フルートをバックに謎解きしたってこと!
みんなも覚えているよね。
数日前。林の中。
先輩ったら、山口さんと平松さんを痛めつけた後、ふたりを車でアジトへ運ぶため、自分と関係のある地下社会のメンバーを呼んだ。
王さんをはじめ、組織の人たちが来てふたりを車に乗せた。先輩たちも一緒に車でアジトに向かおうってした。
ぼく、ふたりを助けたかったから先輩のポケットに、
〈山口さんと平松さんをすぐ自首させなければ警察に通報する〉
ってメモを入れた。
先輩、メモを読み、あわてて自分ひとり戻ってきた。
先輩たちが、山口さんと平松さんを車に乗せる現場にぼくの姿なんてなかった。
だからどうやってポケットにメモを入れたかって聞いてるんだ。
それから今日、僕が梅花高校に来たことだって、先輩から見たら不思議なんだって思う。
どうして、先輩が梅花高校の生徒だって知ってたのか?
ぼく、先輩の顔、正面から見つめた。
先輩もぼくのこと、じっと見てた。口元に冷たい笑み。
先輩の取り巻きの三人も同じ。
ぼく、一歩前に出た。
先輩のギラギラした目がかすかに左右に揺れた。
口元から笑みが消えた。
「おい!」
先輩が美柳さんに声かける。
美柳さんが、フルートのバッグを差し出す。
先輩ったらバッグ開け、フルートの頭部管、主管、足部管を組み合わせた。
フルートを手で弄んでる。
「日下君。どうしたの?早く話してみろよ」
先輩が声かける。
「サキさん!」
大澤さんがそっと近づく。
「フルート、ここじゃまずいです!」
先輩がうるさそうに首振る。
「大澤。お前頭いいけどサ」
不機嫌そうな口調。
「あたし、バカじゃねえからサ」
ぼくのこと見る。ギラギラした目から、すごく明るくて、よく見たらすっごく暗い光がぼくの方に飛んだ。
「日下君にプレゼント・・・」
先輩がフルートを口にくわえた。
モーツァルトの『レクイエム』。
この前とはちがう。
スローで物悲しい響き。
ゆっくりと長い手が伸びてきて、ぼくらをしっかりとつかみ、闇の世界に引きずっていく。
そんな光景が見えた。
「先輩とふたりで話をしたかったからメモを書きました。
<山口さんと平松さんをすぐ自首させなければ警察に通報する>
このメモ読んだらすぐ戻ってくるって思いました」
『レクイエム』のメロデイが、突然激しい響きに変わった。
闇の世界に引きずり込まれた人間の絶望の叫び!恐怖!必死で生き延びようってする執念!
そしてまたスローなメロディ。
抵抗空しく闇の中に闇として消えていく・・・
それってぼくのこと?
「メモ紙の裏にも英語でこう書きました。
<must not read my paper!(あたしのメモ見るな!)
Kill you!(殺すぞ!) hung you!(殺すぞ!)
My brother is Mr CHIN!(陳さんがバックにいるんだ!)
TSUKIKAGE SAKI(月影サキ)>
それからメモを書いた紙で小石を包んで、手伝いに来ていた王さんの部下の足元に放り投げました。
すぐにメモ紙は石から離れました。
王さんの部下がメモを見つけました。
日本語の文章は分からない様子でした。
あまり日本語ができないってことは、先輩との会話で分かってました。
裏の英文を読んだら緊張した顔になりました。
先輩のポケットかなんかから落ちたって思ったんでしょう。
『とんだもの拾った。
彼女のメモをなんか持ってたら大変だ!
落ちたのを偶然拾ったなんてうまく日本語で説明できない。。
陳秀明さんの妹分だからひどい目に遭わされる』
こっそり隙を見て先輩のブレザーのポケットに入れていました。
見つからないようにそっと入れたから、メモ紙の端が外に出ていました。
ぼく、それをねらってました。
思った通り、すぐ先輩、ポケットにメモが入ってるのに気がついた。
だけど英語の文章は読めなかったので、ぼくのトリックに気がつかなかったんです」
唐突に『レクイエム』が終わった。
先輩が取り巻きの三人を見回した。




