第5話 早くもやって来たシリアスさん
アイバーン達が大ピンチな頃、孤児院に居るパドレーの元に、ひとりの騎士風の男がやって来る。
「パドレー様!」
「何事だ⁉︎ こんな所まで」
「ハイ、それが……」
兵士より事情を聞くパドレー。
「何だと⁉︎ 魔石の裏取引⁉︎」
「ハイ。それがこの近くで行われるという緊急情報が入りまして、至急パドレー様にもお伝えするようにと……」
「むう……」
対策を考えるパドレーが、アイバーン達の身を案じる。
(まさか、あの子達と出くわしたりしないだろうな?)
「分かった! 至急私も現場に向かう!」
「お願いします!」
気を失っていたアイバーンが目を覚ます。
「ん〜。僕、どうなって……?」
「やっとお目覚め? 頼りになる王子様?」
隣に居たジアが、嫌味っぽく言う。
「ああ〜、ジアちゃん無事だったんだね〜? 良かった〜」
「これのどこが無事なのさー⁉︎ 依然として大ピンチのままよ!」
小さな小屋の中の柱に、ロープでくくりつけられているアイバーン達。
「はあ〜、ブレンはやられたっきり目を覚まさないし、アイ君は瞬殺されるし、何て頼りにならない男達なのかしら」
「仕方ないよ〜。だって相手は大人だもん〜」
「それにしたって、少しは抵抗してよね〜」
アイバーン達の話し声に気付いた男が近付いて来る。
「目が覚めたか? ガキ共。それにしてもオメェ、カッコつけて出て来た割には一瞬でやられたなー? 大人をナメるからこういう目に合うんだぜ? よく覚えとけよ!」
「うん。覚えたからもう帰っていい〜?」
「帰すかっ!」
「オイ、来たぞ! 仲介人だ!」
小屋の中に居る男達とは別に、風貌の違う別の男が小屋に入って来る。
「お待ちしてました!」
「おう。現物見せろ」
「ハイ。こちらです」
ひとりの男がテーブルの上に置いたカバンを開くと、中には大量の魔石が入っていた。
その魔石をいくつか手に取り、品定めをしている仲介人の男。
「フッ。中々上質だな」
「ええ。何しろ魔石の一大産出国、リーゼルから密輸した物ですからね。品質は折り紙付きです」
「いいだろう。約束の金だ」
そう言って同じように、持って来たカバンをテーブルに置く仲介人。
確認する、売人の男。
「確かに。今後とも、どうかご贔屓に」
「おう、また頼むぜ。じゃあな!」
「ああ、お待ちください! 実は今日は、もうひとつ買って頂きたいものがありまして」
「あん? 何だ?」
「こちら、なんですがね」
そう言ってジアと柱を繋いでいたロープを解き、仲介人の前に連れて行く売人の男。
ジアは後ろ手に縛られたままだった。
「イヤ! 離して! 変なとこ触んないで! チカン!」
「ジアちゃん!」
「やかましいガキだな? だが、中々可愛い顔してやがる。その手のマニアに高く売れそうだな?」
「でしょ? しかもこのガキ、なにやら怪しげな魔法まで使うんですよ」
「ほう。そいつはプレミア価値が付きそうだな。いいぜ、買い取ってやる」
「ありがとうございます!」
ジアの頬を手で掴み、舐め回す様にジアの顔を見ている仲介人の男。
「ゔゔー、気持ち悪いー!」
「ヘッ、まだガキではあるが、見れば見る程可愛い顔してやがる。変態共に売らねえで、俺が貰ってもいいかもな」
「ハハッ、お金さえ頂ければ、後はご自由に」
「ジアちゃんを返せ‼︎」
「うるせーぞ! ガキ!」
「グフッ!」
繋がれたままのアイバーンの腹に、蹴りを入れる男。
「アイ君⁉︎ アイ君に何すんのさ! この屑共‼︎」
パチーン‼︎
「アウッ!」
仲介人の男に手の甲でビンタされ、床に倒れるジア。
「テメェは俺が買ったんだ‼︎ 俺が買った以上、テメェは俺の所有物だ‼︎ 所有物が主人に逆らうんじゃねぇ‼︎」
激しく叱責した後、ジアの腹を蹴りつける男。
「グウッ‼︎」
「‼︎」
「分かったらさっさと立て‼︎」
ジアを掴み起こそうとした男が、辺りの只ならぬ気配を感じ取る。
「な、何だ?」
「……触るな……」
ボソリと呟くアイバーン。
「あん? 何か言ったか? ガキ」
「……ジアちゃんに、触るな……」
「ハッ! そんな様で何が出来るってんだよ? 口だけボーヤ⁉︎」
ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら、アイバーンに近付く男。
その時小屋の中には、猛烈な冷気が漂っていた。
「オイ! 何だか寒くねーか?」
「ああ、俺もさっきから急に寒くなって……オイ! 足下見ろ‼︎」
「何いっ⁉︎ 何だこりゃあ⁉︎」
既に小屋の床一面に氷が張り、男達の足をも凍りつかせ始めていた。
「氷魔法⁉︎ いつの間に⁉︎ あのガキか⁉︎」
倒れているジアを見る男達。
「いや、女のガキは気を失ったままだ!」
「じゃあ一体誰が⁉︎ ま、まさか⁉︎」
男達がアイバーンの方を見ると、先程アイバーンの腹を蹴りつけた男が、全身を氷に覆われ固まっていた。
「あのガキだああ‼︎」
「ヤ、ヤベェ‼︎ あいつヤベェぞ‼︎」
「ここに居たら氷漬けにされちまう! 逃げろー‼︎」
だが、アイバーンの近くに居た者程、既に動く事すら出来ずにいた。
「う、動け……カハッ!」
「た、助け……」
男達が次々に凍り付いて行く中、辛うじて動ける仲介人の男が、魔石の入ったバッグとジアを抱えて逃げようとする。
「じ、冗談じゃねえ‼︎ こんなとこであんなガキにやられて死んでたまるかー‼︎」
「汚い手で……ジアに触るなああああー‼︎」
「かっ!」
アイバーンが叫んだ瞬間、小屋の中に居たアイバーン、ブレン、ジア以外の全ての人間が、物言わぬ氷の彫刻となった。