に保存してない。
削除した・・・」
本当なの?
麻衣ちゃんって自分のスマホ、僕に見せた。
ホーム画面。
ふたりで並んで立っている写真。
麻衣ちゃんと一緒の人って・・・
「令和日報」の看板記者の獅子内さん!
そういえば特捜検事のお母さんへの取材で知り合ったって・・・
ぼく、下向く。
「さあ、次はなに片付けるかな」
麻衣ちゃんから、もう一度出ていくようにって催促。
「明日、東京駅に見送りに・・・」
ぼくの声って・・・
たぶん泣いてたって思う・・・
「来ないで。獅子内さんと一緒に行くから」
キッパリ。
「東京駅でウロウロしてたら絶交だから」
どうしたらいいの?