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麻衣ちゃんとのステキな日々

 毎日普通に過ぎればいいんだけど、そうならないことってあるんだ。

 中部中学の正門出てしばらく歩いたところで、急に声かけられちゃった。


 「中部中学一年一組。日下健くさかけん君」


 振り返ったらふたりの男子中学生。ぼくと同じ中部中学のバッジ。

 ひとりが金髪にピアス。もうひとりなんか堂々とタバコくわえてるんだもの。

 見た目で判断しちゃいけないんですけど・・・

 ぼくのこと見てニヤニヤしてるし・・・

 やっぱりフツーの人じゃないって思います。


 「一学期の中間って学年十位だったよな」

 「すげえなあ。オレなんて十一位だ。下から」

 「オレら八組なんだけどサ。ちょっと助けて欲しいんだ。一緒に来てくれよ」

 「ごめんなさい。ぼく用事あるんです」


 嘘じゃないんだ。

 弁護士の母。超多忙でほとんど帰らない。

 今月って確か大阪でセクハラの民事裁判が大詰めだって・・・

 ぼくって夕飯のおかず買って、帰ったら洗濯しながら食事つくって掃除も少しして・・・

 一番大事なこと。

 深夜まで、期末テストと受験の勉強があるんです。

 あなたたちにつきあってられないんです。

 早くその場から立ち去ろうってしたら、ぼくのすぐ前・・・

 赤毛に長身の男子学生。

 やっぱりこの人たちにつきあうことになりそう・・・



 人気のない学校裏手の林。

 カーテンの代わり。林の中の大木が十数本。

 そして三人組に囲まれてる。

 かすかに帰宅の生徒たちの声。

 だけどあの子たちに、ぼくらの会話聞こえてない。


 「宿題かわりにやればいいんだ」


 赤毛の人に肩揉まれた。


 「日下君と友だちになりたいんだよな。怒らせないでくれよ」


 薄気味悪い笑い声。

 ぼく、ずっと下向いてた。

 でもハッキリ伝えた。


 「イヤです。自分でやってください」


 ホントのこと言うと、ぼく、


 「ハイッ」


って大声出したかった。

 だけど、平気でタバコ吸ってる男子の言いなりなんて絶対イヤだ!

 なんとかがまんしてた。

 でももう限界みたい。


 「イヤか」


 小声で聞かれた。

 頭こずかれる。

 ぼく、大きくうなずく。心臓止まりそう・・・


 「オイッ」


 こわい叫び声!

 悲鳴!

 顔上げたら・・・

 三人ともその場にうずくまってる。

 赤毛の人って鼻を押さえてる。指の間から血・・・

 ブレザーにスカート。長身の女性が三人を見下ろしてる。

 進学校「青涼高校」のバッジがまぶしい。

 スラっと長身。一メートル九十センチだって・・・

 セミロングの髪に美しく輝く横長の目。キリっと結ばれた口。

 少しだけ短いスカートから、長くてスラっとした脚。白のショートソックスがピカピカ輝いてる。


 「麻衣ちゃん!」


 一日会ってないだけで寂しい。


 「ごめん。健ちゃん!遅くなって!」


 ぼくに向かってやさしい声。


 「あんたたち。わたしの大切な幼馴染になにしてるの。

 このままじゃすまないから・・・」


 三人に向かって冷たい声。


 「チクショー」


 赤毛の人が襲いかかる!

 麻衣ちゃんが振り返る。

 鼻血が飛ぶ。地面に赤い点。

 また悲鳴。

 赤毛の人が頭を押さえてうずくまる。

 


 十分後。

 三人の男子生徒ったら蒼い顔で地面に正座。

 ずっと下向いたまま。

 泣き声まで聞こえる。


 「わたし、青涼高校二年。大黒麻衣おおぐろまい

 名字聞いて思い出さない」


 麻衣ちゃんったら自信満々の口調。

 いつ聞いたってかっこいい!


 「と、大阪地検の特捜検事・・・」

 「ちゃんとテレビ見てるじゃない。わたしの母。

 カレのお母さんもね。元特捜検事の弁護士。

 日下由美子くさかゆみこって知らない?」

 「セ、セクハラやパワハラ裁判の・・・」

 「カレのお母さん、特別視されるのイヤがって学校には自営業って報告して、名前も『通称』使ってるけど…

 バカやったね。

 あいまいにするつもりないから。

 学校やあんたたちの保護者がきちんと指導しなかったらどうなるか分かってる?」

 「冗談!冗談だったんです」


 赤毛の男子って涙声。まだ鼻血がポタポタ・・・


 「ぜんぜん笑えない冗談なんだけど・・・

 『宿題やれ』なんて」

 「『エンタの神様』見て勉強します。許してください」

 「ダメッ。もうすぐ生徒指導の先生が来るから」


 麻衣ちゃん、僕の腕を取って歩き出した。

 なんだか恥ずかしい。

 でも嬉しい。


 一緒に駅前通り歩くだけでウキウキする。

 ステキな幼馴染に向かって、思わず大声出してた。


 「麻衣ちゃんって正義の味方!かっこいい!」

 「また麻衣ちゃんって。先輩って呼びなさい」


 麻衣ちゃんったら怒ってるけど笑ってる。やさしく頭なでられた。


 「四歳年上の高二の幼馴染に感謝しなさい」

 「感謝します!」

 「じゃあ、なにしてくれる?」

 「一生・・・」


 ちょっと緊張して立ち止まる。麻衣ちゃんがぼくのこと見てる。

 ぼく、大きく深呼吸。


 「一生、麻衣ちゃんから・・・」

 「先輩でしょ」

 「ごめんなさい!

 一生、先輩から・・・」


 ぼく、しっかりと麻衣ちゃんのこと見つめた。


 「離れません。なんでも言うこと聞きます!」


 言ってからすぐ下向いた。

 麻衣ちゃん、怒ってるかな?

 なんにも言わないもの・・・

 やっぱり怒って・・・

 急に麻衣ちゃんのカバンがぼくの目の前!

 なにも考えずにカバンを受け取る。


 「約束したよ。じゃあ、わたしのカバン持って!」


 麻衣ちゃんのこと見つめたら、ニコッて目を輝かせてる。


 「ウソッ」


 カバンを自分で持って、ぼくの手握ってくれた。


 「小さいときからずっと隣同士で一緒だったんだ。これからだって!」


 心ウキウキ!スキップして歩きたい気分。

 今日って日がずっと続けばいいんだけど・・・


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