第6話 ラ ネイジュ
「ジア、ちゃん……」
凍りついた事により脆くなったロープを外し、気を失っているジアを背負い、ブレンを引きずって小屋の外へ出るアイバーン。
「アイバーン‼︎」
運良く捜索に来ていたパドレーに発見されるアイバーン。
「パ、パ……」
パドレーの姿を見て、安心したように倒れるアイバーン。
「アイバーン、ジア、ブレン。みんなこんなにボロボロになって……済まない! 私がもう少し早く駆けつけていれば!」
「パドレー様!」
小屋の様子を見に行った兵士が、慌ててパドレーの元にやって来る。
「どうした⁉︎ 犯人グループは見つかったのか?」
「ハイ。あ、いや、それが……とにかくこちらへ」
「この子達を頼む! すぐに治療を!」
「ハイ‼︎」
アイバーン達を兵に託し、小屋の様子を見に行くパドレー。
「な、何だこれは⁉︎」
信じられない光景に、驚愕しているパドレー。
「一体誰がこんな事を?」
氷漬けにされた男に触れて確信するパドレー。
(やはりこの魔力はアイバーン。確かにアイバーンには秘めた才能のような物を感じてはいたが、まさかこれ程とは……)
「いかが致しましょうか? パドレー様!」
「まだ生きている者も居るかもしれん! 情報を聞き出す為にも、早く救出せよ!」
「ハッ!」
(まだ子供だと侮っていたが、ジアと言いアイバーンと言い、やはりちゃんと力の使い方を教えねば、かえって危険なようだな……)
そして一夜明けて、またアイバーンを捜しているジア。
「アイくーん‼︎ アイ君ってばー‼︎」
そんないつものジアに、いつもの様に声をかける子供達。
「ジア! もう起きて大丈夫なの?」
「平気よ、あれぐらい。お肉食べて一晩寝たら治ったわ!」
「いや、それはママ達の治癒魔法のおかげだと思うけど……」
「それよりアイ君は?」
「知らないけど、またいつもの嘆きの丘じゃない?」
「また〜⁉︎」
模擬戦で負けた子や、辛い事があった子達がみんなここで落ち込む事から、いつしかこの丘は嘆きの丘と呼ばれる様になっていた。
みんなの予想通り、その丘の上で体育座りをしているアイバーン。
「アイ君、何やってんのさ?」
「ジアちゃん、起きて大丈夫なの?」
「もうこの通り、ビンビンよ!」
「ピンピンだと思うけど……」
アイバーンの横に座るジア。
しばしの沈黙が流れた後、口を開くジア。
「昨日の事……全部パパに聞いたわ」
「……そう……」
「助けてくれて、ありがとうね……」
「うん……」
気の無い返事を返すアイバーンに苛立つジアが立ち上がる。
「何でアイ君がそんなに凹んでるのさ⁉︎ もしアイ君が助けてくれなかったら今頃あたし、どうなってたか分からないんだよ⁉︎」
「ジアちゃんを助けられた事は凄く嬉しい。でも僕は、沢山の人を傷付けた」
「結局みんな生きてたんだからいいじゃないのさ! それにあんな奴ら、もっと酷い目に遭わせたっていいぐらいよ!」
「うん……」
しかし、尚も落ち込んだままのアイバーン。
「もう! 何なのさ⁉︎ 一体何が気に入らないって言うのさ⁉︎ 言ってくんないと分かんないわよ!」
怒りながら、再びアイバーンの隣に座るジア。
しばらく黙っていたアイバーンが、ようやく話し始める。
「ジアちゃん前に、雪が見てみたいって言ってたよね?」
「え⁉︎ ええ、そうね。あたしがパパに拾われた時には雪が降ってたって聞いたけど、それから今まで一度も降ってないからさ。雪がどういう物なのか見てみたいなって……」
「じゃあ、見せてあげるよ……《ダイヤモンドダスト》」
そう言ってアイバーンが両手を空に掲げると大気がキラキラと輝き、そしてそれは次第に雪へと変わり降り注ぐ。
「うわあー! 綺麗……」
「本物の雪とはちょっと違うみたいだけどね」
「ううん! 凄く綺麗……ハッ! もしかして、アイ君が氷魔法を覚えたのって……」
「うん。ジアちゃんに雪を見せてあげたかったから」
「アイ君……」
ジアの頬が赤く染まる。
「そっか……ゴメンね。ありがと、アイ君……」
「ん……ジアちゃん。僕、王国騎士団に入ろうと思うんだ」
「え⁉︎ だってアイ君、戦うの嫌いなんじゃ?」
「うん。でも僕、今回の事で良く分かったんだ。人を傷付けたくないなんて言ってて戦わなかったり、戦わないといけない時に力が無かったりしたら、誰も守れないんだって」
「うん。確かにね……でもアイ君なら、必ず騎士団に入れるよ」
「ありがと。僕、頑張るね」
優しくアイバーンを見つめていたジアが、身震いをする。
「あ、ごめんジアちゃん、寒かった? 雪、止めるからね!」
「ううん、いいの! こうしてればあったかいから」
そう言って、アイバーンにもたれかかるジア。
「え〜⁉︎ そんなんじゃ寒いでしょ⁉︎ 魔法止めるから!」
「まだ眺めていたいからいいの!」
「だって僕が魔法使ってるんだから、僕に触ってたら余計に寒いよ?」
「いいの! このままでいいの!」
「ええ〜⁉︎」
相変わらず鈍感なアイバーンであった。